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GUARDIANS OF THE THINGS 3(ナイアル×プリマデウス)

ナイアル×プリマデウス
https://nyarseries.sakura.ne.jp/primadeus/



「あなたたちを。はかいしなさいって。かみさまが。かみさまのおつげがあったの。」

【『《「主は惑星を取り込む存在。貴方達の地球は、今その標的となっている。」》』】

「でも。でも。それはとてもよくないこと。なんとかしなくてはいけないの。」

【『《「人間の都合や倫理観は、主にとって蟻のようなもの。」》』】

「だめなの。そういうのはよくないの。かってにたべちゃ、だめなの。」

【『《「私は主の意志を体現せし存在。意志に反することは、私の存在意義に反する…。」》』】

「だーーーーーーめーーーーーーーーーーなーーーーーーーのーーーーーーーーー。」

【『《「グワなにをするやめ…!!

僕達の目の前に… ティプトリーさんの船の壁をすり抜けて、宇宙の外側からやって来たと思ったソレは、流動的な身体の内側から、女性の姿を現わした。

「ええ…??」

しかし、現れた女性が口を開くと、流動的なソレとの声は違った。別の存在だ。

「どういうこと…かな?二人…?二人で一人…?」

そして、機械振動的な声で喋る流動的なソレと、のっそり間延びした声で喋る女性。二人は互いに交互に喋り出し。

「食べ… ちゃった。」

女性がソレを言い負かすように、女性はソレを口からズルズルと飲み込み、ペロリと食べてしまった。

「すこし、おとなしくしてて、“せす”。」

流動的なソレの姿は消え、完全に沈黙した。そして、その場に立つは、一糸纏わぬ女性が一人。

「ええと、君は… 君達は、どこの誰かな?地球を破壊しようとするエイリアンかい?」

そう聞きながら、ティプトリーさんが腕につけた時計みたいな機械から、彼女に向けて拡散光線を放つ。その光線が全身を照らしたと思いきや、即座に白いボディスーツのようなものが、彼女の身体を包んでいた。

「わ…!すごいですね。なんですかそれ?」

「そうだね…。でぃー君に分かるように言うと、AR3DプリントZOZOTOWNスーツってとこかな。拡散光線で採寸して、ARでスーツをモデリング。そのARモデリングスーツをベースに、3Dで現物を作り出してるって感じだね、厳密には違うものだけど。で、お客さん、君はエイリアンかな?」

「えいりあん… かもしれない。でもそれは、わたしじゃなくて、“せす”。“せす”はわたしと、つながって、わたしに、すんでるの。」

「流動的なものが“セス”という名前で、“セス”は貴方に寄生してるってこと?あなたは?」

「わたしは、“ろばーつ”。」

「ロバーツ… アメリカ人?フルネームは?」

「じぇーん・ろばーつ。」

「ジェーン・ロバーツだって!?」

「知ってるの、ティプちゃん?」

「ジェーン・ロバーツといえば、1970年代にチャネリングで話題になった作家だよ。セスという人格エネルギーとの交信でね。」

「ええと、つまりそれは…。」

「そう、現実世界ではチャネラーと呼ばれることもある彼女は、高次の世界と繋がることのできるプリマデウス。つまり、僕達と同じだ。」

「わたしは、ろばーつであり、せす。あなたたちに、きけんを、つたえにきた。」

「危険?…というか、ロバーツであり、セスって、どういう意味だい?」

その後、彼女がのっそりと喋って説明してくれたが、とても時間がかかったので、要約するとこうだ。

高次の霊的存在であるセスと交信できるジェーン・ロバーツは、虚構の世界に繋がれる僕達と同じ、プリマデウスだった。

現実の世界では、精神で繋がっていたロバーツとセスだったが、虚構の世界では、肉体レベルで繋がっていた…。つまり、ロバーツの肉体に、セスというエネルギーが宿っていたということだ。先ほどの黒い流動的存在がセスだという。

「遊星からの物体X。スパイダーマンのヴェノム。あるいは、フォームレス・スポーン… ツァトゥグアの無形の落とし子みたいだね。」

「せすは、つぁとぅぐあじゃない。せすは、ぬぎるこーらす。」

「ヌギル・コーラスですって!?」

今度はエスパシオさんが反応する。

「知ってるんですか…?」

「ええ、ノストラダムスの予言とか、マヤの人類滅亡説とか、ドゥームズデイとか… 世界が終わる預言みたいなのってあるじゃない?私達の世界でも、それと似たようなので宇宙が終わるっていう説があるんだけど、そこで現れる存在が、ヌギル=コーラスって言われてて…。」

「ヌギル・コーラスが何かしたんですか…?」

「直接現れたわけじゃないけど、それの波紋なのか、バタフライ・エフェクトなのか分からないけど、軌道エレベータが破壊された大きな事件があって。」

「それが、ヌギル・コーラスの仕業…?」

「わかんない。でも、原因が今でも解明できてない。獲物に印をつけるってわけじゃないけど、そのヌギル・コーラスによるものだって仮説を信じて怖がる人が多いかな…。」

「けど、彼女が… いや、彼女と同居してるセスが、ヌギル・コーラスだっていうんなら、僕達相当ヤバイよね?」

ティプトリーさんが、真面目に… しかし、若干ひくつきながら、彼女を見る。

「せすは、めっせんじゃー。ぬぎる・こーらすのめっせんじゃー、“いむなーる”。」

「メッセンジャー… 化身の一種?本体ではないということ?」

「いむなーるは、まよってる。ちきゅうをこわしたくない。でも、ぬぎる・こーらすは、じぶんじしん。」

「僕達に… ヌギル・コーラスの危険を知らせに来た、メッセンジャー…?」

「そう。」

そういうことか…、なんとなく話が読めてきた。彼女が… というか、セスがその危険を僕達に知らせに来て、それで僕達に危害を加えてはいないってことは、僕達がなんとかする必要があるわけだ…。

けど…、何ができるかな…?

「ティプトリーさん、エスパシオさん。ヌギル・コーラスって、どんな存在なんです?」

何とか出来るなら、してあげたいけど、生憎僕は、クトゥルフ神話について詳しくなければ、虚構の宇宙についても詳しくない。

「ヌギル・コーラスは、僕も直接は見た事なんてないけど、とても巨大な存在だ。巨大といっても、規模が桁違いに大きい。なんせ、星を食べるんだから。」

「やだ… 惑星を取り込むってそういうこと!?」

「原初の宇宙では、脅威ではなかったみたいなんだけどね…。なんでも、太陽系誕生とともに悪夢を見始め、惑星を食べることで、太陽系を破壊しようとしてるんだとか。遥か昔、地球も一時的に危機に晒された事が… あったとか、なかったとか。」

「ロバーツさん。ヌギル・コーラスは、何故 惑星を食べて、太陽系を破壊しようとしてるんです?」

「…こわいから。あくむを、みたくないから。たいようは、あくむをみせるの。とおくにとおくに、ひなんしてもだめだった。だからもう、たいようけいをたべるしかないって、せすは、いってる。」

「悪夢からの解放…。」

「…外なる神は、宇宙羊の夢を見るか?って疑問には、イエスと答えれそうですね。」

「フィリップ・K・ディックか。随分古い作品を知ってるんだね、でぃー君。」

「〇〇の夢を見るか?って、ネットで小説書いてる人とかが、よく使いたがるんですよ。それで。」

それで… 僕達に何が出来るだろうか?

「そんな巨大な存在に… 僕達が出来ることなんかあるんでしょうか?」

想像もつかない。

これは、単純に手段が思いつかないだけじゃなくて、太陽系を破壊しようなんて巨大な存在自体、スケールがあまりにも大きすぎて、僕が考え抜いて想像したとしも、到底その足元にも及ばないくらい、想像もつかないってことだ。

「昔の人なら、僕の宇宙船にビームやミサイル積んで倒そうとするかもしれないけどね。」

「けど、私達はプリマデウス。」

そう…。そうなんだ。現実の世界だけに根差している人達には… 特に人間の戦いや騙し合いの歴史に、巻き込まれたり、足を踏み入れてしまった人達にとっては、僕達の事は到底理解が及ばないかもしれない。

あるいは、軟弱者とか、負け犬とか言われるかもしれないし、そんなことを言われてしまったら、受け流せるほど、僕の知識は、心を納得させることができるほど、経験豊富じゃない。

「僕達は… 戦わない。」

正確には、戦っても意味がないと言った方が正しいかもしれない。

これも、僕にはまだ全然理解できないけど、世界には見えない“流れ”があって、その流れに反したり、抗おうとすると、それは壁にボールを投げて跳ね返ってくるのが当たり前のように、自分自身に返ってくる。

だから、戦って暴力を発揮すれば、暴力が返ってくることも、なんとなく理解しているつもりだ。

暴力で解決できる問題は、全て20世紀以前のものだ。

新しい混沌の世界を行く僕達に、暴力は意味をなさない。

強大な神話生物に対峙した時は勿論… 人間と対峙した時ですら、暴力は最終的に何も解決出来ない。

けれど…。

けれど、それは、行動しないこととは違う。

「ロバーツさん。ヌギル・コーラスが、太陽系を破壊しようとしているのは、あくまで手段であって、目的では無いですよね?」

「…? どういうこと?」

「ええと、つまり…。本当の目的が解決しさえすれば、太陽系を破壊しなくても良いんですよね?」

「ほんとうの… もくてき。」

「本当の目的…。悪夢です。悪夢を見ることが無くなれば、ヌギル・コーラスは太陽系を破壊しなくても良いんですよね?」

「でぃー君?何を…。」

エスパシオさんが、不安げに僕を見つめる。僕が何を言おうとしてるのか、何をしようとしてるのか、分からないんだと思う。

僕だって、自信を持って言ってるんじゃない。

…でも、何とかなりそうな気がする。

ヌギル・コーラスに想像力で及ばなくても。

虚構の世界を知る、僕達プリマデウスは、世界と世界を繋ぐことが出来る。

どんなに離れた世界でも、LINEでメッセージを飛ばす手軽さで、通じ合うことができる。

「そう…。ぬぎる・こーらすは、あくむをみなければ、たいようけいを、はかいしなくていい。」

ならば、やる事はひとつだ。

「<虚構“応用”技能>を使います。」

<虚構“応用”技能>。それは、虚構の世界に干渉できる人達が、世界を認識したり、干渉したりするだけでなく、より深く、より強く、より具体的な目的を持った手段で、虚構の世界に作用する技能。

例えば、超能力者が行う透視や念力。ダウジングだとか気功療法。サイコメトリーだとか邪視だとか、マインド・アップロードだとかオートマティスムだとか、それこそ膨大に存在する。電話やインターネットだって、その一部だ。

だから僕は、“他者と繋がる”。そして“世界と繋がる”。

現実では、コミュニケーションが全然出来ないくらい苦手だけど、虚構の世界なら、インターネットで繋がるような気軽さで、僕は虚構の世界の人達と繋がることが出来る…!

集中して… 繋がる…!

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(繋がった…!)

繋がりたい相手と繋がる時は、精神を集中させ、相手のことを思い浮かべる。

そのイメージする力が具体的であるほど、あるいは繋がる相手が記憶に残る個性的なイメージを持つほど、繋がりやすくなる。

僕の想像したイメージの相手は…。

とても想像することが容易なほど、個性的だった。

「眠りの大帝ヒプノス様… もとい、“サルバドール・ダリ”さんですか?」

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「いかにもぉ!!!」

すっごい元気な声が帰って来た。

「ワガハイこそは、サルバドー・ドメネク・ファリプ・邪神(ジャシン)・ダリ・イ・ドメネク!シュルレアリズムのアーティストにして、この世界きっての“天才・サルバドール・ダリ”である!!そして、虚構の世界にて、深き智慧と知識を有し、眠り神の域に辿り着いた、ヒプノスの化身である!!!!!」

ど ん ! !

そんな、文字のエフェクトが出てきそうなほど、その名乗りは、堂々としたものだった。

(以前…)

そう、いつだったか忘れたけど少し前。

僕と同じプリマデウスの探索者、怪奇探偵 写楽家久さんと、精神病患者 リデ・イエステ、そして心理学者で著名なカール・グスタフ・ユングさんから、眠りの大帝ヒプノスの監獄に囚われたという話を聞いた。

そして、監獄から脱出するために、眠りの大帝ヒプノスに会い、謝罪をしたというのだけれど、そのヒプノスの化身として現れたのが、この“サルバドール・ダリ”さんだったというわけだ。

「ほっほーーーう。君はアレだね?そう!探偵クンと患者クンのお友達だね!?話は聞いてるよお~~~~~んっふふふふふwwwww。彼らは私の友人だ!そして彼の友人である君も、勿論 私の友人だ!ズバァリ!君は、この“サルバドール・ダリ”の力を借りたいのだね????なぜ、わかるのかって?みなまで、言わせないでくれたまえ!それは、ワガハイがァっ!!天!才!!であるからに、決まってるのである!!!!!」

元気な…。

元気な人だ…。

「…話が早くて助かります。ダリさんは、ヌギル・コーラスという存在を」

「勿論、存じているともぉーーーー!!!ほっほう!読めたぞ、君の願いが!危機が迫っているのだろう?わかるわかる!!良いとも良いとも。この天才、君に力を貸そうではないか!!」

頼りになる人だ。…でも、この借りはいつか返さなくちゃならない。それが、何十年後か、何百年後か、何千年後になるかは分からないけれど、僕達はそういう世界を生きている。

「では、お願いします。僕達に同行して…。」

ヌギル・コーラスが僕達を食べようとしているなら。

「ヌギル・コーラスの。」

僕達もヌギル・コーラスを食べ返せば良い。

「悪夢を食べてください。」

サルバドール・ダリさんの夢想世界から、ティプトリーさんの宇宙世界へ。

夢と宇宙、二つの世界を僕は繋ぎ、ヒプノスという夢を司る神を。

夢を喰う獏を、宇宙に送り込む。

「ヌギル・コーラスに寄り添った手段は、多分これで大丈夫。あとは…」

あとは、僕達を喰わんとしている、巨大で恐るべきヌギル・コーラスに、いかにして近づき。

そして、いかにして安らかな眠りへ誘うかだ。

楽しい創作、豊かな想像力を広げられる記事が書けるよう頑張ります!