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解説・「やりすぎヒストリー」後編 カズオの運行日報

さて今回は「デコトラ回」と言っていいような回で作画に時間はかかりましたが描き甲斐のある画面でした。

(うんちくになりますが、「デコトラ」はプラモデルの青島文化教材社の登録商標だそうです。なので雑誌等では「アートトラック」という言い方をしているようです)

まず初めにことわっておきますが、焦げ猫はデコトラ大好きです。
たまたまデコトラの会社が悪者になっちゃってますが、好きじゃなかったらあんなに凝った描き込みしないですって…(^^;;
ちなみに1台描くのにデザイン決め含め2日かかってます(汗)。

ただ、飾った車で働くのは大変なのも現実…。

現在はほぼ、市場の仕事しかできない(構造上バースやホームなど狭さがシビアなところに着けられない仕様も多い、偏見で荷主が嫌がるなど)ことや、作中に描いたように部品が重い、積載が取れない(トラック自体の重さのため、積める重さが減る)疲れてても常にキレイに磨いていないとならないなど…。
焦げ猫みたいに市場好きで、かつスタミナがあればもってこいなんですが。

作中では事故の修理代を巡ってトラブルになっていますが、すべての会社がそうではないことをまず申し上げておきます。

コンプライアンス違反は青果市場の仕事やデコトラの会社ではなくとも1990年代には横行していた過去があり、今では減っていることも付け加えておきます。

 



デコトラ・アートトラックの過去と現在

その昔。
まだ自分の車両を持って個人が白ナンバーで働けた時代は、社会の景気もよく走れば走っただけお金になりました。
作中に社長の古い写真が出てきますが、飾りにお金をかけることは、自分の腕でこれだけ稼いでいる…という証であり誇りであったのです。

「カズオの運行日報」第10話より、若き日の社長。ベース車は日野ドルフィン

その後、運送業設立・運営の規制緩和により運送会社そのものがドッと増え、白ナンバーでは仕事がしづらくなりました。
…が、それに反して景気は下がり、多重下請け構造で運賃値引きの競合が激化。

焦げ猫がトラックに乗り始めた1990年代、バブルは崩壊し零細運送会社の運賃は当時からドライバーの収入を圧迫するものでした。

トラックドライバーが不人気稼業になったのもこの頃からだと思いますが、デコトラを揃えている会社はまだ人気があったんです。やっぱりみんなカッコいいトラックに乗りたいですからね。
売上げを飾りに回しているぶん、お給料はそんなによくなかったとか、長時間の業務プラスお手入れに時間がかかるからよっぽど好きで覚悟が無いと務まらない…という話は聞いたことがありますので、このシーンはそれ(車磨き)を描いています。

「カズオの運行日報」第10話より

今でこそ13時間働いた後に洗車や磨きは不可能ではありませんが、昔は地場でも拘束時間18時間はザラでしたので、そのあとにです。

そして飾りの構造上ほぼ市場のような客先しか出入りできなかったり(バラも多い)、美観を優先した結果ラック(後述。ウイングのアオリを上げる補助装置)をつけず昔ながらの箱の造りであったりするため腕力もそれなりに必要でした。

それでもいちどは乗ってみたい!と思わせるほど、カッコいいんですよね〜。
とくにやはりナイトシーンが。

いわゆるデコトラは、現在では二分化しています。
そこそこの飾りで市場の仕事をする車と、ものすごいお金かけてるけどもはや仕事はできないので主にチャリティーイベントにしか現れない趣味の車両とです。
飾りをたくさんつければ「積んでいい量」も減りますので…。

そこそこの飾りとはいえ市場に来てる車はカッコいいですよ〜。
槍杉号にもついていたホイールマーカー、あれは生で走ってるところを見るととてもきれいです。

うーん小さいコマだし迫力がイマイチなのは画力のせい…

ちなみに作中で社長が「揉めるようならワシが一括で払ってやるわッ」というのは、実はヤケクソやイキオイじゃないのです。
仮にも飾りが好きなのは同じですから、「壊されて逃げられた」っていう乗せ損もわかるから払うと言ってるんですね。
社長の哲学として、どっちかというとコンプラ違反に対して怒ってるのです。

「カズオの運行日報」第10話より

実際にあった倒産

今回も前半部分は焦げ猫の経験した話がベースです。

焦げ猫は今まで「働いてた会社がいきなり倒産」っていうのは運送会社だけで2回経験していますが、2社とも「スーパーのセンター便」をやってる会社でした。
まぁスーパーのセンター便が必ずしも危ういわけではないのですが…。

カゴ台車とパワーゲートリフターを使うので確かに毎日バラ満載っていうより身体はラク。
(空回収とその片付けは地味にめんどくさいです・笑)。

「カズオの運行日報」第9話より

しかし会社経営目線ですと、正直採算が取れないのです。

パワーゲートのついてる車両は当然お高いです。
案件がきて請けることになって何台も導入したはいいけれど、運賃値切られてアテが外れてバンザイしちゃったってパターンでしたね、2社とも。
やはりセンター便やってて焦げ猫が辞めたあとに倒れた会社の噂も…。

なんでかわかりませんが、「いずれ運賃を上げる」っていう口約束で始まるみたいなんですよね。
それで案の定運賃を上げてもらえず…。

それでも「おいしいであろう」と思ってしまうのは、365日食いっぱぐれないのと、荷主が有名チェーンだから安心って思っちゃうからなんでしょうかね。作業が簡単なら人も集まるし。
間に入ってる会社が誠実な取引をしてくれるとは限らないのに…。
しかも1社目でやってたチェーンは本体が潰れましたよ。
当時、物流コストも相当値切っていたかも…?

スーパーのセンター便の仕事は確かにルーティンが得意で腕力に自信がない人でもできますので、求人広告でも簡単さを売りに募集してるところが多いです。
初めてやる人のとっかかりにはいいと思います。
が、末端で参入している会社の経営状態にはちょっと気をつけた方がいいのかもしれません。

話が逸れますが、同じような作業業態(カゴ台車)で大型乗れれば某大手通販の仕事も今は人気があります。
こちらは決まりごとやルールが非常にうるさく、自分の専用車を与えてはもらえない、飾りはカーテンやハンドルカバー等もNG、客先敷地内では車内でも喫煙や飲食禁止、シフトにより短スパンで昼夜逆転するなど…でも仕事として割り切ってやれる人には、ほぼ全線高速でお給料もそこそこいい会社が多いのでおいしいはずです。


市場の仕事ってそんなに大変なの?

槍杉さんが「全バラ、積載オーバー強要、仙台ー東京間を4時間で行け、追っかけ以外は高速使うな」でヘロヘロになったっていう話ですが。

コレは飾った車の会社ではないんですが焦げ猫が昔(やはり1990年代)働いていた会社の話です。

幸い居眠りで事故ってはいないのですが、運転中に夢を見たとか「今どこ走ってる?」のくだりの会話は訛ってこそなかったもののそのまんまです。
80km/hで走っててガナられたのも。
あのタイプのガラケーの時代で、まだ運転中携帯電話やフロントスクリーン禁止の道交法罰則もなかった時代ですね(笑)。
もっとも槍杉さんの時代は微妙にそのあとなんですが…。

今は、市場の仕事も昔ほどタイトじゃなくなってきてる印象です。
とくに地場なら。
昔のようなアナログの競りじゃなくなって前倒しになったのかもしれません。

それと、「停めて荷下ろしする場所がわかりづらい」「勝手が分からないで間違ったことをすると怒鳴られる」「時間によっては無法地帯になっていて身動き取れなくなる」など初見殺しの場所が殆どで、最初にその洗礼を受けて嫌になってしまう人もいます。
でもこれ長年やってると「要はルールがないからこその気遣いが必要」ってだけで、フォークリフト乗るのにヘルメットも要りませんし輪止めもかけなくていいですし飾りも自由なら服装も自由で楽しい現場です。
(昔、工藤静香さんが市場の仕事の映画に出てたけど…最初敵役の女の子、さすがにあれはないですけどね)

数話後に、市場の仕事をカズオがやるようになることになっているので、市場の仕事の楽しさを知ってもらえたらと思います。


90年代に実際にあった無茶ぶり

元請け配車マンのモデルは、当時悪名高かった某老舗F運輸。
庸車の若手ドライバーに3〜4日寝られないような運行指示を出し、死亡事故になったニュースもあったような会社でした。
バラでパンパンに積んでいるのに「まだ積めるでしょ」とあとから追加したりも日常茶飯事で、バースに着けた車がそんなことやってるわけだから何時間もの場外での荷待ちは当たり前。
「仙台ー東京を4時間で」は当時別ドライバーの間でも「あれはおかしい」と有名な話でした。インターからインターまでじゃないですよ。積みから納品までですよ。
作画ではイっちゃってる感じを出したかったのでああいうビジュアルに…(爆)。
頭の悪い人」としていっとき流行した顔ですが、調べたところその成り立ちから著作権はない、というかあやふやらしい…。

「カズオの運行日報」第10話より

また、デコトラ会社の社長がAndroid版の絵文字のう○こになってますが、焦げ猫はどーうしても手塚作品で言うとハムエッグのような「本当に性根の悪い人」っぽい顔が描けないのです。いつか描けたら差し替えようと思ってますが、トラックに乗ったことがなくふんぞり返ってる二代めってどんな顔に描けばいいかな…。

また、くまみねさんが「使ってイイですよ」と電話猫の顔をわざわざ配布?してるくらいなので、「現場猫」のほうでシワを描き足された「上司猫(いつも憎たらしい役回り)」の顔をハメるのも考えたんですが…仮にも猫好きなんでやめました。

話が戻りますが、焦げ猫はそこの会社では市場の仕事のほかに長野まで一般道で行ってて、若かったけれど体力的に相当しんどかったです。

焦げ猫は槍杉さんと同じで、生まれつき体力・腕力がなく虚弱体質で、子どもの頃はしょっちゅう自家中毒で入院したりナンボ練習しても逆上がりができなかったり…。
だから「トラックドライバーになりたかったら他の人と同じ仕事ができないと」と背伸びすることは、かなり危険なことだったんですね。
「好き」だけではできないかもしれない…でもいつか、男女関係なく非力な人は居ますから、そういう人たちも働ける業界になってほしいと思っていますし実際そうなりつつあるので、KNロジを通してそれを描きたかったんです。
そういう話はこのあとも続きます。

だから、槍杉さんは適材適所で内勤になった、社長はムリのない仕事をとってくる…今、すべての運送会社がこのように舵を取らないと人不足は解決しないと思います。


メーターアオリ、ラックってなに?

それとその会社で焦げ猫が受け持ったのは主に増トン冷凍ウイングだったんですが(一応大型免許持っていたので、増トンといって見た目4t車ですが総重量が8t以上になる車でした)、なぜか古い箱に載せ替えてあったんですよ。
事故か何かあったのかもしれません。

今じゃ薄型化してますが、荷室内に飛び出してる冷凍機の吹き出し口が頭ぶつけるサイズでしてね。

トラックというのはキャビン・エンジン・シャーシ部分と荷台部分は切り離して考えるもので、例えば前々回の植松くんのような事故で箱だけダメになったら中古の箱載せちゃうとかままある話です。
その逆も然りでキャビン潰れたら箱だけ活かして新車買って載せるとかですね。

「カズオの運行日報」第8話より フレーム修正も必要かもですが

焦げ猫にあてがわれたそのトラックの箱は、ウイングでしたがそのように昔ながらの造りでした。
作中の槍杉さんの車のように、重たい中柱を引っこ抜かないとならないタイプ。地面に置いたら2度と荷台に持ち上げられないので、積み降ろし作業中は荷台の隅っこに置いてました。
邪魔になるので、市場にくるそういう車のドライバーさんは皆さん降ろして車体によっかけてます。
今のトラックの箱はほとんど中柱を引っこ抜かなくてもロック外せばアオリと一緒に折れるので便利です。

「カズオの運行日報」第10話より

メーターアオリ


アオリも、作中に出てきた「メーターアオリ」…。
これはアオリの高さです。
今のウイング車のアオリは大型で70〜80cmくらいが主流なのかな。
4tだと60センチほど。
平ボディーだともっと低いのがあります。
そのアオリが1mあるってコトです。

ラック


で、このアオリを閉める(上げる)ときに少ない力で閉められるよう、最近のトラックではほぼ「ラック」がついてます。

赤丸内の部品がラック。4tとはいえ分割されてなくても、コレだけで上げられます


この「ラック」が昔はありませんでした。
焦げ猫はとくに中間柱の前の短いほうはともかく、後ろの長いほうがなかなか閉められるようになりませんで…。
朝荷下ろし前におにぎり食べるようにしたら閉められるようになりました(米って大事)が、全身で上げようと思いアオリの下に頭を入れてしまい首を傷めたこともあります。先輩ドライバーに「ばーかばーか」って笑われましたけどね…(爆)。

今でも、飾り重視のトラックはラックをつけない車両も多いです。
造りボディー」といって、ラックがサイドバンパーに干渉しないよう&スッキリ見えるようにですね。

まぁ、でも大概の男性はラックなしでもできるかと…。
槍杉さんは焦げ猫並みの体力という設定ですから、重いものの荷扱い・そうしたボディーの扱い・長い労働時間…すべてが体力の限界越えだったのです。

今でも、市場でそういう車できてなんなく仕事をこなしているドライバーを見ると、「すげーな。頑張ってほしいな」と思います。


今回の小ネタは、作画に関する記事にまとめようと思います。
とくに今回やっと「オーバーレイ」を覚えたので、その話メインです(笑)。

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