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にゃるらが最近読んだ本 5選2023年 5月

↑前回の。

・リートフェルトの建築

 モンドリアン好きが高じてリートフェルトの建築にどんどん興味が。デ・ステイルなるデザインのジャンルですね。

 下の記事でも書きましたが、リートフェルトの傑作『レッド&ブルーチェア』は、わかりやすくシンプルの「美」にあふれている。必要最低限の板の枚数と赤・青・黄。引き算と量産から設計された家具や部屋たち。すごい……僕はモンドリアンの絵からはテクノを感じていたのですが、そのモンドリアンから影響を受けたリートフェルトの建築もまたテクノだ。もちろん、こんな感覚をただしく言語化なんかできませんが、ここにテクノがあると僕は信じている。

 素晴らしい。僕には立体や平面を読み解く力はまったくないのが悔しいですが、こういった構造のドキドキがたまらなく興奮する。四角と丸とシンプルな三原色にモノトーン。なるほど、「複雑」から削れば削るほど現れる最適解を彼らは知っているのだ。羨ましい。
 自分は家具やデザインを眺めて購入することや、こうして気に入ったものを言葉として並べることしかできないけれど、できるかぎり自室という「空間」であり、自閉するための城を理想へ近づけていきたいと思う。

 ジョジョ3部の表紙のDIOがこんな感じのポーズだったよね。
 部屋はもっともっと改良の余地があるぜ。

・ルポ歌舞伎町

 彩図社の黒い表紙のアンダーグラウンドな本を読むと、まるで故郷に帰ったような安心感がある。
 さて、この著者さんは前作『ルポ西成』にて、実際に西成で数ヶ月暮らして作業員として労働し、その過酷な労働環境やハードな登場人物たちに揉まれた日々を実録で本にしてくれたわけですが、今回の舞台は歌舞伎町。
 ただ歌舞伎町で夜遊びしただけでは本になりませんから、なんと今回はあの『殺し屋1』で有名なヤクザマンションを借りることに! 一時期に比べたらだいぶ治安が良くなったとは言え、まだまだ毎晩夜を生きる男女たちのトラブルは耐えない。そこに外国人たちの策略もはびこり……!? と、ただ「歌舞伎町の面白いところやディープなスポット紹介しますよ~」といった人を舐めた域に留まらない一冊。
 歌舞伎町にいる怪しい外国人たちはなんなのか、実際にどれくらい暴力団が関わっているのか、パパ活通りの実態は……と、気になるけれども噂レベルでしか語られない話題に切り込みます。特にホストと風俗嬢、行き場のない若者たちのお金周りの話なんか読むと、こんな街なくなったほうがいいのでは……といった気持ちになりますが、そうなるとむしろ彼ら彼女らの生き甲斐も消失するわけで、ここでしか生きられない人たちがどうすればいいのかと、結局のところ答えのない問題に迷い込みます。
 中でも読む応えがすごかったのは、ホストのアフター待ちの女の子。担当が迎えに来るのを待っている間に取材していると、なんと途中で担当が自分以外の女の子とセックスしているんじゃないかと想像し、発狂して自身の手首や街にある担当ホストの看板写真を切り裂き始めた。感情大爆発。が、そのあと担当が無事に迎えに来てくれたので、機嫌を直して何事もなかったのように二人で消えていったらしい。そのときに切り裂かれた看板の画像も掲載されているのですが、これまた怨念が籠もっていて迫力がある。
 人間の幸せがどこにあるのか、という問題は非常に難しい。

・アダムス・ファミリー全集

 ウェンズデーにハマっちゃって、どんどん原作を追っているうちに、ついに原点へ。何度か復刻しているようですが、僕はこの表紙が好き。

 帯がいいんですよ。「いま不幸せかい?」「もちろんよ!」。このダークで毒の強い世界観。もちろん、それだけなら現代で溢れているわけですが、チャールズ・アダムスはそれをもう100年近く前から構築したのです。
 100年ですよ、100年。あの時代にブラックユーモアを確立させた。みんながヒーローだマスコットキャラクターだと、どうにか試行錯誤して教育的な作品を生み出そうとしているなか、黒の衣装に身を包んだ怪しげな家族たちによる、ゴシックでダークな日常。
 この頃からウェンズデーのキャラは完成されている。学校で優等生扱いされたことで泣いて悲しむし、人が死ぬようなことが大好き。もちろん人間が嫌いで、蜘蛛やトカゲなど怪しい生物を好む。こんな少女が約100年前からでてきて、そして現代でもファッションのトップに立っている。
 なんてことだ。ゴシックの魅力は100年経ってもなお変わらず、だからこそ一部の暗い人間たちを惑わせ続ける。

・わが闘争

 特にきっかけがあったわけでもないですが、昔Kindleで購入したあとに少し読んだきりだったので。いろいろあるっぽいですが、この三冊合本版を買っておけば大丈夫でしょう。
 さて、本書はもはや解説の必要がないくらいにわかりやすくヒトラーの半自伝かつ、自身が政治家として国民をコントロールするために獄中で製作した一冊。経緯がすごいよね。反乱分子として捕まったけれども、逆にその立場を利用して出所までに本を出版すれば、国民の注目と期待を背負って一気にのし上がれるぞと企てた大胆さが恐ろしい。まさにピンチはチャンス。
 内容を説明するなら、もはや当時の世界情勢まで解説しなければならない勢いなので、そこは各自で読んでもらいたいところですが、少なくともジリジリと弱って民衆が圧迫されていったあの瞬間のドイツには、ヒトラーのような強力な指導者が望まれていた事実がわかる。
 もちろん、ヒトラーは知っての通りあまりに過激な思想に呑まれていったわけですが、それでも誰かが声を上げる必要はあったし、なにより愛国心で動いていた。……が、深く考えても仕方がない。時代や状況を鑑みて同情や共感できる部分があるといっても、結果は結果です。ただ、なぜあんな悪魔的所業に至ったか、その時の国民たちはなにを期待していたかの時代背景を知るのは興味深い。

 ひたすらユダヤ人を虐殺するための会議の様子を映した怪作『ヒトラーのための虐殺会議』を観たときにも感じましたが、戦時中での特殊な倫理観や善悪は、平和な日本で暮らしている以上、その芯までは理解することができない。なので、ただ「そうあった事実」と「本人がどう考えていたか」を読んでいくしかないんですね。
 さて、こうして読んで思ったのですが、ヒトラーはよく「美大崩れ」をネタにされるものの、世の中高生たちのハートを今でも擽る特徴的なマークや軍服のセンスは、明確にヒトラーの美意識とセンスの部分からきているでしょう。あまりに悪役としてキャラクターが立ちすぎるマークと軍服。「カッコいい」ことで生まれる団結力。扇動。そこはとても面白いなと思っています。
 暴力的な父に怯えながらも美術を学んだ時代があってこそ。もし、あの軍服がもっとダサかったら歴史が変わっていたかもしれませんね。

・白銀ノエル&宝鐘マリン 1st PHOTO BOOK ふたりデート

 先に言っておきますが、僕が自分で買ったわけではない。エロ小僧だと認識されないよう言い訳しているのでもなく、本当に宝島社の編集さんが突然DMで献本してくれたのです。決してこの二人の水着を目当てに読んだわけでなく、献本してもらえたのだからと人間関係で読んだのです。嘘だと思うなら宝島社へ問い合わせてください!

 茶番はさておき(献本のくだりは真実です)、この本の存在意義はすごい。バーチャルなキャラクターのグラビア。ここにリアルはまったくない。カメラマンどころか被写体も存在せず、3Dモデルをあーだこーだやって本物のグラビアっぽいシチュエーションを生成する。なんというか……省エネだ。実在のアイドルを数日かけて撮影するよりはるかに楽でしょう。けれども、この本を買う人間たちにそんなコスパや過程なんてどうでもいいわけで、まるでそこにいるかのように大好きな推しの美少女二人が「写真集」の形で各ページでポージングしていることが重要なのだ。
 つまりは、読者側、ひいてはファンの想像力に委ねられている。僕のように、普段から彼女らの配信を追っていない人間から見れば、「3Dモデルが並んでいるなぁ」で終わる。が、ファンはそこで止まってはいけない。本人たちが制服を着て、女子学生のように教室でキャッキャしており、その一瞬をカメラマンがとらえたかのように妄想する。シャッターの直後に、はみかみながら「制服はちょっと恥ずかしいかも……」と照れたりなんて場面まで想像を膨らませるべきです。そうした信仰から成り立っている一冊と考えると感慨深い……。
 余談ですが、昔々、それこそVtuberの概念が流行し始めてすぐのころ、僕がいろいろお世話になっている角川の編集さんが「今度キズナアイって子の写真集を出すんだよ~」と話してくれたことがある。バーチャルYoutuberなる新たな時代に逸早く反応し、「先に本を作って先行者利益をとるぞ!」と企画されたのかもしれない。良くも悪くも角川らしい行動力。
 その際、「3Dの女の子の写真を本にするなんて、すごい時代になったね~」と編集さんはしみじみしていた。その本自体は、写真集というよりキャラクターブック的な趣きの本となっていましたけどね。よくわかっていない人たちも手を取って楽しめるように。あれから4.5年。ついにそういった部分もオミットされ、グラビアページが9割を占める「ファンとエロ小僧」だけがターゲットの、それこそ三次元のグラビア写真集と同じ目的の本が誕生した。文化がここまで育ったのだ。巻末の方に本人たちのちょっとしたインタビューはあるけどね。
 すごいことだ。すごいけど、部屋にあるとなんだか恥ずかしいのそっと押入れの奥に隠してある。まだ僕には水着写真集は早いようです。というか、グラビアアイドルの本を買うことが今後の僕の人生にあるだろうか……。

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