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ヤンキーラノベ『純白と黄金』について

 HiGH&LOW以降のラノベこと『純白と黄金』を読んだ。
 大々的な宣伝に比しての面白くなさでラノベ界隈からは大不評、というか炎上しているような気がする本作だが、個人的にはまあ、ありじゃないかというポジションです。
 「本人の預り知らないところで肥大化し手に負えなくなった伝説といかにして向き合うか」というテーマは奇しくも『スターウォーズ 最後のジェダイ』と通じる部分があるし、敵ヤンキーの同性同士の巨大感情とか良かったと思う。
 あとヒロインかわいかったですね。
 でもわざわざ「最後のジェダイ」を引き合いに出していることから何となく察せられる通り、あまり軽率に人に勧められるような作品ではないだろう。
 こう、素人目に見ても文章が壊滅的にダメ(どこがダメかというと、バトル描写の語彙があまりにも貧弱でつまらない)だし、ヤンキーの描き方がハイローやクローズのそれというよりニンジャスレイヤーじゃねーか!
 2022年に「今日俺」からあんまり更新されてないヤンキー像を戯画化したものをお出しするな!
 なんなんだよ「東北のヤンキー農家が作った野菜には豊富なヤンキーパワーが宿っている」って!
 MF文庫編集部は東北をなんだと思っているのだ!

 発売後の反応を聞きつけたMF文庫編集部が「めっちゃ賛否両論だね~」と言って「賛要素どこにあるかいな」とラノベ界隈の怒りに火を注いでいるようだが、これは「めっちゃ酷評されてんねんけど」という言い換え表現なのであまり気にしないでほしい。(売り出す側が作品について「クソラノベ」とは口が裂けても言えないのだ。それは作品に関わった全ての人や会社への冒涜になるからだ)

 さて、『純白と黄金』で「ラノベでヤンキーものは無理」という主張が度々なされているが、たかだか1作の不評と炎上で諦めるにはまだ早いんじゃないかなと思っている。
 というかヤンキーもの全体がダメじゃなくてそもそもヤンキー要素はおまけのラブコメ漫画動画を無理やりヤンキーバトルものにしようとした『純白と黄金』が変なだけであって、『デュラララ』『ヴィークルエンド』『零式』とかヤンキーものっぽいラノベはもうあります。


 ハイローや東リベやWINDBREAKERを見ても、現代ヤンキーもので人気のあるやつはだいたいスーパーヒーローものの文脈と大真面目に結合しているので、そういう方面で、戯画化せずに、書いてみるのはどうかなあ……。



 戯画化(ここでいう戯画化とは、「今日俺」の頃から全然更新されてないヤンキー像を過剰なギャグ的に弄ったものです)しない、というのがかなりミソになっていると思う。
 その点でいえば『純白と黄金』は頭から尻尾まで下手な戯画化の連発だった。
 本作で指摘されるリアリティラインのなさは、必殺技とか特殊能力とかオーラとかよりも、散々連呼される「単車の爆音が目覚まし代わり」とか「SNSにいかつい自撮りをアップする」とかそっちの方に起因しているんじゃないか。

 現代ヤンキーもののヤンキー性は、「カッコいいヤンキーがカッコいいヤンキー仲間とともに他者に危害を加える悪人を(当人が暴力を行使していることに自覚的であれ無自覚であれ)殴って倒す」というヒーロー、というかスターウォーズのジェダイ像を大真面目にやったものだと思う。

 まあジェダイということはヤンキーの暗黒面に堕ちるのもあるわけで、実際東リベは魔性の男マイキーが闇(シス)堕ちしないように周囲が全力で囲う話ですが……。

 あと「ヤンキーものをラノベでまともにやろうと思ったらヴィジュアルがいかつくなって無理」という意見もあった。
 そこに関してもやはり現代ヤンキーものが参考になって、みんな東リベの魔性の男マイキーやハイローの轟小田島コンビを見て別にヤンキーをゴツく書く必要はないことに気付いてほしい。
 私もハイローがゴツい男アピールをしていた時期(具体的には、秋田書店のクローズ寄りの絵柄のハイローコミカライズが出ていた頃)に、轟リアリティショックを受けて「こういうヴィジュアルをヤンキーキャラにしていいんだ!」と衝撃を受けたからね!

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これが轟だ!

 「正統派な、ヤンキーの学園の覇権争いはラノベでやる必要はない」という意見についてだが、「(学園の)覇権争い」というのはもう一種の物語の類型になっているのでラノベでやる余地は十分にあるんじゃないかと思う。

 究極な話、それぞれの正義や仁義やなんかかっこいいやつを掲げた複数の勢力(チーム)が一つの舞台をかけて争ったり悪のシスヤンキー(薬物を売ったりする)と戦ったりすれば、学校であってもSWORD地区であっても宇宙であっても異世界であってもヤンキーものとして成立しうるのではないだろうか。

 実際、フェアリーテイルは当初「ヤンキーファンタジー」として売り出されていました。

 さて、ここまで書いてそもそもヤンキーのことが何も分からなくなっているかもしれないが、名著『世界が土曜の夜の夢なら』はそこのところについて深く掘り下げているので読んでみるのもいいかもしれない。(ただし出版から年月がずいぶん経っている本なのでハイローや東リベといった現代ヤンキーものについてはあまり書かれていない)


 ラノベは自由な空間であるので、みんな『純白と黄金』で「もう無理だ」と失望せずにヤンキーものラノベを読もう!書こう!

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