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友達が差押えられる

 友達が差押さえされる!
 高校からの友達の家にずかずかと金融機関や国の大人たちがやってきて、部屋中の物を没収していく! めったにない愉快なイベントでさすがに心踊る。本人の借金以上になんの理由もないので同情の余地がないのも良い。



 差押さえ。友達はクレカの滞納額が50万〜80万(それすら曖昧)あり、数年放置していたところだんだんと支払い催促の通知が激しくなり、ついに今回郵便配達を直接受け取ってしまった。油断してドアを開けてしまったらしい。
 で。受け取ったからには2週間居ないに異議申し立てをせねばならず、しなければそりゃ予告通りに差押えが来るのでしょう。異議は特にない。「お金がないのでズルズルとクレカを滞納した! 社会で他人と会話できないので今は生活保護でお金ないので払えません!」は通らない。
 とはいえ、そんな悲惨でもない。
 なぜなら彼は生活保護ゆえに貯金もなければ生きるための家具しか持っていない。生存用の家具(冷蔵庫とか布団)は没収できないので、実質的に持っていかれるものとしてはPCとアケコンだ。彼は起きてから寝るまでの8割くらいをスト6のトレモで過ごす。起きているとつねに社会からのプレッシャーで苦しいのでレバーを握って誤魔化している。あとは少しの本。


 本に関してはオタクらしく希少なものもそこそこある。電子化されてないマイナーな小説などは、最近借りた友人たちとのルームシェア用の部屋に置いておく。彼含む昔からの友達たちがのんびり暮らせる空間の誕生が間に合った。なので、「知らない人が来るのは嫌だなあ」程度の話に。
 彼は誰が見ても「働かない方がいい」タイプの稀有な人間だ。決して「働きたくない」などではない。根本的に一部の人間としか会話できず、そのうえで勤務中に混乱してパニックを起こす。あらゆるバイトを失敗し、傷つき、今に至る。それを「甘え」と怒る大人も少なくない。
 あと何を食べてもお腹を壊すので糖分を避け続けており、ナッツを頬張り続けお腹に優しい最小限の食生活。腹が膨らむ炭酸水とナッツで暮らしているので高身長に対して恐ろしいほどガリガリ。糖分はすべて誘惑なので肉もお菓子も食べない。糖分の魔力を脳から消去すればそもそも「食べたい」なんて感情も生まれないとのこと。大好きなウメハラが最近「よく噛んで食べよう」と言っていたので咀嚼の回数は増やしたらしい。
 社会に出れない人間が特に払えるあてもない(差押えされても生活保護の支給は停止しない)ので、なんもないねと笑っている。最近、国が低所得者のみに7万円を配っていたらしく「岸田から7万もらった!」と喜んでいて、速攻で全額キーボード(楽器)に使おうとした矢先の出来事であった。格ゲーのトレモより楽器の練習の方がマシな気がしたらしい。好きに生きなさい。
 ただ彼のあまりに優柔不断(コンビニで30分かかる)な性格のため、どのキーボードを買おうか悩んでいるうちに差押え予告が来た。今回の差押えは警告でなく流石にマジでやってくることは分かる。買っていたら唯一の財産であるキーボードを没収されるため悲惨なこととなっていた。「岸田がくれたキーボードを岸田が持っていく」と語る。実際は国の財産でなく、滞納した楽天カードの足しになるのだろう。
 かくいう僕もクレカ滞納+なんやかんやで80万借金があった。互いに似たもの同士だね。なので初めて本を出した印税は半分以上借金返済で消えた。ブラックリスト入りで5年間スマホの契約もクレカの発行もできなかったよ。ifルートとして差押えされている自分の未来は充分にある。せめて彼に協力できることはある程度しておきたい。ミックスナッツを置いていこう。

 彼の部屋に、僕が色鉛筆で描いたビジューの絵が飾ってある。差押えに来た大人たちが、最低限の家具以外にビジューの絵だけがあることにどう思うんだろうか。なんか変に感動してゴッホ的な扱いになってビジューの絵に高額がついて解決したりしないだろうか。するわけないか。
 なんなら差押えされるからこそキーボードを買ったらどうだと進めた。大人たちがお金のために侵入してきた際、そこにはキーボードと手描きの絵だけがあり、彼は一心不乱に音楽を奏で続ける。「やあ、遅かったね」と演奏の手を止めない。まるで音楽がなければ彼には生きる価値が無いように見せる。ちなみに彼の音楽歴はゼロ。そんな彼の生き甲斐である楽器を国は奪えるのか?まあ演奏の下手さでモロバレなんだが。
 

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