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国債を延々発行して経済を運営するのが何故禁じ手なのか

『国債を延々発行して経済を運営するのが何故禁じ手なのか』ということを聞かれたので、ちょっと書いてみました。
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まず、国債というのは、税金の前借りのことです。やがては返さなければいけません。しかもそれを返すのは、未来の納税者です。従って、未来の納税者が本来自分で納税したぶんの行政サービスを受ける権利を今の世代が横取りをしていることになります。
「子供の稼ぎを担保に親が借金をする生活」みたいなものです。

次に、国債を買ってもらう相手が国民ならまだマシなのですが、もしこれが外国人に買ってもらうとなると、未来の納税者が納める税金を外国人の資産家の為に支払うことになります。

※ここをちょっと補足しておきますと、このことは2つ問題を孕んでいます。1つは海外への国債償還の支払いは、国富の流出を招き、結果として通貨のインフレ傾向に繋がります。2つめには、通貨のインフレ傾向が高まると、当然国際取引上での自国通貨の価値を減耗させますので、未来の納税者が支払う償還負担を高めます。だから国債を海外投資家に買わせるのは極力避けなければいけないんですね。

最後に、国債を発行することで市場にキャッシュフローを流すためには、中央銀行は政策金利を下げないといけなくなります。(政策金利を下げないと、再びお金が銀行に戻ってしまうからです)この方式を続けていると、やがて政策金利は0となり、結果として「流動性の罠」と呼ばれる状態に陥ります。流動性の罠が発生すると、金融政策は無効となります。

※金融政策が無効となっている状態では、経済活動の細かいチューニングは事実上不可能になるので、いざMMT論者が言うように「インフレパニックが勃発したら、市場からキャッシュフローを回収すればいい」ということができなくなります。そもそも税率を変えるのは、民主主義国家ではそう簡単にはできないので、「経済活動のチューニングに税率を使う」というのは、現実的ではありません。

以上が、国債を延々発行して経済を運営してはいけない理由です。

MMTは、上の伝統的な3つの説明を否定するために、「国民も含めて、全ての経済参加者が考えるのは今の状態が良いことだけだから」という仮定の下に成り立つ考え方だと僕は思ってますので、短期的にはともかくとして長期的には成り立たないと考えてます。

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MMTに対する批判として、自分が読んだ範囲でわかりやすいものはこちらです。ただ読み解くには大学学部レベルの経済学の知識は必須です。

『MMT(現代貨幣理論):その読解と批判』
https://www.fujitsu.com/jp/group/fri/knowledge/opinion/er/2019/2019-7-1.html


ただ、上の文章にある、元々MMTが注目される理由になった、『「地球温暖化阻止を目指したグリーン・ニューディールや、多額の学生ローンを背負った若者の救済」のためには、例え赤字国債を発行してでも政府が経済政策を遂行すべきだ』という考え方は、「これは今まで顧みられなかった分野に対する未来への投資である」という視点から、「現在の国民の利益を第一としては使わない」という財政規律を受け入れることができるならば、今の国民の支出分から切り崩しても遂行することは可能です。

※上のような立ち場が十分ありえるということは、下の記事にも書かれています。

『はたして「MMT」は画期的な新理論なのか暴論か』
https://toyokeizai.net/articles/amp/333243

記事中に『こうした施策が現在時点でインフレ的な効果を生むかデフレ的効果を生むかは、それらが将来の日本を豊かにしてくれるか、あるいはそうでないかということについて人々が抱く予想次第なのです。』とある部分がまさにそれで、今の財政投融資の結果として、将来の産業の形が変わったり、イノベーションが起こる可能性が高ければ、それこそが現状の枠組みを壊す力となりえるのです。これを扱うのが、『経済成長論』という分野です。そこで重要なのは『全要素生産性』という発想ですが、これはまたの機会にしましょう。

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実際、このCOVID-19のパンデミックの後では、日本における社会保障負担の積み上げはこの事態への先行投資であった、と世界中から評価される可能性はあるでしょう。例え日本人はそのように思っていなかったとしても、です。
別にMMTを持ち出さなくても、財政と国債の問題というのは、何のために財政支出をするのかということを本気で考えれば、解決できるはずだとは思います。結局は、既得権益者に惑わされないで未来を見据えた政策ができるかどうかだけの話なんですよね。

例えばですが、現在のCOVID-19による経済停滞状態をリブートするのには特別に国債を発行してでも、市中にお金を流したほうがいいと考えられる根拠は、自分でしたらこう答えます。

1.現在の経済停滞は世界的である。また経済停滞のレベルはアメリカのほうが酷いので、アメリカは大規模な財政出動を行うことになる。その原資は財務省証券だろう。この時点で、国際取引での為替基調はドル安方向へと向かう可能性が高くなる。

2.現在の米中の外交関係を考えると、アメリカは財務省証券を中国に引き受けさせたくないだろう。そうなると引受先は主に日本になる。この時点で、さらに円高傾向に為替は向かう。

3.1と2の効果をある程度緩和するために、日本も国内で財政支出をする余地が十分に生まれる。しかも長期的には金利は低いレベルで安定しているし、政策金利も極めて低いので、短期間に大量のお金を市中に流通させても、急激な金利の上昇やインフレを招かない可能性が高い。結果、財政支出は消費を喚起し、消えた需要を補填してくれる可能性が高いだろう。

4.しかも3で出されるお金を使うことで、COVID-19による経済のロックで弱っている多くの産業に息をつかせることができる。これらの産業が、今回のブラックスワン的な経済危機で潰れていくのは、過去からの資本蓄積やのれんが消えてしまうことを意味するので、この政策はメリットが大きく、経済がリブートするためには重要なファクターとなる。

5.4を効果的に国内でまわしておき、世界的にCOVID-19の脅威が低下した時に、一気に世界経済回復への波に乗せることができれば、相乗効果が大きい。結果として、赤字国債で支出したぶんの乗数効果も跳ね上がることだろう。

以上により、今の日本はコロナ国債を出してでも、財政出動をすべき時なんですよ。それも大胆にやればやるほど効果は大きいはずです。今ぐらいに千載一遇のチャンスはないと考えています。

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