一口エッセイ:毎日スト6しかしない生活保護の友人
高校時代からの友人が、近所で生活保護を受けながら暮らしているので、たまに様子を見に行く。たいてい向こうから僕の家に来てSwitchなどを遊んでいるのですが、ごく稀に僕から彼の生活っぷりを確認しにいくこともあるのです。
彼の部屋はこんな感じ。モニターとアケコン、画面の割れたノートPCしかなく、毎日スト6以外のことは殆どしていない。
一応、反対側には机があるけれど、それだけ。ホワイトボードには、スト6が上達するために気をつけるべき点が記されてある。本当に、寝て起きてヨーグルトとカロリーメイトを食べる、以外の時間はスト6に費やしているので、しばらく会わなかった期間後に遊んだ際は「1.2ヶ月の記憶が飛んでいる」と語っていた。スト6しかしてこなかったので日々の変化に乏しく、僕という他者との会話を通じてようやく時間の変化にきづいたのです。
もちろん、「なにやっていたの?」と訊いても、「キャミィ対策」とかしか出てこない。彼の達成感も悩みも全てがスト6に収束されているため、彼自身の話を聞くことに意味はない。仕方ないので、僕の友人の格ゲーマーたちと対戦会を開いてみたら、その日はめちゃくちゃ嬉しそうだった。友人たちも「リアルでこんなに格ゲーに打ち込んでいる知り合い」ができて満足だったらしく、僕は背後からベガ立ちで眺めているだけでしたが、まあ高校時代からの筋金入りな気難しい友達が、格闘ゲームを通して他人と交流している様は心にくるものがある。本当によかったね。
彼は感情表現が不器用すぎて、ネットもほとんど触らない。格ゲー情報と趣味でホロライブを多少追う程度で、それ以外のことは何もわからず、ネットで議論している人間の無意味さに辟易して距離を置いている。本当は格ゲー配信のコメント欄も消えて欲しいらしいが、ギリギリ許容しているらしい。彼のスタンスに関してはかなりの美点だと僕は認識している。おかげで、彼の意見はネットの評判にいっさい左右されない。たまに僕がなんらかの出来事を彼に話した際、「ネットを見ない引きこもり」としてフラットな意見がでてくる。それが好きで、もう10年以上友達でいるような気がするし、僕がしつこく大衆の意見をシャットアウトしようと書いているのは、彼の感覚の方がピュアに感じるから。贔屓と煩悩と同調圧力がなければ、この世界の9割のことはマジでどうでもいいので放っておくべきだ。彼は自身に関係のある1割、つまり格闘ゲーム以外の要素は世界と認識していない。
彼の部屋のノートパソコンは僕が落として画面が割れたものだし、モニターやスピーカーも彼の引っ越しを機にお古を渡したものだ。そうじゃないと彼の生き甲斐であるスト6すらもできないから。その環境だけは友人として保障すべきと思った。代わりに僕の引っ越し作業や雑務を手伝ってもらったりなどでギブ&テイクの関係を築いている。互いに強く自閉した存在である分、必要以上にくっつかない点で気が合うのだ。最近、彼が音ゲーにも興味を示したので、リズム天国とアドバンスを貸したりもした。結構喜んでいた。音感と格ゲーの関連性を感じているっぽい。よくわからんが役に立ったならいいか。
それでもやっぱり心配になることはある。食事はつねにヨーグルトとカロリーメイト(彼は菜食主義なのだ)、もちろん生活費はギリギリで食事以外はスト6をする以外に娯楽もない。「何か困ってない?」と尋ねるたび、「今が一番幸せだ!」と僕の不粋な質問に驚くのだ。彼にとって現生活は余計な雑念を覚える必要がまったくなく、ただスト6をすることのみに熱中できる。一切の贅沢をしなければお金も必要ないし、家族もいないし、友人はたまに僕が様子を見にくる。何より働かなくて済むので人間関係がない。彼は驚くほどに他人が理解できないため、すべてのアルバイトで問題を起こし、ついには他人とほぼ会話する必要のないウーバーイーツですら失敗してダメになった。家賃滞納でシェアハウスを追い出され、どうにか僕も手伝って近所に生活保護として生きていける状況が構築されたのです。遠くに住んでいたら、気づけば死んでる可能性すらあるし。他者から見れば貧困であるが、主観ではこの上なく幸せ、決して赤貧ではない。とにかく人間関係が最少であることが人生の目的。分かりやすくていい友人だと誇りに感じております。