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見えなくても読書感想文 梨屋アリエ作「エリーゼさんをさがして」

先日読んだ梨屋アリエさんの「エリーゼさんをさがして」が面白かった。梨屋さんの
本はどれも面白く、前回読んだ「君の存在を意識する」も興味深く、この年齢になっ
ても気づかなかったことにいろいろ気づかせてくれた。


ピアノはあまりうまくないけれど、弾くのが大好きな女の子。伸びしろがないのにお
金はかけられないと親にレッスンを打ち切られてしまう。そんな彼女が町で出会った
おばあさん、名前がわからないから密かに「エリーゼさん」というニックネームをつ
けて交流し始める。そんな中、図書館で高齢者向けデイサービスで歌のピアノ伴奏の
ボランティア募集のチラシを見つけて‥。それだけの紹介だと全然伝わらない(汗)


主人公の友達はお金持ちでピアノの才能もあり、コンクールにも出場するレベル。
「楽しければいい」と「上達してなんぼ」はどちらが正しいか。。プロならもちろん
後者だが、趣味の範囲ならどうか。

私も素人朗読をやっているが、スポーツも音楽も芸術もサークルや部活ではこの2派
が対立する。


近所の子より下手だからそれを恥ずかしいと思う母親、伸びしろがないからお金の無
駄と娘の好きなピアノをやめさせてしまう。娘も才能があってコンクールでも入賞で
きる実力があるけれど、あまりにお金がかかるからそれで喧嘩する両親。毒親と切り
捨てるのは簡単だけれど、親は親で生活のやりくりで余裕がないのも事実。
一方中学生では何もかも親の意向に左右される。そして子供はそれに沿うようあきら
めたり努力したりするけれど、皆が皆うまくいくわけでもないし、時には自分の気持
ちは完全に置いてけぼりになる。

そんな中学生の女の子が「エリーゼさん」やほかのお年寄りたち、仲良くなったクラ
スの男子、高校生のお姉さんを通して見識を広げていく。


大変なら誰かに手伝ってもらえばいいじゃないか、動けないなら家にいればいいのに
無理に車椅子で外に連れ出されるのってどうなの?
そんな風に考えていた中学生がリアルにお年寄りと交流することによって、漠然と「
お年寄り」だった人たちが一人一人の個人になり、それぞれの全然違う背景が見えて
くる。
ケアマネージャーさんを通じて高齢者福祉のシステムについても教えてもらう。

恥ずかしながら、私も介護世代になって初めて「デイケア」と「デイサービス」の違
い、普通の老人ホームと特別養護老人ホームの違いなど、高齢者福祉のあれこれを知
った。

今更だけど、ヤングアダルトだった中高生時代に出会えたらよかった本の一冊である
。いや、大人になった今だからこそ理解できたこともあるような気もする。


「障碍者」も画一的にとらわれることが多い。「誰かにやってもらえば」と言われる
こともしばしば。私は「誰もいないときはどうするんですか」といつも聞き返してい
る。


YAというカテゴリーの本は、どうせ中高生向けだろうと見向きもしない大人も多いだ
ろうところがどっこい、。下手なビジネス書や啓発本なんかよりよっぽど示唆に富ん
でいる作品にあふれていると思うのは私だけではないだろう。歴史や社会問題、国際
情勢なんかを取り上げた作品も多く、それを若者視点で描いていたりするので、理解
しやすいし共感できる部分も多い。海外の作品などは注釈があるので、今まで知った
つもりで知らなかったことを改めて勉強できるおとくさもあり、食わず嫌いは一生の
損だと私は思う。。


ところで、中学生の主人公が「エリーゼさん」というニックネームを付けたおばあさ
ん、買い物カートを引いて急な坂を危なっかしく登っている。途中のベンチで一休み
してそれからまたカートを引いて帰っていく。

主人公の中学生は、「お年寄りがそんなに無理しなくても」とか「誰かに手伝っても
らえばいいのに」と言う。
その時エリーゼさんが「誰かに頼むと高くつくのよね」というようなことを答える。

もともと家庭の家事を担って、特売の棚からより良いものを物色していた高齢女性な
ら、なおのことヘルパーさんが値段の糸目をつけずに買ってくる「ちゃんとした食材
」に眉を顰めるだろう。私なら1000円以内に収められるのにってね。
私の母もいよいよ動くのが大変になるまでそうだった。


突然障碍者になることはあまり考えられないけれど、皆平等に年は取るのである。
「エリーゼさん」は年を取って体が不自由になったら自分はどんな暮らしがしたいか
を考えるいい機械をくれた。

その他にも、自分は本当は何がやりたいのかとか、家族との付き合い方とか、自分や
自分の周囲を改めて客観的に見るいいきっかけをくれた。

以上は介護世代のおばさんの感想だけれど、リアルYA世代はこの本を読んでどんな感
想を持つのかぜひ聞いてみたい。

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