ハイブリッドパズルについて

この記事はペンパアドベントA2019、6日目の記事です。
ハイブリッドパズルを取り上げます。

0 はじめに
はじめまして、パズル作家のにょろっぴぃです。
ここ5年ぐらい、「トケタ?」というパズル同人誌でパズルを作っているのですが、最新号のvol.7において、ハイブリッドという、2つ以上のルールを組み合わせたパズルを何種類か作りました。ハイブリッドパズル自体は過去にも何度か作ってはいるのですが、「種類の多さ」「他の人がほとんど作っていない」「ルール表記の簡略化のため、ハイブリッドタグが導入された」といった点で、過去の号とは扱いが変わりました。

トケタ?では、vol.6で作ったSSS(サングラスはどこだ+スネーク+Shapesweeper。後述)を含め、他の作家の作品がほとんどなく、また、トケタ以外でも国内での出題はほとんどない状態がつづいており、ハイブリッドはまだまだメジャーになっていないのが現状です。そこで、ハイブリッドの魅力を伝えるべく、各種ハイブリッドの紹介と、ハイブリッドの作り方を取りあげます。

1 ハイブリッドとは

(1)定義
ハイブリッドの正確な定義はありませんが、大まかには以下の2つを満たすものをハイブリッドと言うのではないかと思います。

・2種類以上のパズルのルール(以下、便宜上ルールA・Bとします)が組み合わさっている
・AB間に優劣はない

ポイントは2つ目で、主従関係がある場合にはハイブリッドではなく、主となるパズルのバリエーションとなります。たとえば、トケタvol.7では「Easy as LITS」というパズルが載っていますが、これはLITSにEasy as ABCの要素を加えてはいるものの、基本的にはLITSです。一方、同じくトケタvol.7には「LITS+ABCプレース」という、1つの盤面でLITSとABCプレースを解くパズルも載っていますが、こちらはまさにハイブリッドになります。どんなパズルか気になった方は是非トケタvol.7を手に取ってみて下さい(ダイマ)

(2)広義のハイブリッド
上記の定義は、1つのパズルの中でルールが組み合わさっているパズルの場合ですが、似たようなものとして、以下の2つについても広い意味ではハイブリッドに該当するのではと思います。いずれも、主従関係がないという点は同じです。

①1つの盤面が2つに分かれていて、一部はA、残りはBとなるもの
②複数種類の盤面が連結しているもの

①はトケタで扱ったパズルでは、vol.6のMaxi Nanro(Maxi Loop + Nanro)が該当します。出題例は少ないですが、今年のWPCではこの①のみを扱ったラウンドがありました。盤面のどこがA・Bになるかを推理するパズルなので、AとBは見かけが共通している必要がある一方で、ジャンルの制約はありません。

②は複数盤面が連結しているパズルで、盤面内でルールを組み合わせる必要はありません。一方で、盤面間での連結が必要なため、通常はジャンルは共通です。

LMI(Logic Masters India)での出題例を2つ紹介します。

・Loop pooL
https://logicmastersindia.com/lmitests/?test=M201603F2
ループ系6種類の連結盤面です。

・WPMM(Black and White Matrix)
https://logicmastersindia.com/lmitests/?test=M201309P2
こちらは黒マス系を中心とした12種類の連結盤面です。

2 ハイブリッドの種類

次に、実際にハイブリッドにはどのようなものがあるのか、今まで出題されたことがある問題から、ハイブリッドをいくつか紹介してみようと思います。紹介するパズルはLMI、PGP、WPC(筆者が参加した2014、15、17~19)の問題が中心となります。

・Loop the Loops
2011 Double Decathlon(LMI)
スリザーリンク+ましゅのハイブリッドです。人気パズルのハイブリッドなのでもう少し出題があっても良い気がするのですが、原作の人気がありすぎるのか、あまり見かけません。

・Area51
https://thegriddle.net/
https://krazydad.com/tablet/area51/
上記のLoop the Loopsにさらに、バッグ(Cave)を加え、ループ内にエイリアンを、ループ外にサボテンを配置するパズルです。スリザーリンクがWolves and sheeps Slitherlinkになったとも言えます。2014年のWPCで出題され、プレーオフでも出題されました。
ルールが非常に多いのですが、噛み合わせが絶妙なのと、問題によってましゅ色が強かったり、Cave色が強かったり、バリエーションも豊富です。2018年Area51アドベントカレンダーを筆頭に上記サイトで大量に解くことが出来ます。

・ Antidomino Snaky Loop
PGP2018-5(Bulgaria)
PGP2018-Final
PGPは全体的にクラシックルールが多く、出題数の割にはハイブリッドは少なめです。その中で出題されたこのパズルは、ドミノ、スネーク、列ごとの計算要素が組み合わさったパズルです。スネークの制約が強く、スネークをまず解いてからドミノ+計算をすることが多いのですが、色々な要素が楽しめます。プレーオフでも出題されましたが、プレーオフ参加レベルの人でも最速で10分程度はかかる、かなりの難問です。
似た雰囲気のパズルとして、2016年のLMIマラソンDTGTで出題されたDomino Loopも合わせて紹介しておきます(ルールは両問題で異なります)

・Spiral Garaxies(Tetromino)
PGP2019-1(India)
同じくPGPで出題されたものでもう1つ。天体ショー+テトロミノを配置するパズルです。2018年のWPCでも、テトロミノやペントミノを配置するパズルが出題されました。いずれも高配点問題で、難しめです。
上記の通り、PGPでは全体的にクラシックが多く、ハイブリッドが少ないのですが、インドだけは例外で、黒マス部分がぬりかべやバトルシップになっているヤジリン、フィルオミノとスネークが複合したSnake Pitなど、2017年と2019年にはハイブリッド、またはハイブリッドに近い複合ルールの問題を数多く出題しています。特に2017年はクラシックルールが1問もなく、全ての問題が複合ルール、または複数問題連動という特異なラウンドになっています。

・数独(ナンプレ)系
WSC選抜2017(ビルディング、バトルシップ、親切な対角線ドミノ)
SudokuはWSCなど、Sudokuのみの大会が開かれており、1ジャンルとしての扱いは他のパズルとは異なります。また、結果として数多くのバリエーションが考案されており、中にはパズル色がかなり強いバリエーションもあります。出題頻度が多いものとしては、ビルディングパズルと合わせたビルディングSudoku、Kropkiと合わせたKropki Sudoku、バトルシップと合わせたバトルシップSudokuなどがあります。特にバトルシップは数字埋め系のパズルではないのですが、バトルシップ内の和を示すバリエーションなどを含めて複数回出題されており、2015年と2017年にはWSCではなくWPCでも出題されています。
この点で意欲的な試みが行われたのが2017年のWSPCです。WSCとWPCで同一ジャンルのSudokuバリエーションが出題され(問題は異なり、WPCの方がよりパズル度が高めでした)、パズルとSudokuの境界は何かという問題を投げかけました。出題ジャンルとしては上記のバトルシップ、ビルディングを始め、スターバトル、Japanese Sums、カックロなどパズルとSudokuのハイブリッドラウンドだったと言っても過言ではないでしょう。

・Tapa
LMIでTapa Variation Contest(TVC)が20回も開催されたこともあり、数独の次にバリエーションが多いジャンルだろうと思います。上記サイトには、138種類ものバリエーションがPDFファイルにまとめられています。
個々の紹介は省略しますが、ScrabbleとのハイブリッドであるTapa Scrabble、今年のJZCRound2でも出題された、Tapaというよりはほとんどラテン計算パズルであるHungarian Tapa、ナンバーリンクとのハイブリッドであるTapa Connection、その他バトルシップ、Anglersなど、さまざまなハイブリッドが考案されています。

・SSS(Sundoko Snake Shapesweeper)
GMその1 その2
トケタvol.6にも掲載された、拙作ハイブリッドの代表作です。vol.6に掲載された、Sundoko(サングラスはどこだ)、Snake、Shapesweeperの3種類を1問で楽しめる、非常にお得なハイブリッドです。サイズ相応の難易度以上に、長すぎるルールがGM泣かせだった気がします。もっと解きたくなった方は是非トケタvol.6を手に(略)

・O'utcast
USPC2015
Scrabbleとましゅのハイブリッドなのですが、なんと、Scrabbleに使われている「O」の文字がそのままましゅの○になるという、衝撃のハイブリッドです。パズルとしても非常に面白く、作者のSerkanのすごさを感じた1問でした。ハイブリッドではありませんが、この年に出題された、Weather Vaneという4方向から言葉が入るスケルトンと合わせて、強く印象に残っているパズルです。

・Nurikabe Loop
GM(Murat作)
ぬりかべ+Simple Loop。上記GMや、USPC2015をはじめ、比較的良く出題されているハイブリッドです。ぬりかべの黒マスの代わりに、全マス通過のループを書き入れます。トケタvol.4でも(略)

・Graffiti Snake
Snake Variation Contest(LMI)
スネークのバリエーションですが、お絵かきロジックとのハイブリッドといって良いかと思います。似た方向のパズルとして、2015WPCで出題され、トケタvol.7でも出題されたJapanese Railways(Railways+お絵かきロジック)があります。


紹介しようと思えばまだまだたくさんあるのですが、分量の関係で、トケタ?で出題されたその他のパズル(大部分は拙作)と、その他いくつかの概要だけ紹介して種類の紹介は終わろうと思います。

・トケタ?で出題されたもの

New NEWS[Tren](vol.4)
New NEWS+New Tren(パーキング)。名前だけで作られたパズル。

New Four Winds[Tren](vol.4)
Four Winds+New Tren。上記New NEWS[Tren]に触発されて考案されたらしいです。Trenは小回りが利くパズルで、意外と何とかなるパズルだなと思ったのですが、上記2作に続くハイブリッドバリエーションが出てきません。

LITS+ABCプレース
ABCプレース+TomTom
Japanese Railway+ABCプレース(いずれもvol.7)

筆者が一人で作りだしたハイブリッドシリーズ。同ジャンルでありそうでなかったTomTomはともかく、大体のパズルはとりあえずABCプレースを入れておけば何とかなることが分かりました。

・その他

Sky Snail
Magic Snail(またはMagic Labyrinth)+Skyscrapers
Skyscrapers+Easy as ABC
同一ジャンルなので組み合わせやすいシリーズです。Easy as ABC+Magic LabyrinthもWPCなどで出題されています。
Sky Anglers
Skyscrapers+Anglers。WPC2014難問ラウンドで出題。SkyscrapersもABCプレース同様、とりあえず入れようと思えば何とかなるパズルのようです。

3-in-1 Tents-Sudoku-Slitherlink
同じくWPC2014難問ラウンドで出題。盤面が9×9のSudoku盤面になっており、各ブロック、各行各列に0~3を1つずつ入れてスリザーリンクを作ります。さらに、盤面にTentを配置します。

Snake in the Naval Forest
WPC2015ハイブリッドラウンドで出題。盤面に1匹のスネークとバトルシップ1セットとテントを配置します。外周に数字のヒントがあるのですが、スネークとバトルシップのどちらかは分かりません。筆者は本番では誤答しました。

Masyu Pentamino
同じくWPC2015ハイブリッドラウンドで出題。ましゅの空白マスにペントミノ一式を配置します。

Nurikabe Tapa
WPC2018で出題された問題で、ぬりかべのヒントが同時にTapaの条件も満たすというもの。ハイブリッドというよりは制約の強くなったぬりかべといったパズルだったのですが、理詰めが全くない上に難易度の高い問題(たぶん)でクソハイブリッド感が漂う問題でした…

WPC2018団体戦
この年の団体戦はなぜかハイブリッドばかりが出題され、巨大盤面にスネークとペントミノ一式とJapanese Sumを入れるパズルや、Easy as ABCとCoralが融合したHex盤面のパズルが出題されました。


最後に、上記では紹介できなかったもので、ハイブリッドが多数出題されているLMIの大会を2つ紹介します。上記で紹介したものでは、PGP2017-Round8と、DTGTがハイブリッドの出題比率が高めの大会となっています。

Hybrids
文字通りハイブリッドをテーマとした大会なのですが、Pentopiaなど、ハイブリッド扱いではなく、比較的良く出題されるパズルもいくつか入っています。この大会も含めて、バトルシップのハイブリッドは大体問題が難しい気がします。

Puzzle Fusion
A、B、A+Bの3問単位で構成された大会で、最後のA+Bはハイブリッドパズルが多めです。斬新さではAkasuke(美術館+ナンスケ)が突き抜けていると思うのですが、正解者がわずか1人の闇のパズルでした。ハイブリッドと言うよりはバリエーションですが、最後の不等号フィルオミノがとても面白いです。


3 ハイブリッドを作ろう

ここまで脱落せずに読まれた読者であれば、様々なハイブリッドパズルを前に、ハイブリッドを作ってみたい!という気持ちが沸いてきているのではないかと思います。
特に、「盤面にサングラスをいくつかとペントミノ一式と1匹のスネークを入れるパズル」「盤面に1匹のスネークとバトルシップ1セットとテントを配置するパズル」「盤面にテントとスリザーリンクを入れるSudokuパズル」あたりは、字面だけでも何だかワクワクしてくるのではないかと思います。ある程度大会慣れしている人であれば、大会のインストに「スネーク」「バトルシップ」「テント」とあっても読み飛ばすだけなのに対して、「Snake in the Naval Forest」と書いてあれば、「おっ、そう来たか!」となるはずです。インスト読むのが面倒くさいという声が聞こえてきた気もしますが気のせいでしょう。

次の問題はハイブリッドをどう作ればよいのか、そもそも何を組み合わせればよいのかという問題です。ここで、トケタ?に載っている、筆者が回答している新作インタビューを見てみましょう(以下、インタビュー部分は本誌からの引用です)。

①New NEWS[Tren](vol.4)
「Newを3つ続けるにはどうしたら良いかと考えまして」
同誌ではNEWSというパズルを扱っていたのですが、「とりあえずNewをつけるパズルを作ればいいかなと思って」New NEWSというバリエーションを先に考案していました。そこからさらに3つ続ける方法を考えた結果、New Trenを入れようということになりました。

②SSS(vol.6)
「(Sundokoと)何かを組み合わせたバリエーションを作れないかなと思って見ていたら、タイトルで「S」で始まるものが2つあって、これはもう組み合わせるしかないなと思いました。」

③Easy as ABC+LITS(vol.7)
「Easy as LITSを作っていて、せっかくEasy as ABCの要素を入れるのであれば、各行各列にも文字を入れられないかと思って作った」

④Tapa Glasses(vol.3)
「とりあえずサングラスのページを増やしたかったので、作れそうなバリエーションを考えてみた」
これは筆者ではなく、とある方のメモ書きなのですが、汎用性が高いと思われるため合わせて引用しました。

ポイントとしては、あまり内容のことは考えていない、と言うことです。ハイブリッドというと、ある2種類を組み合わせたらどうなるか、その挙動を考えてみて面白そうだったら実装する、という考え方もあるとは思うのですが、筆者の場合はとりあえずまず組み合わせるものを決める→その上で挙動を考える、というプロセスで大体は作っています。というのも、ハイブリッドにした時点で、元の2種類(またはそれ以上)とは違う挙動が何らかの形で出てくることが大半で、適当に解けるように作っていれば適当に挙動が出てきて勝手に面白くなるからです。動機は①②みたいな動機もありますし、④なども汎用性が高い動機と言えるでしょう。
SSSやトケタvol.7を既に解かれた方は分かると思うのですが、筆者のハイブリッドは基本的に理詰めガチガチで、全体的に高難度です。特にvol.7はハバネロ級の問題ばかりです。種類を決めるのはかなり適当な一方で、他の種類に比べると、問題自体は緻密に作っています。もう少し軽めの問題をどう作るかが今後の課題かなと思っています。

ハイブリッドとは若干異なるのですが、筆者が最近作ったパズルとして、11月16日に開催された「パズル会議」で配布した、ワープ付きシームレスダブルましゅがあります。ワープ+シームレスはJPCで作った「シームレスループメーカー~ワープ付き」から持ってきたものです。これを使って何か出来ないかと考えていたところ、ツインループあたりから着想を得たのか、マスの中央と辺上にループを引くパズルは出来ないかと考え、さらに、Area51などで辺上に記号が置かれるましゅもあったなと思って、ダブルましゅのアイデアが出ました。ましゅとましゅのハイブリッドに近いルールで、あとは、ダブルがなるべく絡み合うようにと挙動を意識して作っています。大まかなプロセスは、ハイブリッドと似ていると思います。

少し話が逸れましたが、要約すると、適当に組み合わせても大体は何とかなるので、とりあえず適当に組み合わせてみることをお勧めします。もちろん、橋をかけろやハニーアイランドなど、ハイブリッドに向いてなさそうなパズルや組み合わせはあるので、最低限組み合わせが可能かは考えた方が良いとは思います。

最後に、その上で、何を組み合わせたらよいか迷う方のために、今回、ハイブリッドパズルジェネレータを作りました。

ハイブリッドパズルジェネレータでパズルを作ってみる

仕様は以下の通りです。
・約40種類のパズルから2種類、ランダムでパズルが選ばれます。
・レアリティは4段階あり、レアリティが高いパズルほど出にくいです。
・時々、3種類目のパズル(レアリティはNのみ)が入ります。
・時々、トーラス盤面などの指定が入ります。

運が悪いと(N)Tapaと(N)Tapaとかが出たりします(要するにただのTapa)。運が良ければ(UR)イルミネーション(SR)へやわけ(N)Tapaのトーラス盤面とかの指定が入ります。頑張ってください。

それではみなさん、良いハイブリッドパズルライフを!

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