小料理屋書評シリーズ!井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』 番外編 【一万円札の原価の話を好む人たちの誤解】

←前回の記事(その3)

(にゅんさん、店の外で夜空の星を見ている)

(しばらくしておかみも外に出て声をかける)

おかみ にゅんさん、少しは落ち着いた?

にゅん おかみ。。。

おかみ そろそろいいかな。何を考えていたの?

一万円札の製造原価との差額が「益」だという与太話

にゅん あのさ、「一万円札の製造原価が20円だから、一万札を発行すると9980円が利益として生み出されることになる」って与太話はどうして出てくるんだろうかって考えていて。

おかみ 統合政府は通貨の発行者で、そうするとお札を渡すっていうのは「借用証書を渡す」ことに他ならないから、むしろ統合政府の資産「減」になるね。受け取った民間は資産の「増」だもんねえ。だから、一万円の支出をするためにいくらかけるんだよって話なんだね。そんなんもん益じゃないだろう、損やんっていう。

にゅん うん、だから「原価が安いほうが好ましい」ならわかるんだ。でも財務省の榊原さんだっけ、わざわざ四万円だかの費用を余分にかけて十万円硬貨を発行して、それが手柄になったとか。

おかみ それねえ。むしろ単なる両替より悪いもので、投機を煽る側面しかないような。。。

にゅん うん。おかみはよくわかっているなあ。

おかみ にゅんさんのおかげだよ。。。

「一万円札の原価」話をするのがリフレ系の人に多いのはなぜ?

にゅん それで、この話するのって井上さんだけじゃなくて、高橋洋一森永卓郎、若田部昌澄(日経新聞2016年6月17日)、あたりかな? 若田部さんなんか今や日銀副総裁だもんなあ。なぜかリフレ派と言われる人ばかりなんだ。なにか秘密があるんじゃないかなっていま考えてて。

おかみ 井上さんも、まあ、世間ではそのカテゴリーだよね。

にゅん にゅんも以前はリフレ政策に共鳴していたから、そういうものかなーとは思ってた。

おかみ あはは。でも、確かにどうしてあの人たちこの話が好きなんだろうね。今や笑われてるだけなのにね。

にゅん いや、井上さんが堂々とこの話をMMT紹介本に肯定的に書いてしまうように、結構キャッチーで受け入れ易い話なんだよ。でも、どうしてそうなるのか、やっとわかった気がする。

おかみ ほうほう。

にゅん うん。どこか、通貨の発行者が中央銀行だと思っている人たちなんだね。

おかみ そこなんだ!

にゅん おかみはもうわかっている通り、通貨の発行者は政府だよね。

おかみ さすがにそれはもうわかった。MMTで。ええと、「通貨が発行される」、まあ貨幣でもいいけどつまり、「民間の純金融資産が増えるのは政府支出の支払いがなされる瞬間だけ」、だったよね。

にゅん そうだよね。これがわかっていれば、貨幣増は政府支出と同額なんだから、その物理的な素材が何であるかは関係がないわけだよね。

おかみ うん。

にゅん だけれども。金本位制のイメージを引きずって、お金っていうのは中央銀行が地下金庫に持っているゴールドを分配するための証券だよというイメージが消えない人だと。。。

おかみ そうか。中央銀行にしてみれば、お金に含まれているゴールド成分は少なければ少ないほど「お得」ってことになるわね。

にゅん そういう感覚で、昔の金貨とかは金の含有量が多かったのが、お札になると紙と印刷代だけにになって、預金になるとゼロ円になってそれだけ儲かる!。MMTてこれか!っと思うのかな。

おかみ そうだねえ。結局、貸付資金説やん、みたいな。

にゅん そうだね。井上さんもここを突破すれば「政府が民間銀行からお金を借りる」とかおかしなことを書かなくて済むようになるし、まだ疑問に思っておられる「金融政策の無意味さ」や、「JGPを導入しないことの不合理さ」がわかっていくと思う。そうすれば、素晴らしい教科書ができるかもしれないね。

(にゅんさんの背後で、いつのまにか大将も話を聞いている。)

大将 ただねえ。たぶんそう簡単じゃないよ。

にゅん わ!大将びっくりした。

大将 主流の言説っていうのは金融資本の論理と結託してるからね。そう簡単には崩れない。考えてみろ。日銀の中に若田部と原田がいる世界なんだぜ。

おかみ 帝国。。。まあ、中に戻って続きやろうか。

にゅん まあ、とにかく、通貨の発行者は政府\(^o^)/

おかみ いつものにゅんさんに戻った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?