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野生に還る育成牛

育成牛とは産まれてから妊娠するまでの期間の牛のことだ。
うちの牧場の場合は山の斜面を利用したちょっとした放牧地があるので、哺乳期間を卒業した牛から山に離して飼っている。
山には4区画に分けて放牧している訳だが、1区画に5頭以上飼わないようにしている。

何故か?

除糞が楽になるからだ。できれば3頭がベストなのだが、5頭でギリギリといったところ。山の斜面のため、牛が排泄する糞尿はいい感じで斜面をゆっくり流れて行き大自然の肥やしになる。エサ場は平坦だが5頭以下だとこれもまた自然に大地に溶け込んでいくのだ。

しかし、6頭以上になるとエサ場は・・・

ベチャベチャになる

1頭多いだけでエサ場の汚れ具合が全然違ってくるのだ。
なので、5頭以上は1区画に放さないようにしている。
これで、半年〜1年は除糞しなくていい。除糞という作業は、機械を使うのであれ手作業であれ酪農家を疲弊させる重労働だ。

除糞をしなくていい


これはうちの牧場の地の利を生かした大きな強みと言えるだろう。

しかし

山に放牧するにあたって、デメリットもある。
子牛はカワイイ。きっと、ミルクや餌を与えてくれる人間を本当の親だと思っているのではないか?と思う。だからこちらも自然に可愛がる。まるでわが子のように愛情を込めて育てるのだ。子牛もその愛情にこたえるかのように人間に接してくる。「なでて〜」「ミルクちょ〜だいっ」「はいはい、分かったよ〜」などと言葉は通じないにしろお互いの意思疎通がそこにある。

ところが

哺乳期間を卒業し、山に放された牛は徐々に親離れを開始する。
「○○ちゃ〜ん!!」名前を呼んでも無視し始める。もちろん、中にはずっと人懐っこい牛もいるのだが、大体の牛が中学生の娘が親父の空間を嫌うように人間に対して距離をおくようになるのだ。

野生に還る

のだ。

パパ寂しいよ。
こうして、おセンチな気持ちで今日も牛飼いをするこばちゃんでした。




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