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反出生主義VS陰謀論

生殖をやめることで漸次的に人口を減らし、人類を絶滅させることを目標とする私たち反出生主義者にとって、人口減少に関するいくつかの陰謀論を唱える陰謀論者の存在は深刻な問題です。
Xユーザーのにゃーん ∃ 😷 🌬️🌬️さん: 「ありがちなナタリストの手口 ② デマの流布による敵対意見への攻撃。多くの場合、陰謀論を伴う。」 / X
そのような陰謀論をいくつか紹介し、ファクトチェックも見ていきましょう。

1.世界統一政府陰謀論

太田竜古歩道ベンジャミンが唱えた陰謀論であり、財閥の支援により世界統一政府が形成され、その支配を円滑なものとするため世界人口を5億人~10億人まで削減する、という内容です。このような陰謀論の論拠としてよく提示されるのがNational Security Study Memorandum 200: Implications of Worldwide Population Growth for U.S. Security and Overseas Interests (NSSM200)(邦訳すると、「国家安全保障課題覚書200: 世界の人口増加が合衆国の安全保障と海外問題に与える影響」)という1974年に作成されたアメリカの機密文書(現在は機密解除、所謂Kissinger Report)です。Google 翻訳によるとアメリカは、所謂発展途上国の政治的な力を抑制し、その国の天然資源の容易な搾取を保証し、若い反体制派が出生することを防ぎ、アメリカ企業の海外ビジネスを保護しようとしたようです。
しかし、これらの政策は、あくまでアメリカの国益のために所謂途上国の人口増加を抑制する内容であり、世界的な人口減少やアメリカの人口減少を目指すものではありません。もちろん、人口減少の目標や各地域の人口の割り当てについて語っているのは陰謀論者たちだけです。世界首都、共通言語、共通通貨、共通宗教について語るのも陰謀論者だけです

2.ジェンダーに関する陰謀論

女性や性的マイノリティを攻撃する内容の陰謀論もあります。

女性支援団体Colaboなどの福祉団体に関するデマを流布し福祉団体やその関係者を中傷・攻撃したアンフェである暇空茜やその支持者たちは、自分たちが陰謀論者と呼ばれていることにはある程度自覚的であるものの、自分たちの主張が陰謀論であることを認めるには至っていないようです。
シスヘテロ健常者の男性(ここでは「強者男性」と呼ぶことにします)が優位な社会にはミソジニー・優生思想・シスヘテロ主義・生殖賛美が蔓延しています。このような「強者男性」優位の価値観を内面化した「強者男性」だけでなく自称「弱者男性」(そこまで弱者性がないこともある)や名誉男性・名誉マジョリティたちが、「強者男性」でない人や「強者男性」優位の価値観に否定的な人を寄ってたかって攻撃しているのが現状です。なお、反フェミニズム自体が、「それまで男性として持っていた特権を奪われる」(男性の場合)「それまで保有することを目指してきた特権が否定される」(インセルの場合)「それまで男性から要求され実践してきた『女性らしい』生き方を奪われる」(いわゆる名誉男性の場合)という恐怖感に由来する陰謀論であり、しばしばゼノフォビアと複合するものです。

また、LGBTQ+を攻撃する多数の言説が、「誤り」であると日本ファクトチェックセンターにより認定されていますLGBTグルーミング陰謀論や製薬業界陰謀説などのLGBTなどの性的マイノリティを攻撃する陰謀論の蔓延は日本だけでなく、英語圏でも深刻です。LGBTQ+を攻撃する陰謀論も、「それまで持っていた特権を奪われる」という恐怖感に由来する陰謀論であり、しばしばゼノフォビアと複合しています。

残念ながら、「反出生主義者」を自称する人のなかでも、アンチフェミニズムに傾倒する人(シスヘテロ男性で特に多い)や、LGBTQ+(特にトランスジェンダー)を攻撃する人(いわゆるTERFを含む)が少なからずいます。
したがって、反出生主義者の陰謀論に対する戦いは、社会に蔓延する差別に対する戦いでもあり、自らのなかの偏見に対する戦いでもあるべきです。
(本章の一部を2024年7月19日に追記・更新)

3. 自然派系陰謀論

3.1. ケムトレイル説

一部の陰謀論者はただの飛行機雲(航跡雲。英語では"condensation trails"を縮めて"contrails", あるいは "vapor trails")をケムトレイル (chemtrails)と呼びます。飛行機雲は、航空機などの「エンジンから出る排気ガス中の水分、あるいは翼の近傍の低圧部」を原因として生じる雲ですが、陰謀論者たちによると飛行中の航空機は「バリウム塩とアルミニウム塩、高分子繊維、トリウム、または炭化ケイ素」を「太陽放射管理、気象修正、心理的操作、人口規制、生物学的または化学的戦争、または人口への生物学的または化学物質の影響のテスト」(Google翻訳より一部修正)のために散布しており、それは世界秩序に関する目的のためなんだとか。まったくばかばかしい話です。自身の生殖が危機にさらされているという陰謀論を支持する人たちは、いったいどれだけ生殖行為が好きなのかと呆れたくなります。
もちろん、ケムトレイル説は日本ファクトチェックセンターにより「根拠がない」「誤り」と断定されています

3.2. 感染症生物兵器説

感染症の病原体が人口削減のために人工的に作られた生物兵器だという陰謀論です。この陰謀論の標的は大体アメリカです(エイズウイルス・SARSウイルス・鳥インフルエンザウイルス・新型コロナウイルスの生物兵器論者がアメリカを攻撃しています)が、新型コロナウイルス生物兵器論者の中にはアメリカのほか中華人民共和国やユダヤ人やイスラム教徒を攻撃する者も多いです。当時の米国大統領がこんなものを信じていたなんて、この世は地獄よりも地獄です。いずれにせよ、荒唐無稽なデマです。
もちろん、新型コロナウイルスに関するものについては、ファクトチェック・イニシアティブの大船怜氏により「主張を支える根拠は無い」と判断されています

3.3. ワクチン毒物説

人類が感染症に対抗する有力な手段の一つであるワクチンに意図的に毒物が混入されているという陰謀論です。既に彼ら反ワクチン派の主張の矛盾は各所で指摘されており、ここでそれを一々書く必要すらないと思います。もちろん、ワクチン接種後の有害事象は少なからず発生していますし、その中には接種との因果関係が認定されたものも少ないながらあります。しかし、これを「史上最大の薬害」などと言って危機を煽る連中は論外です。なお、私は4回のワクチン接種を受けています。もちろん、日本ファクトチェックセンターにより複数のファクトチェックがなされています

3.4. 感染予防策陰謀説

マスク着用やソーシャルディスタンスなどの感染予防策が、恋愛や生殖を妨げるために行われたとする陰謀論です。もちろんそんなわけがなく、私たち感染予防策をとっている人々の集合の中には、子持ちの一部も少なからず含まれます。アンソニー・ファウチ氏はマスクについて、「『適切につければ効果的』と説明しています」。また、WHOは無症状者を含む感染者の隔離は必要としています

3.5. 水道水フッ化物添加陰謀論

北米、豪州、アイルランドなどでは、虫歯予防のため水道水にフッ化物が添加されています。廃棄物を水道水に混入しているとか貧困層に歯科医療を提供できないことの隠蔽のためだとか、アメリカ国民を弱らせるための共産主義者の陰謀だとする説が蔓延しました。なお、ここで使用されているのは、ヘキサフルオロ珪酸(H2SiF6)などの無機フッ化物であり、日本でも近年問題となっているペルフルオロオクタンスルホン酸(perfluorooctanesulfonic acid ; PFOS)やペルフルオロオクタン酸(perfluorooctanoic acid; PFOA)を含む「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物」(perfluoroalkyl substances and polyfluoroalkyl substances ; per- and polyfluoroalkyl substances ; PFAS)のような有機フッ素化後物とは異なります。

4. 地球温暖化否定論など

本稿の1. 世界統一政府陰謀論と内容が重複しますが、地球温暖化を抑制し持続可能な開発を進めるための国連の計画である「アジェンダ21」(1992年採択)が世界人口を85%削減するためのものであるなどの陰謀論があります。

5. 人種的・民族的・宗教的人口削減陰謀論

白人がマジョリティ層を形成している社会では、「白人虐殺陰謀論」と呼ばれる陰謀論が蔓延することがあります。もちろん、このような陰謀論を流布すること自体が、マイノリティの人種・民族に対する恐怖を扇動する差別行為です。内容としては、移民や社会統合、低「出生率」、中絶の推進によって白人を排除したり財産や所有物を奪ったりしようとしている、という荒唐無稽なものです。また、反イスラム主義者による、ムスリムが大量移民と高「出生率」によって欧州・西洋をイスラム化しようとしている、と主張する陰謀論もあります。
歴史上、本当にマイノリティがマジョリティを少しでも非難しようものなら、過剰反応したマジョリティは「鎮圧」を試みてきました。また、現実の虐殺は、権力的なマジョリティや軍事的に優勢の勢力からマイノリティや劣勢の勢力に対して行われるものが圧倒的に多いです(イスラエルが建国以来繰り返し行ってきたパレスチナ人への虐殺や、ロシア軍によるウクライナ人への虐殺、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺、大日本帝国による南京など占領地での虐殺、各国軍による民間人を巻き込んだ空爆や米軍による原爆投下、関東大震災直後の日本人自警団による朝鮮人などへの虐殺など)。

しかし「マイノリティによるマジョリティ虐殺」という荒唐無稽な陰謀論は、日本社会で暮らす私にとっても対岸の火事ではありません。(本章のここまでを2024年7月に追記・更新)
旧Twitter (X)の日本語でのツイート(ポスト)でも、何者かが日本人の人口を削減しようとしているという陰謀論が蔓延しています。極右はいつも外国にルーツのある人やその社会的包摂を攻撃し、「婚姻率」や「出生率」の低下を嘆き人工妊娠中絶を攻撃しています。左派ですら、外国にルーツのある人や中絶を攻撃することこそほぼ無いものの、「婚姻率」や「出生率」の低下を、新自由主義者の陰謀だとか旧統一教会(家庭連合)の陰謀だとか言う者が少なくありません。
もちろん、新自由主義(ネオリベ)自体は経済格差を拡大させる害悪な経済思想であり、中曾根康弘以来の自民党の方針となっています。旧統一教会は過酷な献金や正体を隠しての布教活動、宗教二世の社会的孤立などの社会問題を引き起こしてきたカルト宗教であり、自民党と協力関係にあります。しかし、これらの陰謀論は、自民党もまた「少子化対策」を掲げる右翼全体主義政党であることと、自民党と協力関係にある宗教右派勢力は旧統一教会以外にも日本会議や神社本庁など複数あることから否定できます。

また、DINKsや非婚・非産などのチャイルドフリーな生き方や反出生主義の広まり自体を、外国勢力の陰謀とみなすゼノフォビアと複合した陰謀論もあります。(2024年7月19日更新・追記)

7. 反出生主義VS陰謀論 - まとめ

以上で例に挙げたような陰謀論は、世界各地の人々に薄く広く蔓延しています。

「自分たちは生殖できる」という特権を明確あるいは潜在的に保持しつつも、それが失われることを過度にあるいは潜在的に恐れる人々が世界中に広く存在しています。このような人々こそが陰謀論者たちにとってのカモです。

反出生主義は、こうした陰謀論を批判しながら、その陰謀論の根底にある特権意識と恐怖を指摘していかなくてはなりません。

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