見出し画像

GUARDIANS OF THE THINGS 1(ナイアル×プリマデウス)

ナイアル×プリマデウス
https://nyarseries.sakura.ne.jp/primadeus/

■宇宙船
世界が暗黒に包まれたのを体験するのは、初めてだった。

夜眠る時に目を閉じる。それが今まで、この世界で最も暗い、暗黒だと思っていた。

でも違った。

目を閉じて暗黒に包まれるのは、正確には世界じゃなくて、僕だ。

目を閉じても、世界は暗黒に包まれない。

目を閉じて、暗黒に包まれるのは僕なんだ。

でも、今は違う。

僕は今、目を開けている。

目を開けて、暗黒に包まれた世界を見ている。

それは、どこまでもどこまでも、遠くまでクリアに見渡せる暗黒だ。

景色はとても澄んでいて、まるで現実の鬱陶しい喧騒が、虚構のものと思えてくるほどに、美しい暗黒の景色。

写真や動画で、この美しい暗黒を見る機会は有ったかもしれないけれど。

こうして、完全に真っ黒で、澄み渡っていて、世界に僕しかいないんじゃないかって思えるほどに。

僕の息遣いしか聞こえないほど、自分がとてもとても恐ろしいほどちっぽけな存在に感じてしまうような、それでいて世界と一体になっているような安らぎを、身体全体で感じるのは、多分初めてだ。

「今日は澄み渡っていて、綺麗だね。でも、もうじき星があらわれて、もっと綺麗になるよ。」

コホー、コホーという、規則的な息遣いとともに、そんな声がかけられる。

そう、僕は一人じゃない。

僕… 2020年の高校一年生 砂里でぃーと、そう遠くない未来の宇宙飛行士 ロミーナ・エスパシオさんは、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.さんの宇宙に訪れていた。

ジェイムズなんて男性的な… ちょっと紳士的にも感じる名前だけど、ティプトリーさんは、未来のSF映画に出てくるキャラクターのような女の子の外見をしている。

今日は、そのティプトリーさんの誕生日パーティーだ。

さっきまで、賑やかな場所に居たけど、僕はそういう場所が苦手で、ティプトリーさんにお祝いの言葉と誕生日プレゼントを渡すと、早々にその場から離れてしまった。

今いる場所は、外だ。

ティプトリーさんの誕生パーティー会場であり、彼女が貰ったプレゼントである、丸っこくて円盤みたいな… 確か、アダムスキー型とか呼ばれるUFOみたいな形をした宇宙船の甲板?に腰掛けて、暗黒で綺麗な宇宙を眺めている。

会場に居た大人の人は、綺麗なミレニアムファルコンって言ってたけど、僕にはそれが、何のことかよくわからない。

「パーティーは、もう終わったんですか?」

僕の隣に腰掛けたエスパシオさんに聞く。結構、長い間ここに居たから、もうパーティーは終わってしまったのかもしれない。

「一次会は終わったって感じかなー。」

エスパシオさんはオレンジ色と白の宇宙服。僕は黒と白の宇宙服。

「すいません…、後片付けとか手伝わなくて。」

「いいのいいの、私もやってないし。なんかねー?ルンバとドローンが合体したみたいなのが、たくさん出てきてパパパーーッと終わっちゃった。便利だよねえ。あれ、ウチの宇宙船にも欲しいなあ。」

「世界の規格が合わないんじゃないですか…?」

「だよねー。」

ティプトリーさんの宇宙と、エスパシオさんの宇宙は違う。

ティプトリーさんの宇宙はなんていうか、SF小説とか映画とかみたいな感じで、小さい子がワクワクして夢見るジュブナイルな感じだけど、エスパシオさんの宇宙は、宇宙エレベーターがあるかないかの感じで、NASAとかアポロ13とか、そういう感じの宇宙だ。

何を言ってんだって思うかもしれない。僕もそう思う。でも上手く言葉に出来ないけれど、そういう感じのイメージなんだ。

「エスパシオさんは、二次会行かないんですか?」

「あぁ、この後すぐどっか行くってわけじゃないみたい。何時間か後に、皆で宇宙船持ち寄って、サイクラノーシュまでドライブするんだって。」

「サイクラノーシュ…?」

「土星。ほら、あの輪っかがついた大きな惑星。あの輪に沿って、グルーって一周して、折り返して戻ってこようって。」

「へえ…。それは楽しそうですね。」

土星なんて行ったこともない。

土星に限らず、火星も月も、何なら現実の僕の身体は、宇宙に出た事すらない。せいぜい、飛行機に乗ったことがあるくらいだ。

じゃあ、今ここに居る僕は、何なのかって言ったら、今ここに居る僕は、虚構の僕だ。

虚構の僕が、虚構の世界を体感している。

けど、単純に虚構の世界といっても、色々ある。

例えば僕は、VRとかオンラインゲームとかラノベとかが、身近な虚構の世界だけど、死後の世界を見たり、幽霊を見たり、あるいは物語の世界に没入したり、現実に存在するんだけど、現実を超越した虚構の世界に、生身で挑む人達だっている。

普通の人にとっては、現実にちゃんと足が着いた人にとっては、僕達の虚構の世界は、ニセモノや想像の範疇を出ないけれども、現実とは別の世界が、酷く現実的に感じてしまう、あるいは現実の世界に現実感を得られない人たちにとっては、この虚構の世界の方が、感覚的にも体感的にも、真実に近いといえるんだ。

それは、ある人から見れば現実逃避と言われるかもしれないけれど、また別の人から見れば、虚構に真実味を感じ、そこに夢中になったり熱中出来たりするのは、羨ましいとすら思われる才能や素質でもある。

つまるところ、僕は虚構の世界を、仮想世界として真実に捉える素質があって。
エスパシオさんは、物理的な宇宙から虚構の世界にアプローチできて。
ティプトリーさんは、架空宇宙を創造できる才能がある。

普通の人には、ちょっと理解しずらいし、僕もほとんど分かっていないけれど、霊感がある人は霊感がある人同士のことが分かるし、オタクはオタク同士で見える世界や通ずるものがあるみたいな感じだと思ってもらえればいいかもしれない。

「あ!星が見えてきたよ!」

エスパシオさんは、立ち上がって宙を指さす。

左の方から、大きな光が広がってきて、その光を受けて、暗黒の世界の中に、次々と星がその姿をあらわす様子は、まるで宇宙が少しずつライトアップされるみたいだ。

「太陽が出てきたんですか?」

「そうみたい。でも、流石だねー。私の世界の宇宙服だったら、バイザー降ろさないとすぐに熱くなっちゃうんだけど、ティプトリーさんの世界のは、そのままでクリアに見えるからすごいね。」

確かに熱くないどころか、ほどよく涼しい心地良さを感じる。

現実の宇宙服だったら、多分こんな体験は、少なくとも生きてるうちには、何年かかっても出来ないはずだ。

そんなことを思っているうちに、暗黒の世界に星の輝きがどんどん増え始める。

黄色… 黄緑… 水色… ピンク…。

星々の輝きは、落ち着いた色合いではなく、とてもキラキラして綺麗で、宇宙に花が咲き乱れ、そんなことないけど、まるで僕を祝福してくれてるかのような輝きに満ちていく。

暗黒の静寂も良かったけど… なんだか楽しい気分に… ワクワクさせてくれるような気分になってくる。

ゴウン!!

「わっ!」

突然、足元が揺れる。

ゴゴゴゴゴゴ・・・・。

そして、微弱な振動が始まる。

『でぃー君、エスパシオさん、聞こえる―?』

ティプトリーさんの声だ。宇宙船のスピーカーから話してるんだろうか。

『プレゼントしてもらった宇宙船、早速試運転しようと思ってね。あ、大丈夫大丈夫。すごくゆーーっくり、徐行運転するだけだから、船内に戻らなくても大丈夫だよ。星々をゆったり眺めながらの、遊覧ドライブといこう。』

そう言い終わると、宇宙船がゆっくり動き出したのを感じる。

本当にゆっくりだ。向きは違うけど、遊園地の観覧車と同じくらいのスピードで、宇宙船は進みだした。もっとも、現実の観覧車と、この宇宙の宇宙船とでは、速度はあくまで僕の体感での違いにしか過ぎないのだけれども。

「でぃー君、ルナ・ラプソディーと、ミスター・ブルースカイどっちが良い?」

そんなことを言いながら、僕の宇宙服のヘルメットに、エスパシオさんが、何かをはめた。

「え?なんですかこれ?ヘッドフォン?あと、なんですか、ルナ?ブルー?」

ヘルメットにヘッドフォンを装着して、そもそも聞こえるんだろうか。いや、この世界で、そんなことを気にしても意味の無いことなのだろうけども。

「明るくて楽しい曲と。綺麗で神秘的な曲。どっちが良い?」

あ… ドライブの音楽のことかな。

「え、えーと… それじゃあ…。」

普段はあまり賑やかな曲は聞かなくて、静かでエモい曲の方が好きなんだけど…。

「楽しい曲で。」

今は、そっちの方が良い。

「じゃあ、エレクトリック・ライト・オーケストラの、ミスター・ブルースカイだね。」

エスパシオさんは、カチッと手に持った箱のスイッチを入れる。

SONYという文字が見えた。随分、古めかしいプレーヤーだ、多分mp3とかでもないんだと思う。

シャーーー という、なんだかざらついた音に、キュルキュルとしたノイズ交じりの雑音が聞こえてくる。

古い音だ。決してクリアで綺麗な音ではないけれども、なんだか温かみと心地良さを感じる。

そして、リズムの良い、楽しい音楽が流れてくる。

英語だ。

歌詞は分からない。分からないけれど、今 目の前で、宇宙の星々が、色とりどりの花のように咲き乱れている景色には、なんだかとてもピッタリな音楽に感じる。

ヒュゥゥゥーーーーーーーー… パァン! パァン!!

花火だ。

宇宙に花火が上がっている…?

そして、すぐに、それに応答するかのように、宇宙船のライトが、パッパと点灯する。

『パーティーに来てくれた仲間達の贈り物だ。いやー、地上でも宇宙でも、やっぱ花火を見るのはいいものだね。』

宇宙に煌めく星々。

舞い上がり輝く花火。

それらが楽しい音楽とともに奏でられ、それを眺めてゆっくりとした遊覧でドライブする。

遠くに見える、パーティーに来ていた人達のものと思われる宇宙船が、武骨な戦艦みたいな感じじゃなくて、色も形も様々で、深海魚みたいなのもあれば、熱帯魚みたいなのもある。

「宇宙って… とても静寂で、とても賑やかなんですね。」

「あ、こういうの苦手?」

「いえ、好きです。とても。きらいじゃないです。」

なんだか久しぶりに、とても幸せな気分で、この素敵な景色をずっと眺めていたくなる。

『二人ともー。そろそろ中に戻っておいでよ。外も良いけど、中で飲みながら世界を眺めるのも、また良いものだよ。』

のっぺりと丸い宇宙船の側面が開き、そこに窓があらわれる。

窓にはティプトリーさんが、なんだかとてもカラフルでオシャレで、不思議な飲み物を持ちながら、こちらに手を振っていた。

「そろそろ、もどろっか?」

「そうですね。僕も喉が渇いてきました。」

ティプトリーさんに、手を振り返し、外の景色を眺めながら、僕達も宇宙船の中に戻った。

こんな景色は、現実じゃ絶対見られない。今日は、良い日だ。

なんとなく、そう思ってた。

しかし、そう思ってたことが。

よもや想像もつかない事態に方向転換をすることになるとは、その時は思いもしなかった。

楽しい創作、豊かな想像力を広げられる記事が書けるよう頑張ります!