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2023年紅白歌合戦のYOASOBI『アイドル』パフォーマンスで表現されていたもの

2023年の紅白歌合戦のパフォーマンスで最も印象に残ったのは、YOASOBI『アイドル』だった。日韓トップアイドルたちが『アイドル』にあわせて踊る、それは『アイドル』の歌詞に込められたものが最大限表現されたステージだった。



1 平成の「真実」を見せるアイドル、令和の「嘘」を提供するアイドル

2023年、アイドルはいろいろあった。本当にいろいろあった。アイドルだけではなく、ショービジネス、日本語で言えば「芸能」が好きな人にとっては本当に胸が痛むようなニュースだらけの一年だった。

そんななかで今年アニメとともに大ヒットしたのが『推しの子』というアイドルを主人公に据えた「芸能」漫画である。アイというアイドルの謎を軸に、2.5次元舞台や恋愛リアリティーショー、ネットアイドルや実写ドラマやバラエティに至るまで、さまざまな現代の「芸能」を取り扱った物語。

この作品がテーマにするのが、芸能でごはんを食べる人たちの、「嘘」である。

というのもその昔、平成のアイドルとはいかに切羽詰まった「真実」を見せるか、を競うステージだった。たとえばAKB48の総選挙、モーニング娘。のデビュー前バラエティ、SMAPの密着旅番組。お茶の間に彼ら彼女らは常に「真実」を見せたがった。生々しい感情、亀裂、言葉、そしてその先に生まれるファンへの愛とメンバーとの絆。それらはどのように「真実」であるか、常に試されながら届けられてきた。単なる仲の良さや表面的な言葉ではなく、もっともっと生々しくて、もっともっと真実が欲しいのだ、と観客は望んだ。平成のアイドルたちは、「真実」を見せる存在だった。

しかし次第に人々は、生々しい真実を欲しがらなくなった。なぜなら生々しい真実とは、疲れるからだ。

文春で恋愛スキャンダルが日々取り沙汰され、恋愛どころの話ではないスキャンダルも増えていく。NGT48の事件を思い出す人も多いだろう。あるいはSMAPの解散や嵐の活動休止のように、現実の構造疲労が彼らのお茶の間に見せる「真実」を崩していく。私はたとえNGT48の事件がなくとも、AKB48の総選挙は今の時代にもう無理だろうと思っている。少女たちが傷つく様子を無神経に見られるほど、私たちは「真実」を求める図太さを持っていない。

『推しの子』は、そんな芸能人たちの「嘘」に焦点を当てる。

いかに芸能が嘘をつく仕事であるか。アイドル、監督、俳優、YouTuber、インフルエンサー。彼ら彼女らが嘘をつくのは、ひとえに観客に楽しんでほしいからだ。ーーいいステージをつくりだすために、アイドルは「嘘」をつく。それが『推しの子』の物語だ。

2023年に明らかになったショービジネスの問題は個別に議論されるべきだが、そこにあったのはすべて、いいショーをつくりだすために、観客につかれた「嘘」の問題だった。だからこそ『推しの子』はたくさんの方に受け止められた、という側面もあると私は思っている。嘘をつくことで苦しめられる部分もありながら、それでも嘘をつきながらも愛を込めてアイドルはアイドルを楽しんでいてほしい、というファンの願いに応えるような物語だからだ。


2 『推しの子』と「推し活」の時代

令和になって以降、推し活、という言葉が流行った。それはまさに「真実」を浴びるのではなく、彼ら彼女らの「嘘」に参加する活動のことだ。「推し活」を通して、推しを自分のアイデンティティにするためには、推しはある程度フィクションになった物語でなくてはいけない。推しが多面性のある人間だと、ファンのアイデンティティは揺らぐ。むしろ推しはフィクションのように、定型化されたキャラクターの方が都合が良い。

『推しの子』のなかに、こんな歌詞がある。

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