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名無しの出来物

一応香水垢のくせにnoteで香水のことを全然書かない私ですが、今回も香水の話をしません。そういうのは有識者に任せて、めっちゃ痛かった話をします。需要は知りません。

あれはいつだったか。仕事がしんど過ぎて吐きそうになりながら家事育児仕事の3足のわらじで靴擦れ作りまくってヒーヒー言ってた頃のこと。

「なんか…足の付け根痛いな?」
ある日、ふと鼠径部に謎の違和感を覚えた。吹き出物か何かかな、歩くと痛いから嫌だなぁ…と思いながらオロナインを塗り様子見していた。

3日経ち5日経ち、痛みは消えるどころか日に日に強まっていく。やたら熱を持っているな?と患部を眺めてみると、内側からぽっこり膨らんでいる。
あらやだ毛穴からバイ菌でも入ったのかしら、清潔にはしとるんやけどな…それにしても痛いな…と思いながら、それでもまだ私は様子見していた。
何せもう毎日めちゃくちゃ忙しいのである。この程度で病院に行く気持ちにはなれない。
患部が患部なだけに尚更行きづらく、自然治癒を期待して先延ばしにしてしまった。

10日経って、いよいよアカンことになってきた。
最初は左側だけ腫れていたのに、気付けば右側も同じくらい腫れ上がっている。赤く盛り上がり、歩いても歩いてなくても痛い。
普段からゆるっゆるのおばちゃんパンツ(馬鹿みたいに股上が深い綿のやつ)を穿いているが、それでも生地が触れるだけで飛び上がるほど痛む。

これは流石に病院に行かないとえらいことになりそうだなと思い、仕事後に最寄りの皮膚科に電話をかけた。
様子を説明すると、「切開が必要かもしれないがウチではできない、少し遠くなるが評判の良い整形外科があるので行ってみてはどうか」と言われた。
その頃にはもう耐え難い痛みが股間を襲っていて、何でも良いから助けてほしいと藁にも縋る思いだった。分かった、遠くても良いからそこに行く。てかお前んとこで切ってくれよ…

翌日、仕事が終わってから件の病院に飛び込んだ。既に19時を過ぎていた。

その頃、私の両鼠径部は餃子ほどの大きさに腫れ上がっていた。表面に軽く触れただけでヒリヒリするし、歩くと悶絶するほど痛い。よくこんなんで頑張って働いたものである。

院長は私と同い年くらいの賢そうな男性だった。美容医療も行っている整形外科で、レーザーやら美肌点滴やら、美のためのメニューが豊富であった。
待合室で座っているのは美しい女性ばかりで、明らかに美容医療をやるために来院していることが見て取れる。
鼠径部の出来物に悩まされ、這うようにして来院した自分は非常に肩身が狭かった。やだな…何だろうこのどうしようもない情けない感情…消えたい…どうせならレーザーやりたいよ…

診察室に入り、かくかくしかじかで…と説明すると、まず患部を見るのでベッドに横たわってパンツ脱いでくださいと告げられる。
当たり前だけどそうなるよな…患部見んと話にならんもんな…
バスタオルで目隠ししてくれる看護師さんがもうピッカピカの美肌の若いお姉さんで泣きたくなった。

私は若い頃に全身脱毛をやったのだが、エステティシャンに秘部を晒すのに耐えられなくてVIO脱毛を諦めていた過去がある。
だってさ、股おっぴろげてさ…全部見られんのよ…?逆に聞きたいけど何でみんなそんな恥ずかしいこと簡単にできるんすか…?ビッチしかできんくない…?

そんな訳で私の股間はまぁそれなりの密林なんだけど、ここへ来て(VIO脱毛やっとくべきだった~~~!!!)と転がりまくった。でもさ~~~15年後に鼠径部にこんな巨大な出来物ができて男性医師の前ですっぽんぽんになるとか思わんやん~~~!!!?

もうやめておこう。私の密林の話、誰が興味あんねん。

恥を忍んですっぽんぽんになってベッドに横たわると、「あ、これはかなり酷いですね、投薬では難しいので今から切開しましょう、麻酔クリーム塗ります」と言われる。えっやっぱ切るの?麻酔クリーム塗ったら痛くない?大丈夫そ?

ピカピカの看護師さんに麻酔クリームを塗られ、20分後にまた来てねと待合室に戻される。
こんなさ…塗り薬ごときでほんまに痛くなくなるんやろか…不安だしクリーム塗られた時点でもうジンジン痛むんですけど。

20分後、再び診察室へ。もうすっぽんぽんになるのも少し慣れてきた。目の前にいるのは男性医師じゃない。ちょっと賢いじゃがいもやねん恥ずかしくない大丈夫。

「この上から麻酔注射を打ちます」
え、そうなの…?麻酔クリームは前哨戦…?自慢じゃないけど私は注射が大の苦手でしかも先端恐怖症である。
普段から注射の際はベッドに寝かせて貰うし、献血がやりたいのにあのぶっとくてえげつない針が無理で1度しかできてない。

今回は患部が私からは見えないので針が視界に入ることがなく助かったが、それでも怖いよ。だって今まさにめちゃくちゃ痛い患部めがけて注射打つんでしょ。大丈夫なんだろうか。

不意に打たれた。鮮烈な火花が散った。比喩じゃなくてマ~ジで火花。
痛いとかそういう次元を飛び越えて、普通に死ぬかと思った。膿が溜まって派手に炎症を起こしているその中心部目掛けて特大バズーカが発射されたんだもん、そりゃ痛いわ。

しかし私はギリギリ耐えた。なんせ私は2人産んどるんでな。あの痛みに比べればまだマシである。
この麻酔さえ効けばこちらのもので、きっと切開されても痛くない。大丈夫。

「今から切開します、かなり炎症が酷いので麻酔は完全に効かないです、だから痛いとは思います」

へぇー…いやいやいや聞いてないんですけど。何のための麻酔か。麻酔注射だけでもこんなに痛かったのに、まだ更に痛いんか…?

そこからはもう、一体どんな器具を使ってどんな処置をするのか考えたくなくて、ぎゅっと目をつぶっていた。知らん間に終わってるよな、大丈夫だよな、痛いっていうけどそんな痛くないよな。


もう訳分からんほど痛かった。


びっくりした。出産に勝る痛みなんてないやろと思っていたが、絶妙に出産の痛みを僅かに超えてきた。そんぐらいヤバかった。

鋭利な刃物で腫れた患部をざっくりと切り裂かれる鋭い痛み、
中の膿を排出するためにぎゅうぎゅう絞られる痛み、
内側をなんかで抉られてガリガリゴリゴリ凄い音でなんかされる痛み、
ぽっかりと開いた傷口に容赦なくガーゼを詰められる痛み。

ありとあらゆるバリエーションの痛みが仕事でヘトヘトに疲れた私に襲いかかり、しかもこれが左右2セットである。地獄だ。これが地獄である。

絶対に泣かないし、叫び声もあげないぞと気合いを入れていたが、普通に泣いたし普通に叫んだ。というかもういっそひと思いに殺してくれた方がマシだと嗚咽した。

麻酔は結局効いてたんだか何だか分からない。ただ、ノー麻酔だったら多分ショックで死んでたと思う。

当面痛みますからと鎮痛剤をたんと出してもらい、30分ほどの休憩を挟んで普通に歩いて電車に乗って自転車漕いで帰った。
これさぁ、本来なら入院案件じゃない…?めっっちゃくちゃ痛いよ?こんなん日帰りの処置で良いの…?てか明日も仕事やぞ…?何やこのスパルタ…

痛みに耐えて帰宅すると子らが「お母さん遅かったねー何してきたのー?」と無邪気に笑いかけてくる。
「ちょっと“地獄”ってヤツ見てきた」、そう返すと子らは笑っていた。

2日ほどガーゼを詰めたままシャワーを浴びていたが、止血したらガーゼを外さないといけない。
これが一番ヤバい局面だった。

ガーゼ外すことの何がヤバいの?と思われるだろうが、傷口に完全にびっっちりと貼り付いていて、シャワーでふやかしてもビクともしない。なんやこれ、セメダインでもついてんの?

ふやかしてはガーゼを引っ張り、痛みを感じてビクッと手を引っ込めてはまたふやかし…を繰り返し、浴室で1時間経過。
これもう無理ね、力技でビャッッと抜くしかないね。
傷口がかなり深く、その深くまで捩じ込まれたガーゼ。それを一気呵成に剥がし取る。
絶対痛いの分かってるけどこのまま一生ガーゼと共に生きていく訳にもいかんので、覚悟を決めた。

で、ベリベリッとやった。
そしたら余りの痛みの強さにショックを起こし、なんとその場で失神した。切開された時も火花が散ったけど、この時は「閃光、のち電撃」みたいな感じだった。

人って痛すぎると失神するんやなという初めての気付き。洗い場で座ったまま失神して、その際蛇口に頭を強打したような気がする。多分10分くらい意識無かった。

寒さと震えで意識を取り戻し、時計を見るともう23時を過ぎておる。家族は私以外もう寝ていた。

世界でたったひとりぼっちになったような寄る辺ない孤独感。
たかが鼠径部の出来物ひとつ(※ふたつやで)でこんなことになろうとは。気合いと根性で剥がしたガーゼが血まみれで転がっていて、すっかり冷え切った身体とジクジクした痛みが追い打ちをかけてくる。

ヨロヨロと浴室を出て、茶色い軟膏を塗り、上から新しいガーゼで覆って泣きながら寝た。

完全に傷が塞がるまで2週間ほどかかり、果たしてあれはなんの病気だったのかしらと考えた。

賢そうな医師は、煮え切らんことを言っていた。
「毛嚢炎か化膿性の汗腺炎か…ちょっと分からないですね…」
「疲れとストレスで出てくるものなので清潔とか不潔は関係ないかも…」
「体質的に恐らく繰り返す気がします…」
「また出来たら薬で何とかするか、また切開するか…ですかね…」

語尾が全部消え入りそうなのやめてほしい。最後まで言い切ってよ!お医者さんでしょ!

とりあえず再発するものらしい。そして見事に再発した。それも5回もだ。
1度酷くなってまた切開して貰ったが、私も慣れたもので「切ってくださーい」ゆうてサクッと切られてサクッと帰ってきた。人間の慣れ、凄い。

その後は再発する度にセフカペンなんとかというお薬を飲んで鎮めている。

今回何でこのことを書いたかというと、現在進行形で再発しとるからです。6回目ともなるともう余裕なんですけど、薬も3日は飲み続けないと効果が出ないしこのまままた大きくなったらどうしようと考えたらやっぱり怖い。

大体3~5ヶ月周期で左側の鼠径部にのみ再発する。一生こいつと付き合っていかんとアカンのかと思うと割としんどいなと思う。
せめて名前でも付けて愛でるしかないのだろうか。

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