見出し画像

神の言葉を伝える信者

 先日、ライブで日本に来ているタイミングだったからか、がうる・ぐらが初めてのスペースを行いました。gura doko……JAPAN!

  スペース機能は自分も何度か利用しているのですが、チャット欄がないためリスナーからのレスポンスが無いという欠点がある。
 なので、開始した際に自身の声がちゃんと届いているか不安になり、「聴こえていたらスタンプなどで反応ください〜」とお願いすることが多い。
 ぐらもまた初スペースの要領が掴めず、ちゃんと聴こえているか不安になったようですが、彼女はプロ中のプロなのでセリフが詩的で素晴らしい。「I hope you can here me」直訳なら「わたしの声を聴いてほしい」ですが、語りかけているよう自然と訳すなら「あなたたちに聴こえていると願うよ/祈るよ」となる。「聴こえていたらスタンプ押してくださ〜い」の何億倍も小気味良い出だしで、彼女の青く輝くつぶらな感性が光る。
 要するに、翻訳とは直訳をいかにカッコよく/かわいく/小洒落て解釈するかの勝負だ。ここで正面から「わたしの声が聴こえて欲しいな♡」でもアリっちゃアリなわけで、ぐらのキュートさを全面に押し出すタイプのオタクならもしかするとこう聴こえているのかもしれない。言語の世界は広大すぎる。
 もちろん英単語の知識、スラング、はたまた日本語の語彙などの勉強量によって大きく異なるわけねすが、それらが同レベルであると仮定した場合、翻訳はもうセンスでしかない。解釈バトルだ。「彼女の言葉をもっともファンの心に響かせるにはこうだ!」と解像度で殴り合うわけである。たとえばドストエフスキーの本なども、調べてみると特定の翻訳者のアンチが居たりする。「こいつの訳し方だとロシアの文化を正しく伝えきれていない!」と問題点を列挙し怒りを露わにする徹底ぶりであった。
 イエスだって神様でなく「神の子」であり、ムハンマドも「預言者」だ。彼らは神様からの声を自分で解釈して人々に広めていった。もちろん神からのメッセージの翻訳の仕方がそれぞれ違うため、宗教家たちにもたくさんの宗派・派閥がある。神の言葉を最も美しく、正しく伝えることは敬虔な信者に課せられた使命だ。配信者は配信内では神である。であるなら、彼ら彼女らの外国語を訳し、効果的に魅力を伝えるのは信者の技量と信仰度合いによる。ひっくるめて「解像度」でいいかもしれない。


 やはり翻訳によってキャラクター性が誇張や誤解されているなと感じる場面もたびたびあり、ここは詩情が、互いの関係の深さを想起させる絶妙ニュアンスや間を日本語に入れるべきだ! とムズムズしてしまう。僕も翻訳バトルに混ざりたい。己の信ずる神の言葉を的確に訳し、信者としての役目を果たしたい!
 とはいえ、まあやらないけれども。何故なら勉強が嫌いで英語のリスニングも単語の記憶も絶対できないから。「さすがにこれはもっとキレが出せるはずだ!」と遠くから切り抜きへ文句を垂れるエアプ野郎でしかない。直接言うことはないし、そもそも訳してくれている時点で感謝しております。ここで僕が攻撃的だったら解釈違いの論争が起きるわけで、これこそ同じ神を信仰している筈なのに人々が争う理由そのものなのだ。
 ぐらの一言のみでも、こんな長文になってしまう。オマケなのでぐら翻訳かっこいいセリフを伝えておくと、彼女はアトランティス出身なる重々しい設定があるので、喧嘩を売る際に「Do you know atlantis?」と言ったことが(僕の曖昧な記憶では)ある。これはあえて直訳に近く「アトランティスを知ってるか?」が痺れるでしょう。海底の神秘による壮大さにニュアンスを委ねる訳。ポップなぐらとのギャップでぐいっと引っ張る!
 ……こんなこと書いて何があるんだ。読んでもなおさら意味もない。みなさんはちゃんと英語の教科書で正しく学んでください。

サポートされるとうれしい。