ニュージーランドは案の定接種率を人質にしている

ニュージーランドではデルタ株の感染に伴うレベル4ロックダウンを行い、その後レベル3に緩和はしたが、緩和したと単に感染者数が増加に転じ、政府は朝令暮改のルール変更を余儀なくされている。

個人的には、まず個人間のプライベートな空間での交流を最小限とはいえ許可した時点で感染者数など増えるし、感染経路もわからなくなることは自明だと思う。

例えば、公的な公園に来ることは許可する、はまだいいが、友人宅の庭でバーベキューを許してしまえばもはや人々の行動追跡は不可能だ。なぜなら個人の家にはQRコードが張られていないからだ。

感染者数が減らないことから、ジャシンダ・アーダーン首相は先週にレベル3ロックダウンフェーズ1の2週間延長を決定した。そして今日、「今後どうするかの重大発表」を行った。

正直言うと彼女の発表には何一つ驚くポイントがなく「やっぱりか」というのが正直な感想だった。

まず、オークランドが90%の接種率を達成したら、トラフィックライトシステムを開始する、といっているのだ。このシステムは、赤(レベル2.5)、黄色(レベル2)、そして青(レベル1)に分けられる。

とうとうワクチン接種率を人質にロックダウンを運用し始めた。懸念したとおりだった。

今のオークランドは、レベル1になるまで以下のステップを踏まなくてはならなくなった。

1.レベル3、フェーズ1
2.レベル3、フェーズ2
3.レベル3、フェーズ3(大体2)
ーーー接種率90%達成ーーー
4.トラフィックライト赤(レベル2.5)
5.トラフィックライト黄色(レベル2)
6.トラフィックライト青(レベル1)

今回の発表で、レベル3の3ステップについては言及はあったのだろうか、レベル3、フェーズ3とトラフィックライトの赤はどう違うのか、重なる点はあるのかどうなのか、など、疑問は尽きないが、人々はもはやこの3つのフェーズのことは忘れたのだろうか。

ニュージーランドは、というよりも、世界的には予防接種を全国民を対象に義務化するということは達成できていないように見える。これについては簡単で、予防接種という、身体に針を刺して薬品を体内に注入することを義務化する、ということはできない。

日本でも予防接種は「やらないこととかありえない」という空気があるだけで、実はやらないことを選択することはできる。やらない場合に、やるようにしつこく説得し続けられるというだけでしかない。なんとなくみんな当然義務のように話してくるため、うっかり予防接種しているというのが実態だったりする。

したほうがいいかどうかは個々人の思想の問題なので、そこには触れない。

ニュージーランドでも当然のことながら予防接種は義務ではないし、こちらの医療は予防接種を断ったとしてもそこまで食い下がられることはない。

今回の政府が発表したトラフィック・ライト・システムは、ワクチン接種率90%が発動条件なので、ワクチン接種率90%を超えない限りはレベル2になることはない、といったようなものでもある。

強制はしないが、レベル2になってほしいなら、自由が欲しいなら予防接種を受けろ、というメッセージを暗にほのめかすという非常にいやらしいことをし始めたということでもある。

例えば、赤のケースを考える。市中感染が発生したとき、赤になる。この時、接客業などは営業停止しなくてはならないが、フル接種が完了している場合に限って、ルールが緩和される、と説明されている。これはつまり、ワクチン接種した人だけはロックダウンでも自由にしてもよい、ということだろう。そう考えるのが自然だ。

市中感染が発生して、赤になったら、ワクチン接種をしていない人たちはレストランに入ることは禁止する。ワクチン接種をしているならレストランに入っていい、というわかりやすい説明だ。もっと考えるなら、ワクチン接種していないなら家から出るな、位のルールにする可能性すらある。

これを差別と断じるのか、防疫の観点におけるあるべき姿なのかはわからないが、今後ワクチン接種をしていない人たちはレベルによってはその間社会から締め出されるということでもある。

いかなる社会においても、ワクチンに対して拒否反応を示す人々はいる。それは、何らかの思想を持ったような人だけではなく、体内に注射器を使って薬物を注入することに忌避感を持つ人々だ。

もうじき経口薬ができるならそれまで待ちたい、もっと薬がこなれてから使いたい、自分なりに吟味したうえで薬を選択したい、ジェネリックや不活化ワクチンができたらそっちを選択したい。

こういう人々も少なからずいるだろうが、今回の政府がやっていることは「お前らのわがままのせいで社会が迷惑をこうむっているんだ」という同調圧力に他ならない。

ワクチンが一体どういうものか、という説明も実はニュージーランドではあまりされておらず、ワクチンを接種したかどうか、ばかりがニュースになる。ニュージーランドの啓発CMでは「ワクチンを接種しましょう!今すぐ会場へ!」というものしかない。

逆に言うと、これだけのことでワクチンを打つ人がこの国には人口の85%いるということでもある。

ワクチンの副反応で死んでしまった、一生苦しむ障害をおってしまった、という人は果たしているのだろうか。糖尿病などがある場合はワクチンが危険なことがあるということは聞く。

それでも何か起こる確率が0ではないという点において、やはりリスクを嫌う人は嫌なのではないか。特に「最悪死にますが10万分の1です」といわれたら、嫌な人は絶対にいる。

そういう人々の気持ちを置き去りにして、「とにかく接種率90%だ!それまでレベル2はないと思え!」という国のやり方には同意できない。

そういうわけでニュージーランドに来ることはお勧めしない。

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