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解説・カズオの運行日報・第16話兼号外 筋痛性脳脊髄炎ME/慢性疲労症候群CFSについて

今日「5月12日」は、筋痛性脳脊髄炎ME/慢性疲労症候群CFSの世界啓発DAYです。
こういう病気があることを正しく、広く知っていただくための日です。

ナイチンゲールはみなさんご存知かと思いますが、彼女もこの病気にかかっていたようなので、彼女の誕生日がこの病気の啓発活動の日とされました。
啓発(知っていただくための行動)じたいは、昔から患者の会など年間とおして行われています。

わたしも下垂体前葉機能低下症のほかにこれを診断されていますので、実際の経験を絡めてマンガにしました。


筋痛性脳脊髄炎ME/慢性疲労症候群CFSという病名

筋痛性脳脊髄炎ME/慢性疲労症候群CFS…
まず、この2つは別の病気ではありません。
なんでこんな長ったらしい表記かというとですね…。
(字が多すぎて見出し画像作成に困った・爆)

昔、アメリカでは「慢性疲労症候群 略してCFS」のほうが使われており、イギリスでは「筋痛性脳脊髄炎 略してME」でした。

日本ではアメリカ式に「慢性疲労症候群」と呼ばれていたのですが、コレだと誤解を招きやすい!ということで「筋痛性脳脊髄炎」も使われるようになったはいいが、未だに「慢性疲労症候群」が日本のようにメジャーな国もあるので社会全体で併記するに至った…という経緯です。

「慢性疲労」と「慢性疲労症候群」が違うのは、「慢性疲労症候群」(以下CFS)のほうは厳密にいうと「疲労」ではないんですね。…と言うとまた誤解招きそうですが「疲労」よりもっと悪質なモノです。

疲れたときに誰でも感じる状態にいつも出ている症状が似ていることや、些細なことで寝込むなどが休んでも休んでも続き、あきらかに「病的」な状態です。

よくCFS患者が「ただの疲れじゃないのに一緒にしないで」と言いますが、焦げ猫個人としては「慢性疲労」「疲れがとれない」っていうのもそれはそれで一大事だと思ってます。が、それはちょっと置いといて、「疲れ」を感じる機序が根本的に違うのです。
なので、「誤解しないで」となるわけです。


「慢性疲労症候群」はただひどい疲れというのではない

「慢性疲労」とCFSを混同されてなにが困るかというと、「ただの疲れのひどいの」という誤解をされがちだからです。

「ひどい疲れ」で済んでいれば、まだ、ゆっくり休んだり栄養をきちんと摂ったり、サプリメントで回復する可能性があります。
ところが、CFSで感じる疲れたような症状は、どんなに休んでも何を食べても回復しません。それどころか些細なことで悪化します。
なぜなら脳に原因があるからです。

だから、「疲労」と言葉に入ってるのを聞いただけで、
「働きゃ疲れるのはみんな一緒なんだからグダグダ言わずにシャキッとしろよ」
とか、
「日曜日は寝て曜日したんだから甘えんな」
とかって捉えられるのは大きな誤解なんですね。
だってこの病気だと何もしなくてもデフォで動けないほど疲れてるんですから。

通常の「疲れ」は、頑張ったあとに身体が「休みなさい」と出すサインです。

CFSでは、脳に炎症(それが正説かさえまだ確定していませんが)が起きることにより、
「何もしてなくても毎日朝からしんどい、今までなにげなくしていた日常生活の労作だけでものすごく疲れる」
…という状態になります。

マンガ作中で社長が「脳が原因なら身体は動かしてもいいのでは」と最初カン違いしますが、身体を動かしたとか、なにか刺激があったとかのフィードバックはされるわけで、それを脳がバグってるわけなので健康な人よりいちいちひどく感じてしまい、速攻で「もう限界!」となってしまうのです。

「カズオの運行日報」第16話より、これはありがちな誤解のひとつ

マンガ作中で「肉体的ストレス」「自覚しにくいストレッサーの例」として描いたような、健康な人ならなにげないこと…そういうことへの身体の対処ができなくなり、たとえばもっとひどいと「普通の部屋の電灯のあかり」をすごくまぶしく感じて「ストレス」とはっきり自覚できるほどだったり「近所の工事騒音」なんかも普通は「うるさいなー」くらいでガマンできるレベルのものが気が狂いそうに感じたりもします。

症状の現れかたも人それぞれで、脳のどこに炎症があるかでも違ってくるらしいのですが、焦げ猫の場合はまぶしさや騒音に対する感覚は幸いそんなに変わっていないし、「ブレインフォグ※」も頻度が少ないです。
そのかわり、マトモに歩けなくなりました。
数十メートル歩いただけで何百メートルも全力疾走したようにへたれ込み、2〜3分も立っていられないので、車の乗り降りはできても買い物で店内を回ったりレジに並んだりすることができません。灯油のポリタンクも運べなくなりました。
バランス感覚も悪くなり、すぐ転んだり脚立に登れなかったりです。

車の運転は今のところ「ブレインフォグ」が出ない限りできますが、バイクはもうムリっていう状態です。
長時間のマニュアル車も正直キツイ…。

※ブレインフォグとは

CFS患者に多い症状で、「ブレインフォグ」というのがあります。
誰でも高熱のとき、寝不足のとき、すごく疲れたとき、泥酔したときなんかに頭がボーッとしてて「言われたこと、やったことを覚えてない」「日常的な話が理解できない」ことがありますね。
あれが、思い当たることがなくても起こります。

頭に霧がかかったようになる」ことから、「ブレインフォグ」と呼ばれています。


マンガ作中での古毛さんの状態について

カズオの運行日報」としてマンガに描いてある古毛さんの状態は、実際に自分が経験した状態を自分の感じた感覚で、自分の病識の範囲内で描いています。

なにせ研究が進んでないので、原因については鵜呑みにしないでください。

たしかに「脳に炎症がある」らしく「治療法が確立されてない」のですが、「なぜ脳に炎症が起こるのか」「脳の炎症でそうなる理由は」は仮説の域を出ずわかっていません。
原因の原因は不明ということです(^^;)

しかし現状、「脳に炎症が起きている」のを知るためには高額な自費となるPET検査が必要らしいですし、炎症が起きているのがわかったからといって脳の中身をいじくる方法もなければ炎症を鎮める薬も効かないワケなので…。

マンガに詳しく描ききれなかったのですが、原因の一説としては自己免疫機能の異常ではないか、というのもあります。
ストレス、感染症をキッカケに脳が自己免疫機能を暴走=炎症。
この仮説でいった場合に「ストレス」が必ずしも精神的なモノだけではない、ということをマンガで描いています。

「カズオの運行日報」第16話より。これは精神的ストレスの例

それと、古毛さんは自身の「うつ病」を否定しており、確かにCFSはうつ病とは違うのですが(症状が似ているので誤診されやすい病気のひとつ)、CFSじたいの症状や生活の不安、社会の無理解などがあまりにツラいため2次的にうつ病になる可能性は確かにあります。
アメリカのデータだったかな、CFS患者の自殺率は(何と比べてかよくわからないのですが)7倍というデータもあります。


ムリは禁物です

線維筋痛症 略してFM」「化学物質過敏症 略してMCS」も、やはり脳の炎症が原因ではないかとされ合併することが多い病気です。
焦げ猫も「線維筋痛症」の診断は10年近く前にいちど受けており、2年ほどで一旦寛解したあと今回再燃していてCFSのほかにFMでもあると診断されています。

まーだからとにかく身体のアチコチが謎に痛い…今のところ「トラムセット」という薬で痛みは軽減してますが。

マンガ作中では古毛さんは「できる範囲で仕事をやらせてくれ」と言ってますが、本当はCFSと診断されたら「ゼッッタイに無理禁」なのです。

主治医の先生からは、
状態が悪くならないよう無理しないことしかないので、何をするにも自分の状態をよく把握して判断してください」
…と言われてます。

でも、作中で古毛さんが泣きながら話したように、定年までまだある50代だし仕事は続けたかったんですよね…(アレ本音です、くだらんけど30年この仕事やってて1回もフェリーに当たったことがないです)。

「カズオの運行日報」第16話より

で、実際のところですが、青果の出荷シーズンで車が足りないときだけ、マンガのとおり「積みつけ」をやっておいてもらい4t車に乗ることがあります。

1箱10kg近い果物の箱を手扱いしたり、ラップを巻く作業をしたりなどはできなくなってしまったけれど(今までどおりやってみたら何日も寝込みました)、社長の計らいで給与は下がるけど積んであるトラックで走ってフォークリフトで荷物を降ろすだけ…という格好にしてもらいました。
もちろんそれも連チャンだとしんどいし実際動けなくなって休ませてもらったこともあります。

車の運転も地味に「肉体的ストレッサー」になっていて、それがあとからくるんですよ。
だから出発も道路が空きはじめる遅い時間にさせてもらっています。
それと降ろし終わったあとの荷台の片付けもやはりしんどい…回収した空パレットや荷物に挟んだ緩衝材やコンパネ(ベニヤ板)を整理してから帰りますが、「コンパネってこんなに重かったっけ」と…。

荷台に上がるのも、つい今までのようにアオリに足引っ掛けてよじ登っちゃいますが、その一瞬でヘタるので脚立を使ったらかえって怖かったし…。

でも、年のうち数回しかないこのチャンスを逃すと、もう完全に社会から分断されてしまうような気がして。
いまでも、市場に行くのは楽しいです。
だんだん歳をとっていけば誰でもいろんなことができなくなる…それは覚悟していたけど、病気でこんなに早く、いちどにいろんなことができなくなるとは…。

まぁその心情が作中でカズオが例えた「いきなりお年寄りになった感じですか」のくだりです。
それはお年寄りに失礼なので、「乱暴なたとえだ」とフォローしてますが、実感としてはそんな感じ…筋力が落ち、アチコチ痛い、不具合だらけなので。

「カズオの運行日報」第16話より

ですが、実際にムリくり仕事してみて、本当に悪化しちゃったんですよ!

「いろいろ作業がラクになったんだし、これくらいなら大丈夫だろう」と思ってやってたらですね。

だからもしこの病気が疑われたり、診断されたりしたかたは、絶対にマンガのマネをしないでください!

古毛さんが会社に残るくだりは、「社会も捨てたもんじゃない」と、病体のわたしにも理解をくれ、仕事をさせてくれている人たちへの感謝を表現したいので敢えて描いたのです。

ひどい人は本当に寝たきりで介護が必要な状態ですし、おそらく水を飲みに立てなくてだと思うのですが、脱水症状で亡くなったかたもいます。
焦げ猫もいつそこまでヒドくなるかわかりません。

なので、もし周りにこの病気の人がいても、
「歩けてるんだからこれくらいできるでしょ」
…とは思わないでください。
症状は人それぞれですし、ダメージから回復しない悪化するのもこの病気なのです。

ムリしたら倍返しになって返ってくると思ってください…。

働きたい気持ちは患者はみな同じだと思います。
患者当事者のかたであれば、くれぐれも自己責任で無理なさらないようお仕事されてください。

わたしは今こうしてマンガを描いていて、今回たまたま「啓発DAYに合わせて公開しなきゃ」と思ってこの原稿を3日で仕上げただけで腕が笑うほど疲れを引きずってます(普段は7〜15ページに1週間〜10日ほどかけています)…。


病気の説明などが過去記事とかぶってしまいましたが、ここまで読んでいただけて感謝しております!
この解説記事のマンガ作品本編はこちらです↓

トラックドライバーのマンガ「カズオの運行日報」と並行して、病気に関する文書記事も上げていこうと思いますので、同じ疾患をお持ちのかた(下垂体前葉機能低下症、CFS、FMなど)、よろしかったら読者(マガジンをフォロー)になってくださいませ(^^)↓

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