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冬ソナの舞台から眺める日韓関係

韓国側による日韓基本条約・請求権協定の違反問題(いわゆる朝鮮半島出身労働者の判決問題)は完全解決済みの問題を韓国側が一方的に起こしたことであり、どのように韓国側が対応するのか注目される。(拙稿参照)

そもそもの経緯。1945年(昭和20年)に日本の敗戦があり、最初の6年(昭和26年)までは全く交渉がなかった状態だった。交渉開始し14年(7次にわたる日韓交渉)かかり1965年(昭和40年)日韓の国交が樹立した。当初6年交渉なしとしても20年間交渉した結果が日韓基本条約と請求権協定だ。

念のため、日韓請求権協定の重要な条文を抜粋しよう。本来はこの請求権資金で韓国側が「被害者とされる人」の補償をすべきで、条約及び韓国の法律でもしっかり記載されている。

第2条 両国は請求権問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定


韓国・請求権資金の運用及び管理に関する法律 
第5条(民間人の対日請求権補償)
① 大韓民国国民が有する1945年8月1日以前までの日本国に対する民間請求権はこの法で定める請求権資金の中から補償しなければならない。

(韓国・請求権資金の運用及び管理に関する法律法律第1741号1966.2.19制定1966.2.19施行)

さらに念のため、交渉過程でのやりとりも記載しておこう。なお、この場には当時日本の外務省で国際法に強い若手の小和田恒氏も出席している。

日韓交渉でのやりとり(1961年5月10日)

これに従い、請求権資金の無償資金3億ドルを有償資金2億ドルが日本から供与された。この使用内訳は実はほとんど韓国国内で知られていないのが実情でこれがおかしな形で問題化しているだけだ。韓国経済企画院『請求権資金白書』による請求権資金の産業別使用実績は以下の通り。

韓国経済企画院『請求権資金白書』

鉱工業に半分ほど使用しているが、これが輸出伸張の源になっている。(愈光浩『現代韓国経済史』P20)筆頭格がPOSCO(旧:浦項総合製鉄株式会社)だ。他方で社会間接資本の充実にも多く使用されている。その内訳をあげてみよう。

韓国経済企画院『請求権資金白書』

ここでできたのが、昭陽江多目的ダムだ。

昭陽江ダム

1968年~73年の5年10か月要し完成した事業で、洪水調節、用水、発電の多目的ダム。この昭陽江多目的ダムが建設される前はソウル首都圏の洪水被害が毎年あったが軽減された。人口急増の電気と水道供給だけでなく工業用水にも使われている。

また間接的な効果として、軍事的にも北朝鮮との休戦線が付近にあるため実は軍事防御線の一部にもなっている。このダムが春川市にあり防衛拠点として第1野戦軍司令部があり、韓国陸軍の最精鋭部隊第2軍団をおいている。(ダム破壊工作での洪水被害を防ぐことやインフラ防御の必要もある)
そして兵士たちが休日に安く腹いっぱい飲み食いしたい、と言うわけで春川タッカルビ(鶏カルビ)や焼肉が有名なのは、そうした背景がある。

そういうわけで筆者からすると、「男くさい」イメージそのもの。

しかし、観光開発も見逃せない。ここで冬ソナの登場。筆者は正直苦手なのだが。

「冬ソナ」で主人公のペ・ヨンジュンとチェ・ジウが出会う町ということで冬ソナの舞台でもあり、ロケ地観光での名所でもある。一時は日本人観光客であふれかえった。

女性に人気と聞いて、筆者が春川市に抱くイメージと真逆で非常に驚いた。この昭陽江ダムの下流にある、中洲に冬ソナのロケ地の「南怡島」がある。


それにしても、日本の冬ソナブームは異常だった。
韓国の強烈な男尊女卑や親戚のしがらみが全く出てこない不思議なドラマで筆者からすると全く韓国っぽくないドラマでの「韓流」ブームに違和感だらけだった。

むしろ強烈な韓国さを抹殺しているからこそ日本でも受けた側面は見逃せない

それに乗るように2004年7月には日韓共同訪問年広報大使に任命されたチェ・ジウが総理官邸を訪問。冬ソナファンを自認する小泉総理は「おー、冬のソナタ、鼻の下が長くなっちゃう」とご満悦。

チェジウが総理官邸訪問。小泉総理の鼻の下が・・・

そして、今回2022年秋の国際観艦式に韓国も参加することになった。

補給艦「昭陽」(AOE-51 ソヤン Soyang)

補給艦「昭陽」(AOE-51 ソヤン Soyang)。船名の「昭陽」は、いうまでもなくこの昭陽江なのだ。

韓国国内の旭日旗がどうとか、愚にもつかないが、参加するにしても歴史上の人物名を持つ大型艦艇はいくらでもあるのに、河川名をもつ補給艦を派遣した点でも注目される。

とにかく歴史上の人物名はトラブルになる。ちなみに日本だと海軍艦艇で人名は避けられるが、これはトラブルになるからと却下した明治天皇の大英断だ。

そして、派遣艦艇の「昭陽」に込められた意図を仮に「友好的」と見なして勝手に推測するなら(というか仮に筆者が韓国側の担当者ならこういうアピールするだろうし、こういう風にアピールしてほしいものだ)

①歴史人物名の艦艇避けることで、国際舞台でトラブル回避し、国際常識をわきまえます。
②北朝鮮との軍事休戦ラインに通じる河川名で、国際的な舞台で北朝鮮に対応する国際連帯をアピールします。
③昭陽江は冬ソナの舞台だし、友好を日本も考えてもらえませんか、アピールします。

といったところだろうか。

しかし、「冬ソナ」を仮に、友好のネタとして出すのであれば「請求権資金での成果」を日本としても強調しないわけにはいかない

単なる国際行事やドラマの陰にはこうした背景も実はある。


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