"ASMR"って動画のことじゃないからね?
個人的に気になったことを書こうかなと。
某動画共有サイトとかSNSとかで有名なASMRだけど,これが何なのか知らない人や間違って使っている人もいると思われたので,ちょっと簡単にまとめてみる。
ASMRとは
ASMRは略称で,正式には"Autonomous Sensory Meridian Response"。日本語だと「自律感覚絶頂反応」などど訳される。
特徴としては例えばリラックス感のような「ポジティブな感情体験」や鳥肌が立つような「ゾクゾク感」が代表的なものと言われている [1]。
これらは例えば紙を丸める「クシャクシャ」といった音や囁き声のような低いピッチの音などによって生じると言われているから [1],「動画」というよりも「音」の方が重要であると考えられる。
ここまでの部分でわかると思うけど,ASMRは動画のことではなく身体反応のことなんだよね。
だから「ASMRが起こった」とか「ASMRが生じた」という使い方が正しいし,動画のことを指すのであれば「ASMR動画」とか「ASMR誘発動画」という表現が適切なんじゃないかなと思う。
frissonって知ってる?
ASMRとは簡単に言えば「主に音(聴覚刺激)によって生起されるポジティブな感情体験を伴うゾクゾク感」というものだけど,実は似たような特徴で別の現象(?)がある。
例えば大自然の景色を見たり,絵画や音楽などの芸術作品に触れたりした時に,「圧倒される感覚」のような感動(=ポジティブな感情体験)と共に鳥肌が立つような「ゾクゾク感」を経験したことがあると思う。
実はこの現象というか反応にも名前がついていて,frisson(フリソン)と呼ばれている [2]。
音楽に注目してみると,これを特に"music-induced frisson"などと呼ぶこともあるようだけど,楽曲的展開や旋律の変化などがトリガーとなると言われている [3]。
ASMRとfrissonの違いって?
ASMRとfrissonには共通する点が多く,単に名義的に区別されているだけで実は同じものなんじゃないかという声もある。
実はこれについて実験心理学的手法を用いて研究してみたことがある。
諸事情で論文として公開はしていないんだけど(5ページくらいの抄録としては公開しているが,単著ではないのでここでの公開は控える),結論を言えばASMRとfrissonは互いに異なる現象(反応)である可能性があった。
もう少し具体的にいうと,ASMRは音を介した擬似的な触覚経験によって生起されるというポリモーダルな側面を持つ一方で,frisson(music-induced frisson)は楽曲に対する認知的な側面に起因するものだと示唆される結果が得られたわけで。
この研究結果を見ると,ASMR動画がバイノーラル録音されていて,かつイヤホンやヘッドホンを使用しての視聴を推奨している(ものが多い)のも頷ける。
要は,いかに「自分(視聴者)が触られている・触れている」という感覚を得られるかが重要なんだろうなと。
frissonに関しては,絵画鑑賞のような視覚刺激によっても生起されるように,聴覚刺激に限定されないところを考えれば,認知的要素が関係しているというのも頷ける。
まとめ
まあ今回一番言いたかったことは,ASMRは「レスポンス」だからね,ということで。
引用文献
[1] Barratt, E. L. & Davis, N. J. (2015). Autonomous Sensory Meridian Response (ASMR): a flow-like mental state. PeerJ, 3:e851.
[2] Huron, D. & Margulis, E. H. (2010). Musical expectancy and thrills. In: P. N. Juslin & J. A. Sloboda (Eds.), Handbook of music and emotion: Theory, research, applications (pp. 575–604). Oxford: Oxford University Press.
[3] Panksepp, J. (1995). The emotional sources of “chills” induced by music. Music Perception, 13(2), 171–207.
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