小料理屋書評シリーズ!井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』その2 第一章

前回の続き

おかみ 第一章『なぜいまMMTが注目されるのか?』のところ、読んだわよ。

にゅん おおありがとう。で、その、「MMTが注目されている理由」ってわかった?

おかみ え?あれ...? んーわからなかった\(^o^)/

にゅん もう一回読んでみて。にゅんはここ読んで、むしろよくある「MMTが取るに足らない理由は何か」っていう内容の記事とそっくりだと思ったんだけど。

(おかみ、もう一度読む)

おかみ 節ごとに確認しようよ。最初は「日本は「衰退途上国」」っていう節。ここは「デフレ不況」がいかに酷いかって話ね。自殺の問題、賃金や企業の時価総額が伸びない問題、企業や政府の「デフレマインド」の影響ではないかと言っているよ。

にゅん 前回話した通り、それが問題の主流ビューでしょ。

おかみ 確かに。デフレ不況が原因だとするものの見方ね。

にゅん その上で次節は「消費増税はなぜなされたのか?」。いきなりこれ。

およそ以上に述べたような流れで日本が衰退への途をたどっているとするならば、この国を再興するには、デフレ不況からの完全な脱却を果たし、デフレマインドを克服する以外の道はありません。詳細は省きますが、恐らくは二パーセントを超えるインフレを一〇年近く維持しなければ、デフレマインドを滅却することはできないでしょう。

おかみ おおお。にゅんさんが言う主流ビュー全開しまくりだね。

にゅん 論旨としては「こんなデフレ不況にもかかわらず消費増税が実行されてしまった。その大義名分は政府のプライマリーバランス黒字化目標とか財政難というストーリーにあった。」と言う感じ。そこで次節のMMTにつなげるわけだね。

おかみ 次節は「MMTと政府の借金」ね。MMTがなぜ注目されるか、いよいよこのへんから書いてあるのかな?

にゅん ここでは、「MMTによれば財政破綻はしない」という話がまず述べられている。でも、直後には、その同じことは財務省のホームページにもあるし、「主流派の理論について解説した書籍である『新しい物価理論』にもこう書かれています。」ってなってるわけ。結局のところ、主流派でも同じ結論は出るんだと。

おかみ じゃあMMT要らんやんっていう\(^o^)/

にゅん 実際にそう言っている人たちと同じ論法なんだよね。でもまあMMTが肯定的な感じではあるから、大丈夫かなあと思いつつ気になる個所を拾っていこう。いきなりのここからかな。

MMTによれば、円を発行することのできる日本やドルを発行することのできるアメリカでは、財政破綻することはあり得ないというのです。

おかみ 問題あるの?

にゅん 彼ら、こうは言わないと思うんだよね。にゅんは見たことが無い。「財政破綻しない」じゃなくて、「自国建て国債はデフォルトしない」はよく言うね。財政破綻は英語で何だろう、economic collapseかな? でも、それは起こり得るでしょ。で、そうなったとしても「自国建て国債をデフォルトする必要はない」わけだしなあ。

おかみ 筆者はMMTの人よりめっちゃ大きく出ちゃってるわけだね。

にゅん 次はここ。ここ書かれている「政府の借金」って何だと思う?

MMTによれば、政府の借金そのものが問題ではありません。日本政府の借金が二〇〇〇兆円になろうが三〇〇〇兆円になろうが、それ自体を恐れたり不安に思ったりする必要はないということになります。
ただし、政府の借金が増えることによってインフレになる可能性はあります。それゆえに、政府の借金額は過度なインフレにならない程度にとどめておかなくてはなりません。

おかみ まあ「国債」かな?

にゅん だよねえ。もしここで言う「政府」が中央銀行込みの統合政府なのだとすればこの「政府の借金」はベースマネー(中央銀行の負債)と国債(政府の負債)の合計と言うことになるから、もしそうなら、きわめてMMT的にできたところなんだけど、そうではないよね。

おかみ うん。でも「国債」だとしてもMMT的にはおかしいね。だってMMT的には国債が増えるのは大問題...だったよね。

にゅん そうなんだよ。格差を拡大する装置だからね。で、こうくるかあ。「ただし、政府の借金が増えることによってインフレになる可能性はあります。」

おかみ ああ、これMMTの人が言わないやつ。

にゅん 「借金が増えることによって」とは言わないんだ。「財政赤字が大きすぎることでインフレになる可能性はある」と言ってくださいよと。さらに、別の原因でインフレになる可能性もある、みたいにね。

おかみ そうだね。この言い方を「MMTによれば」というのは反則だわ。

にゅん もう一つ引用するよ。

日本銀行(日銀)は、インフレ率の目標を二パーセントにおいています。二パーセントが妥当な目標だとすると、政府はもっと借金して支出を増やすべきだということになるでしょう。増税どころか減税すべしということになるし、消費税率は五パーセントに引き下げられるべきかもしれません。

おかみ にゅんさんたちが嫌う財政によるインフレ目標...

にゅん 細かいところでは「借金して支出を増やす」という表現だけど、単に「支出を増やす」だよね。よりよくは「財政赤字を増やす」。借金しないと支出できないかのような言い方をMMTerはぜったいしないと。

おかみ それはそれとして、財政政策でのインフレ目標はどうしていけないんだっけ?

にゅん 「現象ではなく原因を狙え」ってことなんだね。金額で物価を調整するという考えは無理がありすぎる。この話はまた別に三人でやろうか。

おかみ 次の節は...

にゅん 「MMTはブードゥー経済学か」「ニュー・ケインジアンVSポスト・ケインジアン」はまとめて読もう。

(おかみ、読む)

おかみ 読んだよ。

にゅん ここは要するに「経済学にはいろんな派があるんだから、ブードゥー呼ばわりして却下するのはやめましょう。お互いに『部族ごっこ』はやめて生産的な議論をしましょう」という趣旨だよね。

おかみ そうだった。

にゅん こういっているのが気になって。

しかし、日本でもまたMMTに対する理解を深めた上での批判ではなく、主流派からの「異端審問」になっている記事が散見されます。要するに、異端派として頭ごなしに切り捨てるような態度です。もう少し、丁寧に議論を行う必要があるでしょう。

おかみ すばらしいやん。

にゅん 本当に丁寧に議論するならね。

おかみ きついなあ。

にゅん だって最後の節。

おかみ 「MMTの主要な論点」

にゅん 冒頭から引用するね。

さて、多くの論点を含むMMTですが、主流派との熱い論争を巻き起こすと思われるのは、
(1)財政的な予算制約はない
(2)金融政策は有効ではない(不安定である)
(3)雇用保証プログラムを導入すべし
の三点です。

にゅん さっき話したように、MMTが突きつける問題って、論点がたくさんあることじゃなくて、「その主流ビューをやめた方がいいんじゃね?」ってことなんですよね。ビューがダメだからいろんな論点でぶつかるわけで。「自分が考えた重要個別論点の話」に還元したらMMTの説明から離れちゃうんだよね。

おかみ 枠組みそのものが丁寧な議論になっていないってことか。

にゅん そう。それで、結局(1)には賛成で(2)と(3)には疑問があるという立場を表明しているね。

私自身は、(1)「財政的な予算制約はない」については賛成であり、(2)「金融政策は有効ではない」と(3)「雇用保証プログラムを導入すべし」については、頭ごなしに否定するわけではないけれど、かなりの違和感や疑問があるという立場です。
つまり、私もMMTに全面賛成ではありません。それでも、すでに述べたとおり、現在の日本経済という文脈では、(1)「財政的な予算制約はない」はとても重要な論点だと捉えており、本書のような書籍を執筆しているわけです。

にゅん で、(1)に賛成と言ってもこの章を読む限りでは上で書いたように丁寧な感じはしなかった。

おかみ まあそうだね。第二章からはちゃんとするかもしれないから。

にゅん 期待しよう。でもね。やっぱり思うのだけど、この問題の立て方はすでに主流的と言えると思う。

おかみ これが?
(1)財政的な予算制約はない
(2)金融政策は有効ではない(不安定である)
(3)雇用保証プログラムを導入すべし

にゅん 主流が問われている問題って、実は反対だと思うんだよ。

おかみ 反対?

にゅん MMTerからすると問題設定をこうしてほしいわけ。特に(2)と(3)ね。
(1)均衡財政を目指すべきと考えるのはなぜ?
(2)金融政策が有効と考えるのはなぜ?
(3)不完全雇用(ワープア)の解決より先に別のことを考えるのはなぜ?

おかみ じゃあ、そのへんに気を付けて次章以降を見ていくことにするよ。お楽しみに―\(^o^)/

にゅん でもさ、おかみ。

おかみ ん?

にゅん なぜいまMMTが注目されるのか?ってわかった?

おかみ こうだよね。『筆者が今考える「デフレ不況脱却必要論」の理論武装に(1)だけ使えるよ。まあそれは主流も言っていることだけどね。でもシンプルだから注目だ!』って感じか。

にゅん きついなあ...

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