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読書感想文

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2022年1月の記事一覧

小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」読書感想

初版 2011年7月 文春文庫 少年がデパートの屋上に取り残された象に心を寄せるところから始まります。その象インディラは、子象の時に屋上遊園地に見世物として運び込まれ、大きくなったら屋上から降ろせなくなって、そのまま屋上で孤独に生涯を閉じました。 インディラの錆びた足輪の記念碑と、おそらく長年そこにいた事でできた窪みの水溜りに心を寄せて、少年は想像のなかでインディラを友達にしています。 また、自宅と隣の家の細すぎる隙間に、挟まったまま誰にも気づかれず死んでいった・・・かもし

桜庭一樹「荒野」から思う。成長とは何か・・

初版 2017年5月 文春文庫 あらすじ 鎌倉で小説家の父と暮らす少女・荒野。「好き」ってどういうことか、まだよくわからない。でも中学入学の日、電車内で見知らぬ少年に窮地を救われたことをきっかけに、彼女に変化が起き始める。少女から大人へ―荒野の4年間を瑞々しく描き出した、この上なくいとおしい恋愛“以前”小説。(アマゾン商品紹介より) ゆるふわ日常系? ほとんど何も起きない・・。 平凡な女子中学生が高校生になるまでの4年間の成長の話です。 主人公山野内荒野は部活動に熱中す

退廃って何でしょう? 小池真理子「恋」読書感想

初版 2002年12月 新潮文庫     あらすじ 1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。(アマゾン商品紹介より)  学生運動が盛んだった時代。 政治

向上心と他力本願の狭間で・・五木寛之「親鸞」読書感想

初版 2017年 講談社文庫 青春篇上下巻 激動篇上下巻 完結篇上下巻全6巻 力強い作品だった。 まともに向き合えば、一生かけても答えの見つからない まさに禅問答のような堂々巡りの底なしの海に、何度も引きずり込まれそうになった。 引きずり込まれそうになっては、みずからあえて距離をとって、掴まれた手を振りほどき 海面を目指して浮上しようともがく。 そんな作業の繰り返しだった。 正直、ちょっと疲れた。 それだけ、力強い作品だった。 結局、一番強く心に残っているのは 青春篇上巻冒