見出し画像

見えなくても点字を触読できる人は意外と少ない

先日、友達が講師をしている点訳教室の修了式に招待された。
点訳者の卵たちが点字の初級コースを修了するにあたって、実際の視覚障碍者から話
を聞いてみたいとの事だった。
できれば日常生活の中で、どう点字を活用しているかを話してほしいというリクエス
トだったので、自分と点字のかかわりについて改めて思い返してみた。

点字とのファーストコンタクトはまだ目が見えていたころ。
どこかの施設でほかの雑誌に混ざって点字雑誌があったので何となく手に取ってみた

真っ白な紙に小さな点がびっしり。これが文字なのかと思うとかなりの衝撃だった。

視力がだんだん落ちていき、いよいよ文字処理ができなくなっので、地域のパンフレ
ットに載っていた点字教室に行ってみた。するとそこにいた人たちは点訳のボランテ
ィアになるために点字を勉強しに来た人たちでリアル盲人は私だけだった。
そこで講師の全盲女性が東京都の盲人協会を紹介してくれ、そこの会長さんが点字の
初歩を教えてくれた。


構造は単純で、アルファベットの母音と子音を組み合わせて6つの点で表現するので
縦列横列を覚えれば基本はOK。
後は特殊音やら記号を覚えなければいけないけれど、それは順番に勉強すればいい。
ちなみに点字では楽譜なんかも表現できる。

アルファベットのイメージなので、漢字はない。表記するときは基本文節で切る。
厳密には漢字かな交じり文の世界から来た人には理解しがたい決まりもあり、それが
さらに毎年のように変わるらしい。
しかし、日常生活で使えればいい、実用本位の中途失明者はそんなことまで意識する
必要はない。
味噌ラーメンと塩ラーメンでマス開けの仕方が違うとか、そんなの知らなくても問題
は全くないのだ(笑)


それから、打つときは凹面、読むときは凸面なので鏡文字になるのが結構紛らわしい

でもやはり最も難関なのは触読。こんなポチポチを触って文字として認識するとかど
んな無理ゲーか!!


私は盲学校入学までに一年近く時間があったので、点字図書館でやっている中途失明
者のための点字教室やら生活リハビリのための施設などに行って集中的に訓練した。
もちろん電車の中や喫茶店でも点字を常に触っていた。

これは先生やら仲間がいたからできたようなもの。盲学校で勉強しなければいけない
という大きなモティベーションもあった。就職してからいきなり視力が落ちたとか、
そういう人がちょっとやってみようかくらいの気持ちでは決して超えられない壁だと
思う。


中途失明の割には読むのも書くのも比較的早くなったので、こりゃもう大丈夫だと思
って盲学校に行ったら、いきなり出ばなをくじかれた。
小さいころから点字で勉強している人たちのスピードは想像を超えていた。
それでも点字でノートを取っていたおかげで、書くのは相当早くなった。


今はPCやスマホがあるので以前よりは点字の必要性はないだろう。
でも中途失明者の諸君、スラスラとは行かなくても、点字が読めれば外出先のトイレ
のウォシュレット周りでうごうごしなくなる。駅の手すりやエレベーターの点字が読
めれば自力で移動できる範囲が格段に広がる。選挙で候補者の名前が書ける。役所か
らの郵便物が何かわかる。
ちなみに私が住んでいる地域は選挙やワクチンのお知らせ、障碍者福祉課からの郵便
物には点字がついている。


以前音訳資料があれば点字資料はいらないのではないかと言ったら点字のパワーユー
ザーにそんなことはないと抗議された。理由を聞くと、音声だけだと情報が不明確だ
からという事だった。特に今まで聞いたことがないカタカナ用語は耳だけだとよくわ
からない。エレンギなのかエリンギなのか、イルハンメルなのかリルハンメルなのか



それから、点字を使い始めて興味深かったのはテストで覚えたことを思い出すとき、
テープの音声ではなく手で触った点字の感触を思い出す事があったこと。
見えていたころ書いて覚えるという事をしたけれど、「体に覚えさせる」という意味
では同じなのかもしれない。


視覚障碍者の中で点字が読めるのは1割くらい。世の中音声が優位なのは自明だ。
それでもそれだけではカバーできない部分もある。トイレの流すところから常に音が
鳴っていたら絶対苦情が来るだろう(笑)


そして点字の世界も日進月歩。昔は大きな点字本で本を読んでいたが、最近はブレい
るメモという持ち運べる機械に点字本何十冊文化のデータを入れられる。ネット機能
が付いたものもあり、メールができたりもするようだ。
私は使っていないが、点字のパワーゆうざーにはかなり便利なものらしい。。


午後に参加した視覚障碍者のための点字教室では高齢の中途失明の人たちが一生懸命
触読の練習をしていた。
年齢を重ねると指の間隔が鈍くなってくるので早く読めるようにはならない。
それでも皆、与えられた課題は持ってきて、一生懸命音読をしていた。

点字教室はコロナ禍でここなんねんかできなかったとの事。
高齢で失明して孤立してしまうケースが多いところ、外にも出られて仲間もいて、点
字も勉強できる。
まだ感染の危険がないわけではないけれど、障碍者のQOLのためにも、こういった場
の大切さを改めて感じた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?