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中国共産党の党規約から中国をみる

今回の党大会の報道には興味深いことが多い。前稿に続きつらつら書いてみよう。筆者のもう一つの注目点は「台湾の問題が規約に明記」ことや「核心」など「規約」をもとにした報道が前回党大会よりも多かった印象だ。

共産党の特有の秘密主義ゆえに公開される規約などに注目せざるを得ない事情はある。ただ、そもそも「規約」のフルテキストは一般の人はほとんど知らないだろう。

党規約

中国共产党章程(2022年10月)

前回19回党規約総則の日本語版(20回は現時点でまだ出てない)

全部読める人は相当な変人か共産主義を奉じる純粋な人だろう。日本語として普通の人が読めるようなものとは言えない。重要なのは規約の扱われ方や政策そのものへの反映なのであって報道や識者の解説も十分とは言えない

筆者が思うのは、日本で言うと総理の所信表明・施政方針演説と類似の面がある点だ。総理演説で言及されたことには予算の根拠になるからだ。(必要性を追及された場合に「総理演説」という言い訳。)つまり、それを当てはめると、中国共産党の規約にも明記されているのは「予算減らすんじゃねえゾ」という人民解放軍からの圧力ともとれる。これが筆者のみるところだ。念のため繰り返すが、だからと言って軽視していいということではなく、彼らが引っ込みつかなくなる状態のほうが懸念される。(前稿⑥参照)

しかも、台湾が明記された、なら他の条文などは何なの?と言うわけで、規約の条文をネコの目から面白半分で意地悪ツッコミ入れてみよう。なお「守らないからわざわざ書いている」という視点を日本のメディアは不思議に自主規制して放映は決してされない

党員の義務


第三条 党员必须履行下列义务:
(三)坚持党和人民的利益高于一切,个人利益服从党和人民的利益,吃苦在前,享受在后,克己奉公,多做贡献。
第三条 党員は、次の義務を履行しなければならない。
(三)あくまで党と人民の利益を至上のものとし、個人の利益を党と人民の利益に服従させ、人に先んじて苦しみ、人に後れて楽しみ、克己して公のために奉仕し、大いに貢献すること。

人に先んじて楽しんでいるのが共産党員。遊びで中国人に朗読させたら爆笑された。ちなみに中国人実習生の質問「日本にも共産党があるって初めて見た。なんであの人たち貧乏な服着てるの?」難しいアルヨ。

(五)维护党的团结和统一,对党忠诚老实,言行一致,坚决反对一切派别组织和小集团活动,反对阳奉阴违的两面派行为和一切阴谋诡计。
(五)党の団結と統一を擁護し、党に対し忠誠を尽くし、言行が一致し、すべての分派組織と小集団的活動、面従腹背の二面派的行為とすべての陰謀術策に断固反対すること。

これらは、わざわざ書くほど大好きと言うことに他ならない。自民党の規約にも入れたらどうだ?と自民党で言ったら爆笑されると思う。これ守ってる自民党議員は一人もいない。なお逆に中国側は日本の自民党の派閥での政権運営に関心を持ってもいることも注目される。

党幹部の基本的に備えるべき条件

第三十四条 党的各级领导干部必须信念坚定、为民服务、勤政务实、敢于担当、清正廉洁,模范地履行本章程第三条所规定的党员的各项义务,并且必须具备以下的基本条件:
(五)正确行使人民赋予的权力,坚持原则,依法办事,清正廉洁,勤政为民,以身作则,艰苦朴素,密切联系群众,坚持党的群众路线,自觉地接受党和群众的批评和监督,加强道德修养,讲党性、重品行、作表率,做到自重、自省、自警、自励,反对形式主义、官僚主义、享乐主义和奢靡之风,反对特权思想和特权现象,反对任何滥用职权、谋求私利的行为。
第三十四条 党の各級の指導幹部は、本規約の第三条に規定された党員の諸義務を模範的に履行するとともに、次の基本的な条件を備えなければならない。
(五)人民から与えられた権力を正しく行使し、原則を堅持し、法律に基づいて事を運び、清廉潔白で、人民のために政務に励み、自ら手本を示し、刻苦質朴で、大衆と密接に結びつき、党の大衆路線を堅持し、自覚を持って党と大衆からの批判と監督を受け入れ、道徳修養を強化し、党性と品性を重んじ、手本を示し、自らを重んじ、自らをかえりみ、自らに警鐘を鳴らし、自ら励むことに努め、形式主義・官僚主義に反対し、特権思想に反対し、いかなる職権の乱用もせず、私利の追求といった、いかなる不正な風潮にも反対する。

これを完璧に備えていると胸を張って言えるのが「あの7人」と言うことになるらしいのだが、ただし話はそう単純でもなく、逆に言うと選ばれなかった人は、これに反していた、という話の根拠にもできるのだ。

組織運営のきまり

一方で、興味深いのが組織運営のきまりだ。これは意外に守られている。

第十条 党是根据自己的纲领和章程,按照民主集中制组织起来的统一整体。党的民主集中制的基本原则是:
(五)党的各级委员会实行集体领导和个人分工负责相结合的制度。凡属重大问题都要按照集体领导、民主集中、个别酝酿、会议决定的原则,由党的委员会集体讨论,作出决定;委员会成员要根据集体的决定和分工,切实履行自己的职责。
第十条 党は、自らの綱領と規約に基づき、民主集中制によって組織された統一体である。党の民主集中制の基本原則は、次の通りである
(五)各級党委員会は、集団的指導と個人責任分担が結びついた制度を実行する。重要な問題に属するものについては、すべて集団的指導、民主集中、個別的な「根回し」、会議での決定という原則に基づいて、党の委員会で集団で討議して、決定をおこなわなければならない。委員会の構成員は、集団の決定と分担に基づき、着実にみずからの職責を履行しなければならない。

ここで個別醞醸(うんじょう)」なる単語がある。大半が日本語由来の「近代漢語」の中では非常に中国的な表現だ。なかなか翻訳が難しいので「中国式の根回し」とでもいうべきだろうか。中国大使の宮本雄二氏は自身の霞が関の経験から日本の「根回し」よりも丁寧で深い、としている。

筆者も訳すなら「お酒が徐々に熟成していくように丁寧に話し合って結論をだす。」この「個別醞醸」が「集団指導」「民主集中」「会議決定」と同じレベルの組織運営の原則になっている。この組織運営の原則は、かなり守られていると言ってもいい。

「革命」などと共産主義を気取りつつも、実は日本のドイナカムラと同じノリがここで垣間見れる逆にそうでもしないと、武力も持っているだけに危うい(危うかった)苦い過去の反省が出ているのだろう。ここが重要だ
この規約を根拠にし、拒否権集団が多いだけに、政治指導はかなり難しい面がある。(自民党総裁が派閥領袖への根回しとは比較にならない)

この結果として習近平による人事の発表があるわけで筆者からすると、この過程で何が起きたのか、どういう目的でどういう取引があったのか、の分析が実は重要なのだが、ウォッチャーが人事の「予測と結果」や、胡錦涛連れ出し騒ぎだけに目を奪われて興奮している感があるように思う。

個人崇拝の禁止

(六)党禁止任何形式的个人崇拜。要保证党的领导人的活动处于党和人民的监督之下,同时维护一切代表党和人民利益的领导人的威信。
(六)党は、いかなる形の個人崇拝をも禁止する。党の指導者の活動が党と人民の監督のもとに置かれるよう保証するとともに、党と人民の利益を代表するすべての指導者の威信を守らなければならない

この辺りの条文も読むと中国が毛沢東に非常に懲りたのかよくわかる(モウタクサン)。この条文は、周囲がオベンチャラで個人崇拝を煽ることでおこぼれにあずかろうとする連中が必ず出る中国文化をよく示している習近平個人崇拝は、本人と言うより、放っておくと周囲がやりたがるのもある。逆にそうせざるを得ないのは、方々に気を使い過ぎて政治的には求心力が働らかずに日本風に言う「決められない政治」の面もあるという側面も同時にある。この辺りは地方の老齢多選知事と似た雰囲気の過激版と理解するのがいいかもしれない。

定年制

さらに、関連して「定年制」が今回の報道や識者の解説で不足していた。「定年退職」規定が政治性を持つ中国の背景については、日本に無いだけに本来は解説が必要な部分だ。単純に老害排除や組織の新陳代謝ではない。

第三十八条 年龄和健康状况不适宜于继续担任工作的干部,应当按照国家的规定退、离休。
第三十八条 年齢と健康状態のため引き続き職務の担当がふさわしくない幹部は、国の規定に基づいて、定年退職か、引退すべきである。

「定年制」は毛沢東の独裁への反省からトップに過剰な権力を持たせること、個人崇拝することの危険性を考えてできた規定だ。定年だけがブレーキを掛ける共産党内部での絶対的な価値と言っていい。権力闘争もこのルールの枠組みの中で行われることでクーデターを含めた突発的な政変を抑止する効果もあった。トップは引退後の報復を恐れるから、さほど無茶はできないとも考えられてきた。今回の人事はまさに「成功した一党独裁政権」の土台を崩すなら大きな点だ。この定年制を崩した背景解説がやや少なかった

今回の「習近平の独裁」報道には若干の違和感と、ウォッチャーの分析に何か物足りなさが残る。そういえば、3年前にプーチンとはなかよくクルージング゙もしている。(拙稿参照)権力基盤について話したのかどうかは知る由もない。


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