![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/74081350/rectangle_large_type_2_ff098e208d62dcf5578baba7e16568a6.jpg?width=800)
ライト文芸オール・タイム・ベスト50選
ライト文芸のオール・タイム・ベストを作ろうと思う。
何故ならライト文芸には「このライト文芸がすごい!」のような評価やリストアップを行うものは全く存在せず、とりあえず新刊を片っ端から消費していくような状態が続いているからだ。
しかしそれはあまりにも勿体ない。
ライト文芸にも、「語り継がれるべき名作」というものはあると思うからだ。
だから私はライト文芸のオール・タイム・ベストとして50冊を選ぶことにした。
ピックアップした作品は売れ線定番から、悲しいことに埋没してしまっている作品まで様々だが、面白さは保証したいと厳選に厳選を重ねた。
ここに挙げられた50冊のうち、どれかひとつでも心に刺さるものがあれば幸いである。
1.辻村七子『螺旋時空のラビリンス』
ロマン大賞がコバルト文庫からオレンジ文庫に移行していく時期に世に送り出された、伝説のデビュー作。
タイムマシンを使い19世紀のパリで泥棒をしつつ幼馴染を取り戻そうとする主人公は、幼馴染を救うため壮絶な時のらせんに巻き込まれていく。
時代ロマンス的な設定とストーリーを取りつつも、実際にはタイムリープとそれに伴って引き起こされるとんでもない事象を描いたハードSFであり、「SFに対して超本気」という作者の意志が窺い知れる。
辻村七子はその後SF要素の無い『宝石商リチャード』シリーズでヒットするが、『マグナ・キヴィタス』といったハードSF作品も間隙を縫って発表している。
2.松村涼哉『僕が僕をやめる日』
ライトノベルでデビューし「MW文庫でやれ」と言われ続けて本当にライト文芸に移った瞬間爆発的にヒットした松村涼哉の作品。
貧困ビジネスに苦しむ主人公に差し伸べられたのは、売れっ子小説家として身分を偽って生活することだった。地獄のような日々から一転、小説家との幸福な生活を手に入れた矢先にその小説家は姿を消し……。
いじめや貧困といった重いテーマを取り上げてきた松村涼哉作品の中のベスト、ファーストタッチに絶対におすすめといえる作品であり、身分を偽るスリリングさと豪奢さな生活が両立する前半、そして姿を消した小説家を追ううちに彼の犯した罪に迫る後半の落差が胸を打つ。
これまでの難点だった「サイコパスの黒幕を倒せば問題が解決する」展開がないのも良かった。
3.斜線堂有紀『恋に至る病』
現在のライト文芸シーンを牽引すると言って過言ではない活躍を見せる斜線堂有紀の代表的作品。
善良だったはずの少女が巻き起こし、日本を震撼させた邪悪なゲーム。究極の悪として君臨する少女の幼馴染の恋と、彼ら2人の過去にまつわる秘密を掘り下げていく。
ヒロインの邪悪さと、それを知りながらも恋心を棄てない少年というある種歪みつつも美しさを感じさせる関係性の描写はまさに斜線堂作品の真骨頂。二人がどんな結論を出すのか、そしてそれを読者はどう受け止めるのか。
4.阿津川辰海『紅蓮館の殺人』
東大ミス研出身の作家によるライト文芸。
作家の駆け出しである高校生の「僕」と名探偵を自称するその同級生の葛城が、燃える館で巻き起こる殺人事件に挑む。
オーソドックスな館もののようだが、長大なボリュームに幾重にも仕掛けられたサプライズは驚愕間違いなしだろう。
ラストに絶望するかもしれないが、そう思ったのならば続編の『蒼海館の殺人』も読んでほしい。
4.凪良ゆう『すみれ荘ファミリア』
本屋大賞作家にしてBL作家が初めて出したライト文芸作品。
初出は富士見L文庫だったが、いざこざがあったのか長らく絶版・プレミア状態にあったところを講談社タイガが全点書き下ろし公約を破って再文庫化した。
一見すると平穏そうな下宿の住人達だが、その裏にある複雑で陰鬱な事情が絡み合うサスペンス作品。ほのぼのや癒しを求める読者にはまったく向かないが、ここに描かれた「愛」に何かしらを見出すかもしれない。
6.ヰ坂暁『僕は天国に行けない』
インターネットで気炎を吐く作者によるライト文芸二作目。
親友の死を自殺と言い張る謎の少女とともに、死の真相を追う先に待つものは。
twitterのアカウントとは全然違う、シニカルかつリリカルで、抒情的な展開が胸を打つライトミステリ。デビュー作である『舌の上の君』も食人をテーマにしつつリリカルな作風で面白いので気になった人は是非読んでほしい。
7.汀こるもの『火の中の竜 ネットコンサルタント「さらまんどら」の炎上事件簿』
インターネットの炎上を解決するインターネットよろず相談所「さらまんどら」に持ち込まれる様々な炎上案件を謎解きする、メフィスト賞作家汀こるもの初のMW文庫作品。
登場するネット炎上は、今だからこそ身近に、生々しく感じられるだろう。
探偵と助手の掛け合いなどポップな書き口ではあるものの、SNSが身近になった現代だからこそ考えさせられる一作。
8.青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス』
異形の影が濃く残る19世紀を舞台に、首だけの美少女探偵と鬼の血を引く青年が謎を解きながら自身の過去に迫っていくバトル×ミステリ。
吸血鬼や人狼といったファンタジー要素を盛り込んだ特殊設定ミステリとしてもさることながら、幾つもの勢力が入り乱れて戦う能力バトルものとしての魅力も十分で、ミステリが苦手なラノベマニアにもおすすめしたい。
9.武内涼『鬼狩りの梓馬』
歴史系ライト文芸の中で熱く切ない少年漫画的作品を書かせたら右に出るものがいないのが武内涼である。
歴史小説界隈では売れっ子なので多くのシリーズ作品があり、どれから手を出そうか迷ってしまう読者も多いが、話がしっかり1巻でまとまっているこれをお勧めする。
戦国時代に鬼から人間に転生した少年が、村に襲い来る凶悪無比な鬼と戦うある種のヒーローもので、努力・友情・勝利の三拍子揃った熱い展開を楽しめる。
10.古野まほろ『セーラー服と黙示録』
孤島に浮かぶ探偵養成学園で巻き起こる殺人事件に、「犯人」「手口」「動機」をそれぞれ推理する三人の少女が挑むライトミステリ。
(自称)ライトミステリというわりにはボリュームが長大なのだが、そこは古野まほろ特有の濃密な世界観と圧巻の謎解き(とオタクネタ)でどんどん読み進められるだろう。
シリーズは5作出ており、古野まほろの代表作ともいえる「天帝シリーズ」とのクロスオーバーである『セーラー服とシャーロキエンヌ』も存在している。
11.唐辺葉介『つめたいオゾン』
重苦しい作風でカルト的人気を誇るラノベ作家が何故か突然出したライト文芸。
お互いの感覚を共有してしまう少年少女の交流が描かれる……と書くとライト文芸によくある設定じゃんと思うかもしれませんが、そこは唐辺葉介。
それぞれに絶望的な事情を抱える少年少女の、のっぴきならない交流は「この作者ではないと書けない!」と思わされる。
12.黒史郎『幽霊詐欺師ミチヲ』
顔だけが取り柄のヘタレな青年・ミチヲが、とある事情から彷徨える悪霊を結婚詐欺に嵌めるホラークライムコメディ。
登場する幽霊は非常に凶悪でおぞましいのだが、それを結婚詐欺に嵌めるというどこかコミカルな作風に落とし込むことで怖さと笑いが入り乱れた作品になっている。
結婚詐欺、といいながらも幽霊と人間のラブコメディという側面もあり、ある意味では『呪術廻戦0』に近い……かもしれない。
13.酒井田寛太郎『放課後の嘘つきたち』
ガガガ文庫の『ジャナ研の憂鬱な事件簿』でミステリマニアから注目を集めた作者による初ライト文芸。
ボクシング部のエースが幼馴染の女子と皮肉屋の演劇部部長とともに学園の謎を解くアユミス(鮎川哲也新人賞から出ていそうな学園ミステリ)。
こういうアユミスではハートウォーミングな結末を迎えることが多いのだが、本作で取り上げられる事件の結末はほろ苦く、主要登場人物の過去を容赦なくえぐってくる。それでも、ひとつの希望を残しているやさしい小説でもある。
14.佐藤さくら『魔導の系譜』
魔導士が差別され、虐げられている国で私塾を開いている三流魔導士が、魔導士の最高機関から学ぶことを拒否する問題児を託され育成していくが、やがて大きな歴史の渦が二人を襲う……。
東京創元社から出ている魔法ものファンタジィ。魔法もの、といってもハリーポッターというよりは『サガフロンティア2』や『ファイアーエムブレム風花雪月』といった大河ファンタジィゲームに近く、それらが好きなら万難を排して読んでいただきたい作品である。
シリーズは4巻完結となっている。
15.綾里けいし『魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件簿』
「魔獣」と呼ばれる存在と共生・愛玩する19世紀ふうの世界における特殊設定ミステリ。
ファンタジー×ミステリといえば最近流行のジャンルだが、本作ではそこに多重解決を取り入れており、なかなかに意外性に富み捻った謎解きを楽しめる。
また、多大な被害を齎しながら事件を解決していく探偵役の悪辣ぶりにも注目したい。
16.鹿目けい子『すもうガールズ』
彼氏にフラれ、進学校への入学も諦めた主人公の前に現れたのは、たった2人の女子相撲部にいる幼馴染だった。無気力になっていた主人公だったが、ピンチヒッターとして相撲部に引き入れられて以来相撲に魅せられ、ある一つの想いを抱く……「幼馴染と戦いたい」
格闘技×百合小説です。女人禁制とされる相撲をテーマに、百合を描くという非常にチャレンジングな試みをしていますが、結果少年漫画的熱さと同時にライバル同士の百合が展開されていく異様な小説なので百合マニアは是非チェックしてみてほしい。肉のサイコマンとかに百合を見出す人は多分気にいるかと!
17.七瀬夏扉『ひとりぼっちのソユーズ』
幼い頃に出逢った少女の生きづらさに共感し、月を目指して宇宙飛行士を目指し冒険する少年の物語。
アニメ化計画が持ち上がるほど話題になった1作であり、少女のためにひたむきに宇宙を目指す主人公の姿は熱く胸を打たれるものがある。
その後アニメ化計画がとん挫して作者の心は折れた……かのように思えたが、後に主婦の友社から完全版上下巻が発売されているのでそちらを買うのがいいだろう。
が、個人的には『ガンダム Gのレコンギスタ』『地球外少年少女』で知られる吉田健一がイラストを描いているオリジナル版も捨てがたいものがある。
18.鳥畑良『ハードボイルド・スクールデイズ』
ノベルゼロが路線変更の間隙を縫って出した、レーベル唯一の青春小説。
生活の一部にセックスを取り入れてしまった幼馴染と、そんな幼馴染を見つめる「僕」の青春と性と暴力を描く。
こう書くとハチャメチャな内容なんじゃないかとも思われるかもしれないが、読み味は意外と切なくそれでいて背中を押されるようなあたたかみも持ち合わせている。
19.赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』
主にインディーズゲーム・クソゲー界隈で活躍するライターによる架空の未来のクソゲーをレビューする形式のSF小説。
登場するクソゲーは単純な造り込みの低さではなく、様々なアイデアの空回りや事情が入り乱れたものばかりで、笑えると同時に哀愁漂うものになっている。
作中からは世界観が垣間見え、それがレビューそのものに大きな影響を与えていく一つの長編としても見どころがある。
20.森晶麿『東京・オブ・ザ・キャット』
法律によって愛猫が定められた近未来の東京で起こる、猫にまつわる7つの事件を「猫トラブル解決堂」が解き明かしていくライトミステリかつ三角関係もの。
あの「黒猫」シリーズ・『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』の作者による衒学的ミステリであり、ちょうどこの2つを結び付けるようなタイトルになっている。
猫と三角関係をテーマにしつつも、次第に東京という都市そのものの都市論に迫っていく内容はライトミステリとしては珍しく、「黒猫」シリーズの読者も満足していただけるのではないだろうか。
21.清水晴木『体育会系探偵部タイタン!』
体育会系のメンツが己の肉体(と知恵)で学園の謎を解く、いわゆるアユミス(鮎川哲也新人賞から出ていそうな学園ミステリ)。
探偵がガチガチの肉体派というギャップの面白さもさることながら、卓越した登場人物の心理描写とそれによって紡がれる青春模様が見どころ。
22.富永浩史『鋼鉄の犬』
PMCに雇用された軍用犬の調教師とその相棒のシェパード・ルークに与えられた任務は、試作ロボット犬の調教と紛争地帯での実用だった……。
既にカタチになっているロボット兵器の調教というテーマを描き、かつ犬萌えにもたまらない熱いバディ展開が楽しめるSF小説。
ちなみに犬は死なないので安心してください。
23.辻堂ゆめ『片想い探偵 追掛日菜子』
舞台俳優に留まらず、力士や総理大臣などに「推し」を作ってはストーキングまがいの情熱を燃やす女子高生・追掛日菜子が推し達にまつわる事件を解決してしまう短編連作ライトミステリ。
「推しの炎上」という現代的テーマを取り上げながらも、病的なまでにポジティブな探偵役の推理とそれによって明かされる真相が楽しく、気楽に読めるライトミステリのお手本的一冊。
24.古橋秀之『冬の巨人』
今は亡き徳間デュアル文庫から出て好評だったSFを黎明期の富士見L文庫が再文庫化したもの。
終わりのない冬を歩き続ける巨人の上で人々が生活する世界。主人公は「世界」の外からやってきた少女と出逢い、世界の秘密に迫っていく。
「ゼノブレイド2」やジブリチックな世界観のもと繰り広げられる冒険譚はワクワクさせられるとともに、終末的な世界とそこにもたらされる希望がとにかく素晴らしく、復刊されて嬉しかった一冊。
25.九岡望『言鯨16号』
秋山瑞人フォロワーとしてSFマニアから注目されていた作者の初ライト文芸。
「言鯨」と呼ばれる神によって造られた、全てが砂に覆われた世界。歴史学者を志す少年・旗魚は、裏の運び屋と歴史学者とともに禁断の「言鯨」の遺骸の調査に赴くことになるが、そこで起きた異変を機に言鯨は覚醒、世界は一変してしまう……。
乱雑な言い方をすると「デューン」と「ゴジラKOM」を悪魔合体させたような大怪獣冒険SFであり、登場する様々な怪獣やガジェットにはとてもわくわくさせられる。
もちろんそれだけでなく、「言語」をテーマに人とそれ以外がどう付き合うべきかを描いた壮大なSFとしても読むことが出来よう。
26.金子ユミ『千手學園少年探偵團』
大正時代の東京。大蔵大臣の妾の少年が放り込まれた名門学園で起こる謎を仲間達とともに解き明かしていくライトミステリ。
大正時代当時の身分・性差別といったテーマを盛り込みつつも、話のトーンは重くならずとにかく前向きな主人公と一癖も二癖もある周囲のキャラの造形がいい。
ライトミステリとしても遜色のない出来だが、学園の支配をかけた生徒同士のコン・ゲームものとしても楽しめる。
27.キタハラ『熊本くんの本棚』
完全過ぎて現実味のないイケメン・熊本くんのとある「秘密」をきっかけに、何事もなさそうな人々に隠された重い事情を紐解いていく作品。ライト文芸で流行している同性愛者愛玩もの(不愉快なジャンル名)のような印象を受けるタイトルだが、そういった問題を茶化さず真摯に取り上げていることもあって、読んだインパクトは重量級だろう。
28.木原音瀬『捜し物屋まやま』
凪良ゆう、一穂ミチらとともにBL小説の「文壇」からの再評価ムーブメントを牽引している木原音瀬のライト文芸作品。
直接的なBL描写はなく、いかにもライト文芸らしいお悩み相談の形式で話が進んでいくが……解決は論理的というより超自然的な力を使うし、突然流れるような暴力描写が盛り込まれていたり、後味の悪い終わり方をしたりとかなり異質な印象を受ける。
それでも木原作品の持ち味であるディスコミュニケーションによって生まれる人と人の繫がりはしっかりと描かれ、「いきなりBLのリパッケージングから手を出すのは……」という人に。
29.梧桐彰『その色の帽子を取れ』
オリンピックを控える東京。主人公のショウは、かつての同僚で天才エンジニアだったサクを探し、ようやく手がかりを掴むが、それが思わぬ悲劇の入口だった……。
SFっぽいイメージを抱くと思うのですが、現実で実現可能な技術を取り扱ったハードボイルド同性間巨大感情小説です。リアルタイムの当時の情勢を取り入れつつ緊迫したストーリーが進むと同時に、同性同士の巨大感情が炸裂していく様はまさに圧巻。
30.小川一水『不全世界の創造手』
工場を大企業に買収され、復讐心に燃える町工場の息子が、大企業の令嬢と出逢い、自己複製するフォン・ノイマン・マシンによって世界をしっちゃかめっちゃかにしていくSF作品。
小川一水といえば『天冥の標』があまりにも有名だが、1作で読みやすいものをということでこれをチョイスした。
ものづくりによる世界の改善を信奉する主人公が直面する様々な試練、主人公の周囲で巻き起こるフォン・ノイマン・マシンを巡る経済戦、そして同性同士の巨大感情などがあり、小川一水という作家の引き出しの広さを窺い知れる良作。
31.石川博品『ボクは再生数、ボクは死』
ライトノベル界のライターズライター筆頭としてカルト的人気を集める作者のライト文芸。
VRメタバース空間を舞台に、美少女としてVR少女とセックスをする栃木のサラリーマンと、彼の秘密を知ってしまった会社の同僚の女性(身体障がい者)が知名度と金を集めるためにメタバースで殺戮を繰り広げる。
『スノウ・クラッシュ』のようなメタバースクライムアクションなのだが、「性愛」「身体性」「アイデンティティ」といったテーマを盛り込むことで暴力エンターテインメントとしての面白さを担保しつつも現代的な問いかけを投射している怪作。
32.森山光太郎『隷王戦記』
大国の侵略戦争を描いた戦記もので、こう書くとゲースロやファイアーエムブレムのような堅実な感じを思わせるのだが、実際はチート能力を持った能力者同士のバトルとその周囲の調略が趨勢を決める『異修羅』のような作品である。
シリーズは3巻完結の予定で、戦略的な戦記ファンタジーを期待すると肩透かしを喰らうかもしれないが、『異修羅』や『勇者刑』が好きな人には是非読んでいただきたい一冊。
33.大樹蓮司『GODZILLA 怪獣黙示録』
壮絶な賛否両論を巻き起こしたアニメ映画版ゴジラの前日譚となる作品。
怪獣が世に出現し、文明社会が崩壊していく様、そして怪獣を目前にした人類の反攻をオーラル・ヒストリー形式で描く。
怪獣の猛威を感じられる迫真の描写とともに、東宝怪獣オールスターぶりは特撮オタクであれば万雷の拍手喝采を送りたくなるのではないだろうか。
なお、続編に『プロジェクト・メカゴジラ』がある。ちなみに前日譚のノリを期待してアニメ映画を観ると大火傷を負うので要注意。
34.王城夕紀『天盆』
新人賞で圧倒的な高評価を得ながら「ライトノベルらしくない」という理由だけで大賞を逃してしまった伝説のデビュー作。
ボードゲームが立身出世を決める世界に降り立ったゲームの天才と、それに振り回される周囲のボードゲームプレイヤー達、そして一国の興亡を描ききっており、新人賞での高評価も頷ける凄まじい密度と速度、熱量を兼ね備えた中華系ファンタジーのランドマークの一つといっていい作品だろう。
35.江波光則『我もまたアルカディアにあり』
ライトノベルで気炎を吐き続けてきた江波光則の初となるライト文芸作品。
住めば労働から解放されるというマンションの住人達の事情を描いた短編連作で、創作のために文字通り身体を捧げる男、大気汚染された世界をバイクで駆け回りたい男(とそれに恋愛感情を抱く女)などが登場する。
バイオレンスでユーモラスでどこか哲学的な江波光則作品の集大成ともいえる作品で、江波作品の入門編としても、現代的なエッジを備えてしまった本としても非常におすすめな一冊。
36.深見真『ヤングガン・カルナバル』
アニメ・漫画脚本の分野で主に活躍している深見真のデビュー初期の作品。
壮絶な過去を抱えた少年と、レズビアンの少女の高校生殺し屋二人によるバディアクションなのだが、バディの片方がレズビアンなので最後まで恋愛関係に陥らないのがかなりセンスが良いと感じさせられる。
シリーズは長く、レギュラーキャラがポイポイあっけなく死んでいく非常にドライな作品ながらも、初期の深見作品のエッジの鋭さは今なお鈍らないまま我々読者に迫ってくる。
37.彩坂美月『少女は夏に閉ざされる』
最後の富士ミス作品として有名だった『未成年儀式』をライト文芸として文庫落ちさせたもの。
大地震が作品のキーワードとなっていたため、東日本大震災の発生によって再刊が絶望視されていたが全面改稿の上無事文庫落ちした。
大地震によって閉鎖された女子寮で巻き起こる少女達と殺人鬼のスリリングな攻防戦ときらめくような青春の輝き・苦みを両立させた読み味は今後の彩坂作品に通じるところがあり、入門としておすすめする。
38.須賀しのぶ『芙蓉千里』
少女小説の大家である須賀しのぶによる長編歴史ロマン。
「大陸一の売れっ子女郎になる」という夢を抱く少女フミの成長や様々な人物との出逢い、そして激動の歴史の渦の中に巻き込まれていく様子を描いた大河ロマン。全4冊で結構分厚いという凄まじいボリュームながら、スピード感ある描写で、ラブロマンスあり同性同士の巨大感情ありコン・ゲームありと盛りだくさんの、これぞエンターテイメントの満漢全席ともいえる傑作。
39.ゆずはらとしゆき『咎人の星』
90年代の地方都市で鬱屈とした青春を送るひとりの少女が出逢ったのは、ハヤタと名乗る謎の家政夫だった。共同生活の中で惹かれ合う二人だったが、ハヤタに隠されたとある「罪」は二人を否応なく引き裂いていく……。
異種族ラブストーリーであると同時に、90年代から10年代までを生き抜いた女性のサブカル史的作品になっており、桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』をどことなく彷彿とさせるとにかく不思議な一冊。
半面、グロテスクな描写や性的描写も非常に多いので要注意。
40.扇友太『竜と正義』
MF文庫J新人賞をリライトしてノベルゼロで出し直した作品。
異世界と接続してしまった社会を舞台とするポリティカルアクションで、一言でいうならば「ファンタジー要素のあるメタルギアソリッド・MIU404」だろうか。
勧善懲悪・一筋縄ではいかない問題にどうにかして苦闘していく主人公たちの姿は、現実社会が抱える民族・移民問題とも重なり、今だからこそ読んでほしい一冊になっている。
41.野崎まど『パーフェクトフレンド』
何故満場一致で野崎まどの最高傑作である『2』にしなかったのかって……それはあれは初見にはハードルが高いからですよ。
頭の良さを自慢に思う小学生の理桜は、大学院を卒業し数学者となった不登校の同級生さなかと出逢う。
超絶な天才のさなかに弄ばれプライドをズタズタにされた理桜は「あんたには友達がいない」と彼女にマウントを取るが……。
「小学生の友情」をテーマにしつつもそこは野崎まど。一筋縄でも二筋縄でもいかなさすぎるとんでもない展開が待っているのでお楽しみに。
無論この話も『2』に繋がっている。まど入門としては『know』と並んでおすすめではないだろうか。
42.オキシタケヒコ『おそれミミズク』
「スーパーロボット大戦」シリーズや『筐底のエルピス』シリーズで有名なSF作家・オキシタケヒコの単著ライト文芸。
座敷牢に囚われた少女に、主人公が語る怪談。恋愛とも友情ともつかぬ関係性は十年近く続くのだが、怪異は知らず知らずのうちに二人に近づいてきていた……。
ボーイミーツガール×実話怪談×SFという意外な組み合わせが目を引くも、恐ろしくも綺麗にまとまった幻想文学の良作。
終盤の展開はワールドトリガーファンを中心に話題を集めつつある『筐底のエルピス』にも通じるところがあるので、エルピスは話が長くてちょっと……という向きにも是非体験していただきたい。
43.紅玉いづき『ガーデン・ロスト』
『ミミズクと夜の王』などライト文芸的ファンタジーの分野で活躍してきた紅玉いづきの初となる現代小説集。
学園を舞台に、4人の少女の悩みと喪失を描く。
書かれた時代が時代だけにやや描写が古いが、「推し」や「ジェンダー」など最近になって特に取沙汰されるテーマが取り上げられており、そして何よりバカっぽさそうなのに実は賢い面もあったり、聡明なのにどこか抜けていたりと不安定な少女の心情を、ファンタジー要素抜きだからこそのストレートかつ繊細な筆致で描ききる作者の技巧を堪能できる逸品。
44.円居挽『さよならよ、こんにちは』
復讐のために奈良の進学校に身を置く本陣達也。先輩である瓶賀流は彼に一本のゲームソフトを手渡し、そこからめくるめく謎と青春が繰り広げられていく。
作者のデビュー作である『丸太町ルヴォワール』の前日譚ともいうべき作品で、ルヴォワールシリーズの主人公の一人である達也の過去を描いている。
ミステリ要素よりは青春要素に重きを置いており、作中のカギとなるとあるゲームソフトの扱いが非常にエモくて舌を巻いた。
45.三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』
鎌倉の古書堂に持ち込まれる事件を、店主の栞子と本が読めない体質の大輔が謎解きしていく、ライトミステリというジャンルを定着させた記念碑的作品。
ストーリーは単なる謎解き(読みやすく、題材となった本に興味を持たせるような魅力的な造りになっているのもポイント)から栞子の家族事情、そして東日本大震災で生じた禍根まで発展していき、シリーズ中盤からは震災文学としての色合いが強くなる。
46.柞刈湯葉『重力アルケミック』
地球が膨張し、地域と地域の距離が大きく広がった平行世界を舞台に描かれる大学生の青春模様。
地球の膨張という壮大な舞台背景を取り扱いながらも、実際に展開されることは大学生のささやかな挑戦だけなのだが、むしろその塩梅が良いというか、確かにささやかでありつつも未知の領域を切り開くSFとしても非常に面白い。
47.森川智喜『スノーホワイト』
ライト文芸初となる本格ミステリ大賞を受賞した記念碑的作品。
「真実を明かす鏡」をめぐり、悪辣な名探偵・三途川が策謀を張り巡らせるミステリ、というか能力バトルもの。
『キャットフード』の続編にあたるのだが、とりわけ読むのが必須というわけでもないのでここから入っても問題はない。
ともかく悪辣で極悪非道な三途川の罠を、「鏡」でどう切り抜けるか。
スリリングであっと驚く展開を是非楽しんでほしい。
48.田丸久深『陸くんは、女神になれない』
異性装者であるが、学校では「男らしく」通っている高校生の陸とその幼馴染や周囲の関係性を通して、多様な性のあり方や生き方を取り上げた短編連作集。
性的少数者を珍獣扱いして愛玩するライト文芸も多々あるのは残念だが、本作では自身の性と向き合い、新しい生き方に向かって歩んでいこうとする希望が描かれている。
特にミステリ的要素が取り入れられた第2話が素晴らしい。
49.ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ『スズメバチの黄色』
アニメ化やMTGとのコラボで話題の「ニンジャスレイヤー」の外伝となる青春サイバーパンクアクション。
忍殺の独特な文体は鳴りを潜めているのでいきなりリアリティショックを受ける可能性は低く、忍殺入門におすすめの一冊。
陰鬱な世界で、絆と仁義を通しながら戦い続ける少年少女の姿にはぐっとくるものがあるはず。
まずはこの1冊からネオサイタマに飛び込んでみよう。
50.綾崎隼『初恋彗星』
「けんご大賞」なる賞を受賞するなど注目を集めつつあるライト文芸作家のデビュー2作目となる作品。
駆け出しの時代に書かれた、ボーイ・ミーツ・ガールな恋愛ミステリ……と称しているが実はとんでもない事態になる。
ドラスティックな展開の連続に叩き込まれるようにして読んでしまった。
綾崎作品は世界観が繋がっているが、これに関してはデビュー近辺作ということで予備知識はあまりいらないようになっている。
また、本自体にとある仕掛けが仕組まれるようになったのもこの作品から。どんな仕掛けなのかは自分で探してみてほしい。
あんな話を組みながらそんな仕掛けを作っているなんて、作家って心底恐ろしいと思った。
というわけでライト文芸のオール・タイム・ベストをお届けした。
これはあくまで私が読んで面白かったものの選書なので、ご期待に沿えない場合もあるとは思う。
ただこれが、あなたがライト文芸の広い海原へ出航するための海図の欠片にでもなってくれればこれほど嬉しいことはないだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?