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「カズオの運行日報」第1話 解説

さてさて、扉絵のハードルを自分で上げてしまい公開まで時間がかかりましたがようやくスタートできました「カズオの運行日報」

「グランジの神様」からご愛読の皆さま、作画協力として資料画像ご提供頂いてます皆さま、そして本作に出逢いのあったすべての方に感謝申し上げます。

運送会社・トラックドライバーのマンガっていうのは今まであんまり無かったんじゃないでしょうか?
ぞうむしさんの怪談や、ゆきたさんのリアル宅配便日記、古いとこだと「わっぱ列伝爆造」…くらいしか焦げ猫は知りません。

あとトラ協が若手人員確保のため外注に描かせたマンガとか、毎日ビール飲んでSNSで炎上してるドライバーなのかタレントさんなのかよくわからない人のマンガもあるみたいですね。
(この方、自分の娘や作品中のカズオと同じ歳なんですよ。まぁいろいろ心配ではあるのでその議論はまた別な機会に…)


焦げ猫が「カズオの運行日報」を描こうと思ったのは、正直自分の都合なんです。

30年、いろいろありながらもながらやってきたドライバーという仕事、病気でそれができなくなって自分の存在価値や社会との繋がりを求めたときに、発信できるのは自分の経験しかないからそれを活かそうと。

だから売れようバズろうとは思ってないんですけど、業務については本当に自分が経験または身近に起きた実話がネタなので二番煎じと思ってほしくないというのはあります。

が、いちばんは、焦げ猫の作風を好き・おもしろい…と思ってくださりながら業界のことを知って頂いたり、すでにドライバー職の方に「あるあるネタ」や「こだわり」を見つけて楽しんで頂いたりできれば嬉しいなぁと思って描いています。
なので、記事はこれからもすべて無料でお読みいただこうと思っています。

初回なので前置きが長くなりました。

運送業界は専門用語・専用道具が飛び交う世界ですし、今まであまり取り上げられなかった商習慣の特殊な世界でもあるので、「知りたい」と思って読んでくださる方のために解説記事を別個に書いていきます。
「カズオの運行日報」の解説記事のみのマガジンを作りますので、マンガを読んでいて、

「コレどういうことなの?」
「アレはなに?」

…と思ったら、ぜひ解説記事をのぞいてみてくださいね(^^)



免許を持っていても…

カズオは中学卒業後にKNロジに就職してから最初の準中型免許が取れるまで、助手としていろんな業務に携わってきました。
そして18歳になってやっと…。

カズオの助手時代の話は「グランジの神様」で描いてますが、正直あまりKNロジみたいな採用をする会社は引っ越しやってる会社など「存在はするけど」少ないと思います。
なにがかって、若手といってもあと数年もトラック乗れない若手を雇うのがです。
免許もスキルもある即戦力を求める会社のほうが多いと思います。
そこは社長の経営理念・方針として本気で若手を育てたかったらどうするか…という理想を描いてる部分はありますけどね。

そしてこれはどの運送会社でも同じですが、数年の下積みがあっても、別の会社でスキルがあっても、その会社に入ったらまずやるのが「運転者台帳」の作成と「初任診断」、決められた時間数の座学研修です。

まぁ、人が足りなくてそれを先送りにしていきなり乗らせる会社もありましたが…(^^;)
本来はハンドルを握らせる前の義務付けです。

運転者台帳は写真持ってきて職務経歴書書いて~って言われて提出すれば内勤さんがやってくれる会社がほとんどですので割愛します。

初任診断

作中にざっと説明を書きましたが、現在ではほぼシュミレーターで完結するプログラムになっており、質問に答える項目のほかマンガでカズオが悪戦苦闘したようなゲームみたいなのもあります。

このページの最初のコマは、壁に隠れた車がこのスピードで入ってきたらどれくらいで壁から出てくるか判断してボタンを押してくださいっていう、スピード感の憶測が正確かどうかを見る検査です。

そして次の、カズオが「意味わかんね」と言ったヤツ…焦げ猫はこれがいちばん苦手でした。
だって画面左と右で落ちモノの方向が違ううえに、両方よけろですからね…(汗)。

でもこれ実を言うと、NASVAの人が言ってたのですが、どんなに反射神経がいい人がやっても「当たるようにできてる」らしいのです。

これは、その人の注意が向く傾向が右側か左側かを診断する検査項目なんだそうです。

そのほかにも普段の運転でこんなことしないよ、みたいな検査が幾つもあって、ゲーム機に慣れてない人は特に、実際に運転が問題なくても過小評価の結果が出がちな検査ではあります。
が、作中で槍杉さんが言っているように、適性診断の結果で首を切られたりすることはありません。


座学研修

これはちゃんとやってる会社とそうでない会社があるのが現実ですが…。
ちゃんとした会社だったら15時間以上、2〜3日かけてビデオ観たり教科書読んだりってのがあります。

トラックドライバーは焦げ猫も含め、その免許やスキルを引っ提げて転職というか業種が同じ別会社に移ることも多い業界です。
焦げ猫も今まで待遇の不満という理由以外に倒産2回喰らったし出産や引っ越し、病気や怪我、いろいろあって何度か転職してますが、そこそこやってきた人には「またこれか」ってな内容ではあります…。

ただ、いちどトレーラーの会社に就職したときにはジャックナイフや横転の怖さを座学研修で嫌ほど教わり、めっちゃ勉強になったのは今でも覚えています。
(ジャックナイフとは、トレーラーは連結部分を軸に曲がるその特性のため、引っ張っている台車が滑ってコントロール不能になることによりくの字に折れて事故に繋がる現象のことです)


荷物の積み込み現場について

順番が前後しましたが、青さんとカズオが荷物の積み込みをやっているページについて。

これはいわゆる「バラ積み」というヤツで、「手荷役」「ちゃぶり」とも言います。

小さい車での小口配達は特に、たいがいこの「バラ」です。

このときカズオがやっていたのはスーパーや小さな問屋さんに日用品を配る仕事で、ティッシュや洗剤なんかはだいたいこんな積み方のパターンです。

「LOW!  HIGH!」の意味

青さんが荷物をぶん投げているように見えますが、コレは実はやっつけ仕事で投げてるのではありません。

焦げ猫の画力不足でそう見えるかもしれませんが、荷物を荷台に置くときに、水平方向に投げる「ように」すると、荷物が奥まで滑っていくので1個ごとに荷台を行ったり来たりしなくて済みます。
これには荷台に専用のワックスをかけておくことが不可欠で、「スベリロー」「トラックス」「イボタ蝋」なんかの商品名で売っています。焦げ猫はトラックスを使ってましたが、もう少し柔らかいほうが使いやすかったかもなーなんて思います。
要は、家具の引き出しや襖の敷居に蝋を塗るのと一緒です。
重たい家電のバラ積みでは特に必須ですね。

積み込み作業中にロウの効果が切れることもあるので、作中のように塗り足したりします。
青さんが「ロウ!」と言ったので、カズオが「はい!」とロウを塗り足した、というわけです…。
a~haのファーストアルバム「Hunting High And Low」を聴きながら描いてたらこうなってしまいました(爆)。

ちなみに「パレット積み」をする車にロウを塗ってはいけないと言われます。
パレットが滑って荷崩れの原因になるからです。
ただ、実際問題パレット積みやったりバラやったり同じ車両で毎日違う仕事をするケースもあるので、バラが多いかパレットが多いかで自分の車に塗るか判断して自己責任で塗ってる人もいると思います。
焦げ猫はバラのときにラクしたいから塗ってて、その代わりパレット積みのときは緩衝材(発泡スチロール製の専用品なのでドライバーはみんな「ハッポウ」て呼んでます)とラッシングでギチギチにしてました。

たまにしかバラをやらない人は、バラのときは「荷台にベビーパウダーを撒く」という裏技?を使ってる人もいるようです。
コストはかかりますが、滑りがよくなる割に効果が消えるのが早いんだそうです。


1コマ目の荷台の中の様子について


積み付け票
伝票とは別に、「このトラックが積んでいくのはどこ行きの何が何個」を書いた紙を便宜上出す現場は多いです。
それを見て数をチェック&配達先の順番を考えながら荷物を積みます。
だいたい作中のように、作業中は荷台の間口の金属部分にマグネットクリップで留めて参照してる人が多いと思います。

もちろん伝票しか出ない現場も少なくありません。
そういう現場ではくれぐれも伝票を紛失・汚損しないように…。
焦げ猫は伝票を荷台に置いたまま扉閉めて出発してしまい、

「アレッ伝票がない!!」

…と大騒ぎしたことが数回あります(爆)。


コンパネ、ラッシングベルト
荷台左に立ててあるのは「コンパネ」とも呼ぶベニヤ板です。
それを壁に留めている青いベルトは「ラッシングベルト」という道具です。
トラックの内壁にはこの「ラッシングベルト」が固定できるレールがついています。
この2つを使って、積んだ荷物が走行中に崩れないよう「荷締め」するのが基本です。

ただ、実際ティッシュ・トイレットペーパーの配達なんかですと、扉が閉まるか?というくらいパンパンに積まされることも多いので、コンパネを当てず出発して、配達して荷物が減ってきたら「段落とし」といって高く積んだものを空いたスペースに下ろしていって安定させることで配達を済ませちゃうことも多かったですね。

2tのこのような配達は1日にまわる件数も多く、バタバタになりがちです。



余談・関門トンネル

ここからは余談です(笑)。

プロローグでカズオが福岡から山口に通じる「関門トンネル」に向かって走っている絵がありますが…。


コレ、ベースにした背景写真は焦げ猫が自分で撮ったものですが、ネットの画像検索で他の写真を見てたら「関門トンネル」の青い看板が焦げ猫の写真にはないことに気づきました(汗)。
確かコレ撮ったのは2020年の秋です。

焦げ猫の撮ったモノ↓

Wikipediaの写真↓

そういえばあの看板はいつ設置されていつ撤去されたのか…?
それより前にいた会社では高速使ってよかったので、だいたい関門橋の方しか通らなかったし…。

焦げ猫が九州行ってたのは2年前くらいまでですが、今現在あるのか?が、なんか気になるのでご存じの方ぜひコメントお寄せください(笑)!


次のテキスト記事は、

「焦げ猫の自己流デジタルマンガ」(仮)
「カズオの運行日報 第2話解説」

…の、予定でしたが。

合間をみて急遽、問題の賛否両論タレントドライバーさんについて書くかもしれません。

この方がバズる何年も前から、たとえ休息時間でも酒呑んでるのがわかる写真はSNSにあげるな…っていうのはドライバー間で広まってはいたんですよ。
なので、架空キャラクターのマンガとはいえドライバーの仕事や生活を晒すという同じ立場においてスルーできない問題となってしまいました。
なぜ今?っていうのもあるし、もしこういうバズり方してるのが自分の娘だったらと思うと…。

名誉毀損をするつもりも、ドライバーの飲酒の是非についての議論をするつもりもないんですが、焦げ猫なりの考えは吐露しておきたいので。

話が逸れましたが、マンガ「カズオの運行日報 第2話」をお楽しみに!


「カズオの運行日報」マンガ本編はこちら


カズオの下積み時代、「グランジの神様」はこちら


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