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コーヒーはあなたと共に -Chapter of Milk-【小林さんちのメイドラゴン 二次創作SS】


※この作品はクール教信者様、原作の『小林さんちのメイドラゴン』二次創作SSです。

〜〜〜

小学校からの帰り道、才川が小さな可愛いオレンジ色の紙袋をくれた。ジョージーから私のお家へのお土産らしい。才川がくれた紙袋、中身は見えないけどなんだか香ばしくて良い香りがする。何が入ってるのか気になって、くんくんと嗅いでいたら才川が教えてくれた。

「中身はコーヒーなんですって」

コーヒー。そうだ、いつもコバヤシが朝ごはんの時に飲んでるやつだ。

「コーヒー、いつも朝コバヤシが飲んでる」
「カンナさんのお母さんも飲んでるのね。私のお父さんも毎朝飲んでるわ。どうして大人って、あんな苦い物飲むのかしらねー?」
「お酒もそう。大人は変な飲み物が好き」

いつもの朝ごはんの時間、コバヤシが飲んでいる真っ黒なコーヒーのことを思い出す。少し舐めたことがあるけど、あんな苦いものの何がいいのかわからない。香りは素敵だと思うけど、私は絶対ココアの方がおいしいと思う。
そんな話をしてたら、才川がひょいって私の前に飛び出して話し始めた。

「でもね、カンナさん!私、この間カフェオレを飲んだの!」
「カフェオレ?」
「そう!コーヒーとミルクを混ぜた飲み物なのよ、ジョージーが作ってくれたの。私、コーヒーの美味しさにちょっと気づいちゃったかも」
「おー。才川、大人」
「まあねー!たっぷりミルクをかけたコーヒーゼリーも好きだし……、あ、勿論カンナさんの方がもっと好きよ。私もコーヒーをたしなむ大人になれちゃったかしら!」

才川、自慢げ。これぞ、才川。才川が楽しそうに話してると私も楽しくなるから好き。

「そうよ!カフェオレならコーヒーにミルクとお砂糖も入れるから、きっとカンナさんも飲めるわ!そのお土産もあるし、カンナさんちのメイドさんにお願いしたら作ってくれないかしら?」
「トール様ならきっと作れる。お願いしたら作ってくれるかも」
「やった!作ってもらえたら、一緒に飲みましょう!これで大人の仲間入りよ!」

今日はこのまま私の家に行って、二人で宿題してから遊ぶ予定で楽しみだったけど、新しい楽しみが一個増えた。嬉しい。もし、コーヒーを飲んで大人になれるなら、

「うん。才川と大人になる」
「か、カンナさん、それって……!!!ぼ、ぼへへへ……」

才川が顔を真っ赤にして、目だけ上を向いて、ぼへーって言ってる。……これはいつものやつ。才川、面白い。


まだ、下校し始めてすぐな気がするのに、もう家に着いた。二人で話しながら歩いてると、なんでか家までの道のりがいつもより近い気がする。時空が歪んでるみたいで不思議。
家のドアを開けると同時につま先立ちして、靴を脱ぎ始める。私、実は結構せっかち。

「トール様、ただいまー。才川、連れて来た」
「お邪魔しますー」

トテトテ、トテトテとランドセルも背負ったまま短い廊下を走って、お帰りなさいってトール様の声のする方へ一直線で向かう。私はもらったコーヒーの紙袋を手に掲げながら、

「トール様、カフェオレ作って!」
「カフェオレですか。どうしてまた?」
「ジョージーがコーヒーをくれた」

私がジョージーって名前を出したら、トール様の耳がピクッて動いてた。
ジョージーは才川のお姉さんだけど、趣味で才川のお家のメイドをやってる。トール様もメイドだけど、それはどちらかというとコバヤシの趣味。そんなコバヤシも一目置くほどのメイド好きのジョージーのことをトール様もメイドとして、とても尊敬してるっぽい。
トール様もその中身に興味がありそうな素振りで私が手に掲げてた紙袋を受け取った。コーヒーが入った紙袋を手渡す瞬間にも香ばしい良い香りが漂って、幸せな気持ちになる。

「あ、あの、それ!この間、ジョージーがお友達とコーヒー専門のお店に行ったみたいで、その時のお土産です!」

って、才川がトール様に向かって言った。才川、ちょっと緊張してる?

「なるほど、ジョージーさんのセレクトなら良い物に間違いないでしょうね……。才川さん、ありがとうございます」

トール様は才川にニッコリ微笑んだ。緊張してた才川もそれを見てホッとしてる。

「トール様!そのコーヒーでカフェオレ飲んで、才川と大人になりたい!」
「大人?」

トール様が首を傾げる。トール様ならわかってくれる、そう信じて私は続けて話した。

「そう、コーヒーを飲んだら大人になれる。けど、コーヒーは飲めないからカフェオレが飲みたい」
「なるほど、そういうことですか……。いいですよ、喫茶店メニューといえばメイド、トールのお得意ですからね!作ってみましょう!」
「おおー!」

トール様は早速、コバヤシのタブレットを使ってレシピを検索し始めた。これがメイド、トール様のお得意のやつ。私には出来ないからすごいと思う。

――才川と透明な空のグラスを見つめて待つ。私たちの身長からすれば高すぎる椅子に二人で座って、大人しくトール様の準備を待ってる。目力でグラスを割る勢いでじーっと見つめていると、そこにトール様が真っ白なミルクを注いだ。ミルクにはお砂糖いれてありますからねって、トール様が言う。グラスに氷が飛び込んで、コロンと音を立てて氷が浮かんだ。才川も私も、じっとその様子を眺める。ミルクの上に浮かぶ氷は、前にテレビで見た北極みたいで、この上にシロクマがちょこんと乗ってたら可愛いくて面白い。
そんなことを考えていたら、トール様がミルクに浮かぶ氷の上に優しくコーヒーを注ぎ始めた。真っ黒なコーヒーはゆっくりと真っ白なミルクの上に溜まってく。白の上に黒が混ざらないまま注がれていく光景に私と才川は黙って見入ってた。

「おー……!トール様、すごい!」

つい、すごいって言葉が口から溢れ出た。
トール様が作ってくれたカフェオレはグラスの中で黒と白の層になってて、とても綺麗。それに、お家で飲むのにレストランのジュースみたいにストローも付いてて嬉しい。なんだか特別な感じがする。才川も「お洒落なカフェみたい!」って目をキラキラさせてる。

「じゃじゃーん!トールお手製カフェオレです!」

トール様もこの出来栄えに満足みたいで誇らしげにしてる。

「トール様、ありがとう!才川、早速飲もう!」
「そうね!飲みましょう、カンナさん!」

この綺麗な層を崩すのは惜しかったけど、ストローでくるくるとかき混ぜた。氷がカランコロンって音を鳴らしながら、二つの層がぐるぐる崩れて、混ざり合う。崩しちゃうのは勿体無さもあるけど、不思議と楽しくもなる。

――せーのっ、で才川と同時にストローに口をつける。

ちゅるるるるるるるる。……これは!

コーヒーの香ばしさもあるけど、甘くてミルクのまろやかな風味もあって――おいしい!って、私と才川が同時に言った。それが何だかおかしくて、才川と顔を見合わせて笑った。

「トール様、カフェオレおいしい!」
「ふふ、お気に召していただけたようで良かったです」

おいしくて、嬉しくて、椅子から床についてない足をテーブルの下でバタバタさせちゃう。隣に座っている才川と一口飲む度に顔を見合わせて、おいしいねって顔をするのも楽しい。一緒に飲んでるって感じがする。

「才川、私も大人になった?」
「もうバッチリよ!これでカンナさんも大人の仲間入りよ!」
「むふー!これ飲みながら宿題しよう」
「二人共、溢さないように気をつけてくださいね」

「はーい!」と二人で返事をして、ランドセルから筆箱とノートを取り出す。コーヒーの良い香りの中で宿題をすると先生たちのいる職員室を思い出す。まるで、本当に大人になったみたい。
――そうだ。明日、トール様にお願いして学校に持って行く水筒にカフェオレをいれてもらおう。そうしたら、授業中もコーヒーの良い香りがして、みんな大人な気分で勉強できる。でも、甘いからダメ?コーヒーって、お茶の仲間だと思ってたけれど、もしかしたらカフェオレは甘いからダメかもしれない。

「才川、カフェオレは学校で飲んじゃダメ?」
「えっ!?小学校にカフェオレはダメなんじゃないかしら?先生に怒られちゃうわよ」

やっぱり……。良い考えだと思ったのに。ちょっと、シュンとした顔をしたら、才川が慌てた様子で言う。

「でもでも、カンナさん!高校生になったら、授業の間の時間とかにカフェオレとか、なんならコーヒーだって飲んでもいいらしいの!」
「そうなの?」
「そうよ!ジョージーが言ってたもの。間違いないわ!」
「……」

才川から高校生って言葉を聞いて、ドキッとした。それって、つまり今から十年くらい先の話をしてる。
才川やコバヤシは人間。私やトール様はドラゴン。私たちは異種族で、種族が違えば十年の意味もきっと丸っきり違うんだと思う。その時も私と才川は一緒にいられるのかな……。

なんて、ちょっとでも考えてたら、頭の中で騒ぎ散らす声がしてきた。「ちょっと待ちなさいよ!未来永劫なにがあっても私とカンナさんが一緒にいないなんてことが許されるはずがないわ!神様が許しても、この私が許さないもの!」って、私の頭の中の才川が暴れながら言ってる。再現度高い。

才川、強情。これぞ才川。
でも、頭の中の才川が暴れて楽しくなって、クスッて笑った。

「え!?どうしたのカンナさん!私の顔に何かついてたかしら?」
「ううん、何でもない」

やっぱり、才川といると楽しみなことがどんどん増える。多分、これからもずっとそう。

「才川、一緒に高校生になってカフェオレ飲もう!」
「もちろんよ!今はまだカフェオレだけど、その時はコーヒーも一緒に飲みましょう!ね、カンナさん……」

って言いながら、才川が沈黙した。
――わかった。才川、今、頭の中の大人の私とコーヒーを飲んでる。才川が顔を真っ赤にして、目だけ上を向き始めた。

「ああ、カンナさん、制服姿可愛いすぎるわ……!ぼ、ぼへぇー!うへへ、素敵過ぎるわぁ……」

うん、二人で制服を着てコーヒーを飲む。そんな未来、とても素敵。私もそう思う。そうだ、私も想像してみよう。今はまだ、ミルクとお砂糖が無いと飲めないけど、いつか私も。

コーヒーはあなたと共に。

〜〜〜

小林さんちのメイドラゴン Fan Novel
『コーヒーはあなたと共に -Chapter of Milk-』

nyankobrq

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原作漫画はコチラ


この二次創作を書いた人
nyankobrq (普段は音楽を作っています)
→ https://twitter.com/nyankobrq

今回の企画  #蟹亀アドカレ 企画についてはこちら→ https://twitter.com/jgj05/status/1464519371506683904

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