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短期的な快楽

 人の噂も七十五日とは言うものの、情報量が加速したネット上では三日も持たない。
 せっかくですので、昨晩書いた、僕への真偽不明な情報に寄ってきては即消えた「つねにゴシックへ言及して渡っていく人たち」のことを考えてみよう。こうして日記のネタへ昇華するくらいがちょうどいい。


 基本的に人は脳内麻薬の奴隷だ。
 報酬系を刺激し、気持ちの良い脳内物質を分泌するため生きている。
 そのために「正当な努力」か「短絡的な官能」のどちらかを行う。正当な努力は文字通りの努力であり、資格を取得する、スポーツに励み結果を出す、身体を鍛える、創作活動に勤しむ……などなど。宗教観によっては修行や苦行も含まれる。人間の身で信ずる神や仏に近づくことは「気持ちがいい」でしょう。宗教的エクスタシー。
 が、正当な努力なんて難しすぎる。マラソンを走り切る、応募した作品が賞を獲る、複雑な試験に合格する……そう簡単に届かないからこそ、達成時に脳内麻薬がドバドバでるわけだ。愛する者とのセックスもここへ含まれるはず。
 まあそう簡単に人間が努力だけを行えるはずもないので、息抜きや逃げ場として「短絡的に摂取できる官能」はたくさん用意されている。アルコールや食事もそう。酒や炭水化物はシンプルに脳と胃を満たし、快楽を与える。三大欲求の中で最も手軽に手に入る官能でしょう。ストレスを感じるたびにラーメン屋へ行けばいいんだから。千円でお釣りがくる。もう少し出せるならビールもつければいい。僕はその快楽は好きじゃないから、人付き合い以外では設定した健康的な食事のみに絞っているけれど。
 他にはドラッグ。合法・非合法・グレーゾーン。いろいろあるね。要するにあれは身体に回った毒が直接脳味噌を刺激するのだから、そりゃ気持ちがいい。倫理や健康面さえ無視するなら、ドラッグよりコスパが良いものなんて無い。「直」なんだから。しかし、お察しの通り強烈な快楽の反面、中毒性が高く、心身ともにズタボロになる場合も多い。いまの僕は、ゲーム製作や創作、こうしたテキストの投稿などの楽しみで現状満足できていますが、昔は睡眠薬で曖昧になった頭で活動したりグレーゾーンな毒で幻覚世界に至る快楽に夢中だったわけである。なので「健康に悪いからやめろ!」と言える立場じゃない。現実を見たくなくて一秒でも長く幻覚に浸っていたい気持ちはわかる。今もあるね。そのあたりの事情を無視して健康を押し付けるのも誠実でないとも感じる。身体と治安に悪いのはその通りなので、知らない人たちから説教されるくらいでちょうどいいのかもしれない。
 いつかは正当な努力と向き合わねば破滅は既定路線なのだから推奨もしないし、できれば少しずつ控えていく方向に促すくらいはするかもしれない。ただゲームを完成させてリリースする瞬間は、あらゆるドラッグよりも気持ちがいいとは事実として述べておきます。
 他のインスタントな快楽としては、ワンナイトの性行為や生命を削る非日常を得られるリストカットなどもある。あんまり書く必要もないね。人間、息抜きや短期的な快楽は必要だが、匙加減は各々に委ねられる。音楽や映画に本など、文化的に満たすこともできる。長期的な努力と短期的な快楽のバランスを、とてもとても長い時間かけて調整していく。
 そこへ新たな短期的な快楽・刺激の形、しかも健康面に問題のないモノとして、「SNSで他人をバカにする」が発生した。これはとても理に適っている。適当に時流に乗っかり、ニュースやゴシップへ上から目線で一言申し、人気作品や人物に対して粗探しをする。似たような人間たちが集まり数字が増えていく。匿名掲示板では味わえなかった、「直接攻撃できて仲間や数字も増える」快楽。スマホをポチポチするのみなので酒や過食より健康だ! ……ドラッグよりも中毒性が高い気はするが、細かいことはいいでしょう。
 著名人の炎上なんて最高の瞬間だ。処刑や私刑は大衆にとって数千年前から続く大人気コンテンツである。他者が没落することで真っ当な努力を踏まず自動的に自身のランクが(本人の中で)上がっていく。溜飲も下がり脳内物質もどばどばと興奮を煽る。ストレートに誹謗中傷するのはみっともないし訴訟リスクもあるから、なんか適当に相手の悪い点を指摘して正当性のある正義ということにすればいい。そこへ皮肉やユーモアも加えれば本質を捉えた「冷笑」というジャンルになって多少は格好良くも見える。お金も手間もかからなければ健康被害もない。スマホをぽちぽちするのみでこんなに刺激が得られる。素晴らしい時代の到来だ。
 なので、ニュースやゴシップへの言及や晒し行為を繰り返してネットを横断していく人々は、現代で報酬系から脳内麻薬を分泌させるために、非常に効率的な選択を行なっている。なんと賢く、他人を正しい道へ導き続ける道徳心や倫理に正義感まで溢れた人間たちでしょうか。
 といったように、こうして皮肉を交えて何かをだらだらバカにすることもまた短絡的な快楽です。同じ穴の狢だね。人が酒や性に溺れるように、SNSで心の穴を埋めることもあるだろう。先述した通り、バランスだと思っている。自分の魂、美学が削れ、穢れていくことをどこまで許すか。究極的にはそれだけの話。僕はもうネットの刺激にそこまで興味ないね。
 できればカッコよく生きていきたいものです。

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