『ヒトラーのための虐殺会議』
『ヒトラーのための虐殺会議』を観ました。もうタイトル通りカルト寄りの作品ですから、上映館も時期も少ないと思うので、気になったら急いで映画館へ行こう! どこを切り取ってもキワモノ寄りの内容なので、けっして万人にはお勧めしませんが!
さて、どういう映画だと言いますと「ヒトラーに命令された国のお偉いさんたちが、どのように虐殺を決定したか」を、当時の議事録にできるかぎり忠実に再現する"だけ"の作品です。画面の8割は会議室で進む。実際に行われた会議の再現がテーマであるため、誇張された演出や盛り上がりもない。ひたすら淡々と議論が行われ、各勢力の予算やスケジュールなどの擦り合わせが主。
こうなると面白い/面白くないなんて評価軸は関係なく、ただ歴史的な会議を眺めることに意味を見出せる人間だけが満足するのみ。『12人の怒れる男』のように議論の末に辿り着く真実やカタルシスもない。たまに上映中の劇場を見渡すと、老人たちがめっちゃ居眠りしていた。そりゃ自分と無関係の会議を90分見せられたら寝たくもなるわな。あまりに現実に忠実であるため、議論が進むのも遅いし。
では、どういう姿勢で鑑賞したか。この映画のポイントは、「何百万人もの人間を虐殺するというのに、行われた会議があまりに一般的なビジネスとして淡々と進行する異様な光景への恐怖」でしょう。彼らは全員、いかにユダヤ人を効率的に殺すかの話を真剣に交わす。収容場所・予算・コスパ・人道的かどうか……。彼らはヒトラーに命じられた部下として責任を果たそうとしているだけ。平和に染まった現代の価値観で照らすと完全に狂っている。そもそも何百万もの被害者数日及ぶ非人道的行為が90分で済まされるのだ。そりゃじっくり時間をかけたり道徳について考える過程があれば許されるわけでもありませんが。その圧倒的なリアリティに「環境」の恐ろしさに震える。そうするしかできない作品。
去年の年末に配信された『このテープもってないですか?』では、昭和の品性下劣な昭和バラエティがモチーフとなった。セクハラ・パワハラ・放送中の喫煙など。あまりの下品さに現代のコメンテーターたちは困惑する。しかし、これは環境の違いでしかない。この昭和のセクハラ司会者が令和でも登場したなら、きっと時代に合わせて無難な笑わせ方をするでしょう。人は環境によっていくらでも人格が変化する。
ナチスの軍人たちも戦時中の価値観で動いている。殺して殺されての激動の時代を生きるのだから、生命の価値だって現代とは違う。彼らだって、現代人だったら大真面目に新商品開発のプレゼンでもしていたことでしょう。従う先がヒトラーか企業の社長かの違いだけで。だから、こんなにも「普通に」会議が行われていく。この前提があるから、いかなるシーンやセリフも常識が狂ったホラーとして受け取ってしまう。人間とはなんだろうと考えさせられる、なんとも異質な時間を過ごしてきました。
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