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beyerdynamic DT900PRO X レビュー

主にリスニング視点での評価。
beyerdynamicで一番好きなヘッドホン。

かなりクッキリハッキリした音で、近い立ち位置の競合として人気のHPH-MT8が挙げられるが、あちらより帯域の凹凸が少なくオールラウンダーに使えるヘッドホン。
開放型だが、音漏れの少なさや空間の狭さを聴く限りは半開放型に近い。

・どこかの性能が優れている代わりに相性や色づけが激しい、破綻がある
・音楽的な穴が少ない代わりに音が生緩い、明瞭さの不足

5万円台までのモニターヘッドホンはこのどちらかに偏る印象があるが、このどちらも回避できている。
この価格でこの性能の高さと音のバランスを両立できるのはヤバいと思う。

音がかなり明瞭で、破綻がなく、全域でしっかりした芯と音圧を出せて、どのジャンルでも一貫性のあるプレゼンテーションを保てるという良い点が揃ったヘッドホンはなかなか貴重。
音の距離感は近いが、ごちゃつかずに整理されているので細かい音を気軽に拾える。
クラブサウンドで重要な低域が他の帯域を覆い隠さずにしっかりと存在感を持って鳴る。

無理矢理ケチをつけるとすれば、実際の耳で聴くような自然さとは少し違い、意図的な明瞭さが含まれているような感じがあり、全体的にプラスチックのような質感がうっっすらだが乗っている。
あとは音として立ってこないような非常に微細な空気感が少し抜け落ちており、音楽の情感を伝えるのは少し苦手かもしれない。が、3.7万の価格を考えれば妥当どころか全体的な性能は普通に高いのでこれといって気にはならない(使い分けで補うのが妥当と言える)。

他のヘッドホンと比較してみる。

上位のDT1990PROはより解像度が高く性能で上回るが、高域のアクセントをかなり強調するため少し人を選ぶ。
下位のDT990PROはラジカセに近いシャカシャカした軽い音で、現代の音楽についていけない部分はあるが、エネルギッシュなドンシャリによる特有のドライブ感は癖になる。

HPH-MT8と比較すると、HPH-MT8は解像度を上げるために無理をしているところがあり、出てない帯域があったり音の質感のバランスの悪さが見受けられる。無視して音楽を聴くこともできるが、刺さる高域のキツさはあるし、次第に感覚がズレていく恐怖感がある。

DT900PROXはこのいずれよりも全体のバランスが良く、音の物差しにできる素性の良さを感じる。

同価格帯で特徴の異なる優れたモニターヘッドホンだとATH-R70xがいる。R70xはDT900PROX以上にフラットな帯域性能を持ち全体を見るのに適しているが、軽さ故に音の芯が緩くエッジが立たない。DT900PROXがミクロな視点を持ったヘッドホン的な音なのに対し、R70xは逆にマクロな視点を持ったスピーカー的な音が鳴るので、使い分け相手として良いかもしれない。

とにかく目が覚めるようなハッキリした音を聴きたいのであればかなりおすすめで、硬いキックが硬いまま音圧を伴って鳴るし、SOPHIEやSota Fujimoriのようなバリバリの電子音楽はかなり良く鳴る。打ち込み音とかクラブサウンド、音ゲーの曲は向いている。
逆に音のアタック・リリース性能を気にしなかったり、むしろハッキリしすぎても困るような柔らかい情感や雰囲気がメインとなる音楽だと普通に感じるかも(とはいえ高い基礎性能で殴ることはできる)。

beyerdynamicのヘッドホンはドライバ性能の良さを感じ個人的に好きなメーカーだったものの、バランスがいまひとつ好みでないヘッドホンが多かった。なんでホームオーディオ部門はあんなに迷走してるんだ。
そんななか一際優れたバランスを感じさせ、比較視聴してbeyerdynamicで最も好きなヘッドホンになった。DT900PRO Xは良い、いや、DT900PRO Xが良いぞ。

発表されてからしばらく試聴機が出回らなかったこともありあまり目立っていないが、もっと人気が出ていいと思う。

是非ともモニターヘッドホンの新しい定番になってほしい。

その他のこと

素材の質感がめちゃくちゃいい。
造形はシンプルで遠目に見れば無骨なんだけども手に取って見てみるとこれが美しく、職人が手掛けた品の良い工業製品を所有している感覚になる。

ハウジングは見た目少しザラついて見えるが、触り心地はサラサラで細かく光を反射しまるで粒子の細かい砂浜のよう。

ヘッドバンドの交換も簡単で、交換時に引っ張るオレンジの部分がデザイン的なアクセントになっておりこれまたお洒落。

DT990PROでは装着が厳しく密着しきれていなかった頭の大きい自分でもこちらでは無理なく被れ、ぴったりと頭にフィットする。
また眼鏡も問題なしで、音への影響もほぼ感じず。

特にイヤーパッドが凄まじく快適で、ベロア素材だとは思うのだが肌触りがとてもよくもっちりしており、頭に密着しつつも全くベタつかないので快適の極み。肌に馴染み、痒くなる気配は全くない。こんな良いイヤーパッドあるのかってレベル。

総じて装着感は見た目から感じる印象以上に良く、長時間付けていられるヘッドホンといえる(ただ眼鏡だと側圧の関係で少し痛くなる)。

ケーブルがMini XLRなのでリケーブルもしやすい、と思いきやここに難ありで、純正ケーブルから変えると音のバランスがすぐ崩れてしまう。
低域が変に痩せてしまったり、音がドライになり過ぎたり、どこか印象の薄い音になったり、妙に帯域が引っ込んだり…とにかく合うケーブルがない。
純正ケーブル含めて音作りされていることがわかるが、この純正ケーブル自体はそこまで解像度が高いとは言えず、ある程度のケーブルに変えると解像度が上がるのが容易に知覚できる。そこに伸び代を感じさせ罪深い。 
純正のキャラクターを維持したアップグレードケーブルを公式が出してくれれば解決なんだけど、モニター機でそういうことはしないだろうな〜。

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