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2021年夏、NTL沼にハマりました

2021年の夏、私がハマりにハマっていたものがあった。それは「ナショナル・シアター・ライブラリー」、通称NTLの上映作品だった。

NTL、それは英国ナショナル・シアターが厳選したこれぞという舞台を、映画館で見られるようにするべく世界中の映画館で配信するシリーズだ。


ずっとなんとなく興味はあったのだが、なんせNTL、上映期間が異様に短い。たいていテアトル系の小さな映画館で一週間くらいしか上映していなかったりする。なかなか予定が合わないままぼんやり流していた。基本的に毎年数作品を上映するだけなので、気がついたら終わっている……。あと二幕演劇が多いので一回3、4時間くらいかかる。

それが今年の夏、シネリーブル池袋が「ナショナルシアターライブラリーアンコール祭り」と称して、過去のNTL上映作品を数週間のなかでいくつも上映してくれていた。NTLは基本的に一期間に一作品なので、とてもレアな機会。

そんなタイミングで友達が誘ってくれて、アンコール祭りのひとつ『スカイライト』という作品を観に行くことになった。……その時の感動といえば、まあ、過去のnoteに書いた通りです。

これが本当に本当にすばらしくて!!!! もう、今年見た映像のなかではダントツだった。びっくりした。というかそもそも好みだった。こんな素晴らしいものを私はスルーしていたのか……と震えた。こんなこと言ったら余計かもだが、日本の舞台とはちょっとレベルが違うと感じた。俳優さんも脚本も舞台装置も。すごすぎる、演劇大国イギリス。

というわけで『スカイライト』が素晴らしすぎて、「このレベルの海外の舞台をいくら映像といえど3000円で見られる!?」と驚き、あっという間にNTL沼にずぶずぶ入っていった。

NTLのために有給も取り、原稿を早く終わらせ(またはほっぽりだし)、1日2作品はしごした。ちなみに1作品3時間くらいあったりするので、その日は1日中シネリーブル池袋にいた。仕事が入った日曜日も、ダッシュしてなんとか間に合わせてNTLを観に行った。

私がスカイライトを観たのはアンコール祭りも終わりかけの時期だったのだが、まさかの「緊急自体宣言だったから」とアンコール祭りのアンコールをやってくれて、たくさん観ることができた。ありがとうシネリーブル池袋……!

というわけで私が2021年夏に観たNTLの作品について少し紹介する。都心以外でもたまに作品上映があるらしいので、ぜひ行ける映画館へNTLが来た際に観てみてほしい。なんなら全国展開してほしい。もっともっとたくさんの人に観てほしい。きっと観客がたくさん来たらもっと上映館が増えるはず~。


1.『リーマン・トリロジー』

スカイライトと並んで私のベストオブ映像作品2021。ものすごかったし、ああこういうものを私は観たかったのだ、と心から思った。

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歴史と神話の経済大河ロマン。本当に観てよかった。たった三人の役者と一台のピアノで繰り広げられる、リーマン・ブラザーズの会社史と重ねられた近代アメリカ経済史。本当に本当によかった。「あ、自分は舞台好きだな」と思った瞬間があって、それはこの作品が常に言葉によって進む物語だと分かったときだ。語られる歴史。家族の物語というミクロとアメリカ史というマクロの交差する大河ロマン。

もちろん舞台装置や音楽もものすごいし役者さんがなによりもすごいのだが、しかし物語を進めるのが徹底的に言葉なのだ。もともと原作が9時間に及ぶラジオドラマだったらしいのだが、それゆえに、言葉でどんどん物語が進む。怒涛のような言葉によって紡がれるアメリカの病理。「最初はたった三人の兄弟によって生まれた家族の物語の舞台だった会社が、アメリカ資本主義の波に飲み込まれ、潰れるときにはリーマン一族は誰も残っていない」という流れが美しすぎて……。私は不必要な言葉のない物語がなにより好きなので、だから舞台の言葉が好きなんだよな。


2.『十二夜』

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これもよかった……! 今も吉祥寺で上映中なので、たくさんの人に観てほしい。シェイクスピアの十二夜を現代風の演出で翻案した物語。十二夜のコメディと切なさの塩梅が絶妙だった。マルヴォーリアに対する扱い酷すぎない!? と思いつつ、ラストはそのマルヴォーリアの佇まいにやられてしまった。滑稽さと哀しさはいつも表裏一体なんだよな、としみじみ思った作品。十二夜はシェイクスピアのなかで今のところいちばん好きかも。あとパンフレットが異様に充実していた。


3.『スカイライト』

ブログで感想書いた。


4.『夜中に犬に起こった奇妙な事件』

ブログで感想(以下略)


5.『戦火の馬』 

ブログで(以下略)


6.『橋からの眺め』

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これはとにもかくにも役者さんが勝っていた。何に勝ってたのかわかりませんが勝っていた。すごい迫力だった。父と娘の、言葉にはならない微妙な肌の距離感、それが近づいて離れてゆく過程が、映像から伝わってきて驚いた。娘の、微妙に肌の露出をする感じとか、どんどん父親が別人に見えてきて「えっ? えっ?」って引いていくところとか、素晴らしかった。娘が別人に見えてくる母親の不穏さとか。なにより本心をどんどん隠しきれなくなる父親の情けなさも。ああいう肌の近しさって、小説ではなかなか表現できないところだよなあ。これが人間が演じるってことなんだなと。最後の演出も驚いたし、凄まじい演劇だった。(すごく変な話、肌で説得されると、こういう話でもただキモーい! と終わらせられないよな、と)。


7.『フォリーズ』 

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ダンス上手すぎてびっっくりした。あらすじは同窓会で昔の恋愛を思い出して……というよくある話だなと正直感じたけど、ダンスと歌が圧巻だった。私はあまりダンスのすごさがわからない人間だと思っているのだけど、『フォリーズ』は、「うわっめちゃくちゃ上手い」と分かる程に上手かった。あと舞台セットがとても可愛かった! 廃墟となる劇場、ってそれだけで絵になる。そして曲がどれも良くて、サントラが買いたくなる舞台でした。



というわけで、すっかりNTL沼にはまってしまったのでした。原稿があろうが仕事があろうが池袋に通う日々だった。楽しかった。こんなにいいものがこの世にあるとは。また上映された暁には行きます。ていうかリーマン・トリロジーやスカイライトはもう一度見たい。

札幌や名古屋でも今やってるみたいですし、定期的に全国巡回しているらしいので、NTLive、もしお近くの映画館で上映された際はぜひぜひ見てみてくださいね~! 情報収集は公式サイトか公式Twitterアカウントがおすすめです。(宣伝)


出身が地方だからか(関係ないかな)、なかなか舞台にハマるタイミングがなく、東京に来てからも観る機会はそんなに多くなかったのだけど。2021年、宝塚とNTLブームによって自分にとって一気に舞台の演劇が身近なものになって嬉しい。うまく言えないけど、舞台はけっこう小説に近いものがあると思う。なんというか、表現における言葉による比重が大きいというか。言葉と演出と身体だけでなんとかしていく感じが、「絵で見せる」漫画や映画とはちょっとまた違う表現だなと感じる。それと歌が入るのが……いいよね舞台は……。歌や曲で説得されてしまう場面も多い。リーマン・トリロジーのピアノとか。

舞台、もっと観て自分のなかに増やしていきたいです。NTLにはとりあえずものすごく感謝。シネリーブル池袋にも感謝。

いつもありがとうございます。たくさん本を読んでたくさんいい文章をお届けできるよう精進します!