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父と決別しない物語―『舞いあがれ!』最終回見終えた感想

2022年下半期の朝ドラ『舞いあがれ!』が完結した。

私は毎度朝ドラの最終回直前に、ドラマ批評を書かれている明日菜子さんと、Twitterスペースであーだこーだ総括を喋っている。↓アーカイブ残してるので気になった方はぜひ~。

で、そこで話したことであらためて感じたのが、『舞いあがれ』という物語は、「父との決別をしない」物語だったんだな、ということである。そこが物語の展開上もっとも不思議だったように思う。


1.舞の「父の夢を叶える」モチベーションの謎

『舞いあがれ』はメインキャストに、主人公の舞、そしてその幼なじみに歌人となった貴司、看護師となった久留美がいる。『舞いあがれ』のなによりの特徴は、三人それぞれ父の背中を追いかけ続けていたことだ。

舞はパイロットの夢を目指しながらも、実家の父が倒れたことをきっかけに、家業であるネジ製造業の会社を手伝うことになる。もうすでに散々Twitterでは指摘されていたことだと思うが、舞ちゃんは父の死後、何かにつけ「お父ちゃんの夢を私が継ぐ!」と言いまくり、とにかくパイロットの夢もそっちのけにして「お父ちゃんの夢を私が達成する」ことを目標に動き続けるのだった。

父の意志を継ぐ娘という構図は美しいっちゃ美しいが、やや時代錯誤な感じも否めないし、なによりも父が死ぬ前と死んだ後でかなり舞ちゃんの「お父さんの夢を継ぐ」ことへの意識が変わってしまったため視聴者は戸惑ったのだった。いや、それがずっと夢だったのならいいのだが、お父さんが死ぬ前はあんなに大学を中退してまでパイロットの夢目指してたやん……? パイロット辞めるのはいいと思うのだが、それにしてもこんなに家業の犠牲になっていいのか……?? と疑問を持たざるを得なかった。

で、不思議なのが、私はこういう「不自然に父の背中を追おうとする娘」の物語には「父の背中と決別する」場面が挿入されるのだろう、と思っていたのだ。父と自分は違う、だから自分の夢を追いかけてゆくのだ! と決心するシーンがあるんだろう、それこそが舞の自立なんだろうな、と予想していた。……が、そういう場面はないまま、ぬるっと舞は起業することになる。

いやいいんだけど、いいんだけど、じゃあ「お父ちゃんの夢」ってあんなに言っていたのは一体……!? とさすがにはてなマークがついてしまうのだった。


2.貴司の解けない「デラシネ」の呪い

舞の配偶者となった貴司は、実の父ではなく、『デラシネ』という古書店を経営する詩人であった「八木のおっちゃん」に影響を受けて短歌を詠み始める。これは明日菜子さんがスペースで述べていて「たしかに~~!」と全力で納得したことなのだが、貴司にとって、自分のロールモデルは八木のおっちゃんなのだ。

八木のおっちゃんは、放浪癖があって、詩集も自費出版で出している。貴司もまた、会社を辞めてからは旅をしながら歌をつくり、『デラシネ』を継ぎ、子供たちの居場所として古書店を解放する。しかし彼の歌が新人賞をとることで、商業歌人としての道を歩み始める。そしてなにより、舞と結婚し子どもを持ったことで、家庭を持ちながら(旅も出られないまま)どうやって歌を作るのか? という難題にぶち当たる。

八木のおっちゃんは「みんなが船の上でパーティーして楽しそうなとき、自分は息ができない。だから海へ深く潜り、そして海の底でひとりで見つけた言葉を詩にすることでやっと息ができるようになるのだ」という旨を貴司に伝える。

しかし舞と一緒に家庭を営むことは、貴司にとっては、ずっと船の中でパーティーにい続けなければいけないということだ。子どもがいたら、ひとりになって海の底に沈む時間なんてない。最終週直前、貴司は歌が作れなくなってゆく。

歌が作れなくなった貴司は、パリへ向かう。八木のおっちゃんに会って、スランプを脱したいのだという。……このタイミングで本当は、貴司は八木のおっちゃんというロールモデル=父と決別すべきだったろう。八木のおっちゃんのように、商業的成功を目指さず、放浪しながら、愛する人と離れながら生きて行く人生ではなく。違う道を、自分は職業歌人として、愛する人とともにありながら、船上でパーティーに参加しながら歌を作る道を選ぶのだと、せめておっちゃんから「お前と俺は違う」と言ってもらうべきだったんじゃないのか。

でもそのタイミングを与えておきながら、貴司はやっぱりおっちゃんに憧れたまま、歌も作れず帰って来ることになる。……それでいいんか~!!! 結局貴司はまあまあ短歌も詠めるエッセイストになったような描写が出てきて、「それでいいんか~!!!」と私がツッコミを入れたことは言うまでもない。短歌、詠めてるんだろうか貴司は……。


3.父の背中伏線の謎と「朝ドラ」の難しさ

舞ちゃんも、貴司くんにしても、どちらも父の背中に憧れ、過剰なまでに父の夢を追いかけながら、それでいて父と決別しない……という不思議な物語だったように思う。というか、父と決別するタイミングはいくらでもあったのに、特にしなかった、というのが正解のような。

かといって、父が中心となる家族地元コミュニティの中でわきゃわきゃ楽しくやってくんだよ~という結論でもなく、最終的には舞ちゃんも貴司も自分の道を見つけて成長してゆきました、という結論っぽいので余計に「あの父の夢を追うくだり何だったん!?」とツッコミを入れたくなってしまうのだろう。

まあ、朝ドラは長いしいろんな旬の俳優さんの魅力がふりまかれるのが特徴のひとつで、そういう意味で脚本家がコントロールできる物語の分量が少ないのかもしれませんが。そういう一筋縄ではいかない物語のうねりを楽しむのも、朝ドラの魅力のひとつなのかもしれない。

総じて『舞いあがれ』、楽しく見ていました。ありがとうございました!

以下有料部分は、雑感……という名の、私の思う今回の朝ドラのきつかった点とよかった!! 点です。

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