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ドリアンへの旅路

「絶対食べてきてほしい」

普段あまり喋らないクールな中国人上司が言った。翌週にシンガポール出張を控た私は上司との1 on 1で雑談がてら、「チャンスがあればドリアン食べたいんですよねー。」と話したところだった。

上司はドリアンが心底好きだったようで「日本だと本当に高い。。」と悲しそうな顔をした。確かに日本でドリアンというと、新宿アルタ横のフルーツ屋でしか見たことがない。ドリアンは決して身近なフルーツではない。

近くて遠いドリアン。

これまで東南アジアを旅行した際も、なんやかんやでドリアンと向き合えず今にいたっていた。いつも心にあったのは本当だ。

旅行は大抵誰かと一緒で「ドリアンにチャレンジしたい!」という物好きは少ない。「食べてもいいよ」と言ってもらえても、旅行中の買い物やら食事やらを優先しているうち、ドリアンタイムは毎度なくなってしまう。「また次の機会だね」と先送りにするのが常だった。
そんな私も2024年、ついにドリアンとニアミスしつづけた人生に終わりを告げる!

「親の駐在でシンガポールに居た子供時代、毎週末家族で庭でドリアンを貪り食っていた」

「ドリアンにもいろんな種類がある。チーズのようなもの、甘いもの、甘くて苦いもの。。。自分に好きなドリアンをみつけられるのよ。。。」

今までの人生で出会った、ドリアンに沼った人々の恍惚とした表情が脳裏をよぎる。彼らは総じてドリアンを語るとき異様に幸せそうだし数段声のトーンが上がる。ドリアンの何が(味が?)そんなに人々を魅了するのだろう??

今回は私一人。ここで行くしかない!(メイン仕事だけどね)

「ドリアンを食べる」はもはや今回の出張の最重要ミッション。いやいかん、これはビジネストリップ。それなりにミーティングもあって自由時間は限られている。自力ではドリアンにたどり着けないだろう。。。ここは現地のみなさんの力を借りるしかない・・・!

まず、出張先で会う人には全員に
「私はドリアンを食べたことがない。ぜひ食べてみたいと思っている。」
と徹底して伝えた。だいたい会う人は、「飛行機はどうだった?食事は口に合う?何か食べたか?」など聞いてくれるのでこの情報は自然な流れで関係者に刷り込んでいくことができた。

東南アジアの皆さんは人がいい。オフィスでは「ドリアンはシャロンが一番詳しいから聞いた方がいい。」「ちゃんとした店より市場で食べるのがおすすめだよ。」など、みな自分なりの情報を提供してサポートしてくれる。日本人には「ドリアンは臭い」と言われることが多いようなので、ドリアンに前のめりな私が珍しく、面白がられている節もあった。

最大のチャンス到来!

出張の途中、陸路でマレーシアのジョホールの取引先を訪問する機会があった。その車の中でももちろん、「私はドリアンを食べたい」を高らかに宣言。
すると、同乗していた取引先のランディーさんが、ドリアンマスターと呼ばれるほどのドリアン好きであることが判明した。ありがたいことに彼はドリアン店へのアテンドを申し出てくれ、用事が終わり次第みんなでドリアンを食べにいこう!という流れになった。よし!いいぞ!

「天は自ら助くるものを助く」
とはこのことなのかな? ドリアンを食べたいと愚直に言い続けた出張の日々が報われる瞬間が近づいている。

ドリアン専門店へ!いざ!

その日の午後、連れていってもらったのはドリアンとココナッツジュースしかない露店のような食堂のようなお店だった。
間違いない。ここは「専門店」!!
オープンで風通しのいい店内なのに、プぅ~ンと濃厚なドリアンの甘い匂いが立ち込めている。

ランディーは店主と語らい、どのドリアンがいいか選んでくれている。
「選ぶの難しいからランディーに任せるのが一番よ」と一緒に来てくれたサンドラが言う。こういう目利きはどこの世界でも限られた人しかできないものだ。連れて来てくれて心から感謝♡

サンドラもちゃっかり自宅用に持ち帰りのドリアン(すでに皮から外されて果肉だけがタッパーに入ったもの)をゲットして小脇に抱えていた。」
なんだ。みんな好きなんじゃーん。

ふと店の奥に目をやると、一人席でビニール手袋をし無心でドリアンを貪り食っている眼鏡の日本人男性がいることに気が付いた(推定45歳)。ポロシャツにハーフパンツというラフな服装だからきっと駐在員の方なんだろうな。

木曜の昼下がり、駐在員さんを一人でこのアクセスの悪い店に引きずり出してしまうほどのドリアンの魅力。おそるべし。。。
彼はスマホも見ることなく、ひたすらにドリアンとココナッツジュールを交互に口に運んでいる。印象としては、殻を割って蟹を食べるときに無心になるのと少し似ているかもしれない。とにかくドリアンに沼った側にいる彼が心からうらやましい。

ついにドリアンとご対面!

いよいよ私のドリアンが運ばれてくる。
お店のおっちゃんが大きな包丁でザッザと切り込みを入れて立派なドリアンを渡してくれた。
「かわいいねぇー」(私を見てにっこり)
「あまい、にがい」(ドリアンを指さしてにっこり)


シンプルかつ完璧な接客だ。さすが有名ドリアン店で世界を相手に働くおっちゃん。最低限の重要な日本語を押えている。

私がいただいたのは「猫山王」という食べ始めが少し苦くて、あとから強い甘さがくるタイプのドリアンだ。有名な銘柄らしい。

ランディーは私に「店内のにおいは大丈夫か?」と確認してくれる。全然大丈夫だった。ダメな人は、もう食べる前から臭いでだめらしい。

沼駐在員さんを観察していたから食べ方はわかる。駐在員さんに倣い、私はおっちゃんにビニール手袋をもらって、手づかみでドリアンの果肉を口に運びはじめた。マンゴーのように大きな種が果肉の中に入っている。その種を包み込む黄色いねっとりとしたクリーム状の果肉をいただく。完全に未知のフルーツだ。

ただ全然まずくない。嫌いじゃない。むしろ美味しいと思う。だけどストレートにわかりやすく「うまい!」という感じではない。もっと深みのある複雑な味だ。

お。ちょっと苦いな。と認知したあと、首から顔全体を包むような甘さが面的に押し寄せてくる。不思議な体験だ。ひとつのドリアンに4房の果肉が入っている。ひと房、ひと房と食べすすめるごとに、美味しさが確かなものになっていく。中毒性があるのもわかる気がする。

ドリアンを食べると熱を感じるからココナッツジュールでクールダウンしながら食べるんだ。とランディーが教えてくれる。確かに熱く感じる。
また、栄養価が高いから昔は妊婦さんが食べるフルーツでもあったそうだ。

私が食べている間も、欧米系のビジネスマン4人組、中国人カップル、など多様なドリアンフリークがつぎつぎ店にやってきていた。

ランディとサンドラは苦いドリアンが好きだそう。私は甘い味が好きかなと伝えると、「次回は別の甘いだけの種類を食べよう」と言ってくれた。ほんと優しいなぁ。

ずーっと焦がれていたドリアンを食べることができた今回の出張は、まさに「実り」多き旅。
生まれて初めて食べるドリアンの味は、美味しかったけどまだ自分の中で不確かできちんと定義できた気がしない。また食べにいかなければ!

そして何よりも現地の皆さんの優しさが胸に残り、忘れられない旅となったのでした。

#忘れられない旅

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