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太田克史×中島望×林田球で送るB級バイオレンスダークヒーロー恋愛アクション『十四歳、ルシフェル』を目撃せよ!

  メフィスト賞が「イロモノばっかり」と言われていた頃にデビューして「ミステリとは……?」と思わざるを得ないバイオレンス格闘アクションを書いて怪気炎を吐いていた作家が中島望先生です。
 清涼院流水とかがブイブイ言わせてた頃のメフィスト賞に空手バトル小説を送って受賞しているあたり本当にすごいのですが、再評価が進みつつある富士見ミステリー文庫でも作品を書いているので誰が何と言おうとミステリ作家です。
 さて、その中島望先生が後に星海社FICTIONSを立ち上げ講談社タイガを喰ってミステリマニアから熱狂的な支持を集めるようになる「あの」太田克史、そして『ドロヘドロ』でお馴染みの林田球先生と組んで出したのがこの『十四歳、ルシフェル』です。

 『十四歳、ルシフェル』がどういう小説かというと、B級バイオレンスダークヒーロー恋愛アクション小説です。
 聡明で美しい幼馴染の少女・百合子に淡い恋心を抱く陰キャショタ顔中学生・正義がサイボーグ「ルシフェル」として(中学生の倫理観で)悪を成敗するバイオレンス巨編です。
 おりしも本作が世に放たれた2001年は平成ライダーシリーズが既に開始されており、1年後にはあの「仮面ライダー龍騎」が放送、善悪では括れないヒーロー像が世に衝撃を与えることになります。
 太田は「これは70年代ヒーローものですね」と言っていますが、要するに平成ライダーです。

 まず本を開いて度肝を抜かれるのは、「山田風太郎先生に捧ぐ――」という序文の直後に映画『レオン』から引用された台詞が記され、本編の必殺技は「パノラマ島の花火」シリーズ(敵を空中に打ち上げて爆発四散させるよく考えたら迷惑な技)といった乱歩オマージュ(正義が乱歩の愛読者だから)という豪快さです。
いや、そこは山風から引用しろよ!と総ツッコミを入れたくなりますが、「オマージュは表面をなぞるだけじゃねーんだよ!」という中島先生の叫びが伝わってきます。

 陰キャショタがヒロインとイチャイチャする僕ヤバみたいな序盤から一転、正義が不良に惨殺され百合子はレ〇プされそれを秘かに見ていた倫理観マイナスに突っ走ってる百合子の祖父が正義の死体をサイボーグとして蘇らせる展開からは怒涛すぎて一気に読み終えてしまいました。

 といっても平成ライダーのように週替わりの怪人と激闘を繰り広げるわけではなく、公園や河川敷をうろつきながら、不良から足を洗って一家庭を築こうとしているワルや殺人事件の容疑者を無罪にする正義感の無い辣腕弁護士一家といった絶妙にみみっちい悪い人間を次々に葬っていくのですが……。

 この「すごい力を与えられながらも中身が中学生なのでそれ相応の行動しか取れない」というのが本作の絶妙な味になっていて、大人になって世俗の汚さを嫌というほど味わってきた百合子と中学生のまま生き返ってしまった正義のすれ違いの悲愴さと同時に、どことないオフビート感が漂っているのが魅力です。

 終盤は伏線や整合性を全無視して無からいきなり生えてきた2号ライダーと戦うというとんでもない展開になるのですが、力に陶酔しきっていた正義が2号ライダーとの戦いの中で自身の弱さと向き合うエンディングは綺麗な気がします。やっぱり平成ライダーじゃん。

 また、本作は林田球先生描きおろしイラストがたっぷり掲載されているので林田球先生ファンにもかなりオススメできる一作となっております。
 惜しむらくは絶版な上電子版も出ていないので、読むためには古本屋を回る必要があるのですが、もし機会があったら一読いただきたい怪作です。

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