伝統手ぬぐい「AAAヴンダー」がヤバい
着物や浴衣などの和装をモダンなデザインでブイブイいわしているRumi Rock Store(https://shop.rumirock.com/)は、エヴァンゲリオンとのコラボレーションもたくさんやっておりまして、かくいう私もワンダーフェスティバルで『エヴァ破』の名シーンを染め抜いた手ぬぐいを見てガーンとなって気づいたら買ってたという経験があります。
注)染めたのは浅草ではなく関西の工房ということです。どこの工房かはあまり知られたくないようなので、もし知ってても黙っていような。
RumiRockのエヴァ手ぬぐいの特徴は「注染」という伝統の染め方で作られているところ。注染は「ちゅうせん」と読みます。型紙を使って布にノリを乗せて、染料をデカくて長い急須みたいなのでジョローっと注して染めていくのが注染。これでノリで伏せてないところだけが染まるわけです。そんな職人のアナログな技術によってエヴァの名シーンがカッチョ良く染められているんですよ。
手ぬぐい AAAヴンダー Rumi Rock × シン・エヴァンゲリオン劇場版
https://shop.rumirock.com/?pid=156883395
で、満を持して公開される最後の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』とのコラボ手ぬぐい「AAAヴンダー」がマジでヤバいので、どうヤバいのかをルミロックのデザイナー・芝崎るみさんに訊いてきました。
ヴンダーだからヤバい
手ぬぐいの図案は、劇中シーンの中からいくつか候補を選んで、版権を管理する事務所に提案するところから始まるといいます。
芝崎:技術的に染められるのか、事務所からOKが出るのか、と迷いながら選んだシーンの中で「これは無理だろう」と思って提出したものがヴンダーだったんですね。つまりなにが無理なのかというと、染まるかどうかがわからなかったんです。
染まらないかもしれないので、半OKのままサンプルを作ってみたら、意外とできたという(笑)。ホントにもう、サンプル染めを全部捨てる覚悟で作ったんです(笑)。
どう難しかったのかというと、まず赤の染料の問題があったとのこと。
芝崎:注染の技法の中で、「赤」という色を染めるのに、けっこういま使えない染料があるんですね。ちょっと前だとバチッと染まるのがあったんですけど。で、朱色と茶色とか、いろいろ混ぜながら、ここまで赤い感じのものに仕上がりました。
染料が成分によって規制対象になったり、いま手に入らない材料があったりするんですかね。血とか海とか弐号機とかアスカとか、エヴァの赤、大事です。
芝崎:あと、このヴンダーのねじれたところとかをどこまで細かく描くか。描き込みすぎても染まらないし、まるまるくり抜いたらなんの機械かわからなくなる。背景に飛んでいる宇宙のゴミみたいな、残骸もたくさんあって。これがあるとないとでは型紙の彫り方も変わってくるんですけど、版元様からぜひ入れてくれ、これはそういうシーンだからということで(笑)。
芝崎さんが「宇宙のゴミみたいな」って言っているのは、俗に「インフィニティの成れの果て」と呼ばれてるやつですね。エヴァみたいな形のエヴァじゃないっぽいもの。
型紙は細かすぎると純粋に手間がかかるだけじゃなく、染料が流れていかなくなったりするので、適切な切り込みの太さがあるんですな。そこのギリギリを攻めて細かくしたって話です。
芝崎:(真ん中を横切る)黒と赤のキワは、それこそ手作業のフンイキ染めで。見事にジワジワした感じに。いまの技術ではこれが最高傑作。「これ以上は勘弁してください、ごめんなさい」って感じです(笑)。
エヴァンゲリオンの最大の特徴は、メカ的な部分と生き物的な部分が混ざり込んでデザイン化された色の上に乗っかってるという。これで成り立ってる部分が多くて。その気持ちよさと気持ち悪さのギリギリのところを染めるのは、技術的にも職人的にも気を使ったんじゃないかと思っております。「気持ちよさと気持ち悪さのギリギリ」って、描くとわかるんですけど(笑)。
これも、お年寄りの職人が「エバーとかわかんねえけど染めてやる」って感じだったのか伺うと、関西の方の染工場の、たぶん社長が染めたんじゃないかとのことでした。口調から推測するに「気を使う仕事なので社長自らやったんじゃね?」っていう感じでした。場所を曖昧にぼかしてるのは「ややこしい仕事ばかり来られても困るんじゃないかと思って」という芝崎さんの気遣いです。
三度染めでヤバい
染工場サイドで染める方法を考えつくまで作業が止まっていたというほど、この手ぬぐいは注染の技術の限界に迫っているんですな。そして編み出された解決方法が、三度染めだったという話なんす。
芝崎:たぶん赤の上に黒をいって、一回脱色してからサシワケという技法で多色を入れたんですね。
「染める→染める→脱色する→染める」のサイクルでの三度染めです。
芝崎:先に背景を赤と黒で染めて、型紙を使ってノリで伏せて、背景以外を脱色するんですね。すると図案のところが脱色されて白っぽくなるので、そこをこういうベージュや紫や焦げ茶みたいなのでサシワケ染すると。
簡単に説明しましたけど、業界からすると、よくやったなって感じだと思うんですけど(笑)。
業界的にも高難度の染め方だったようです。
技術的なところを順を追って解説してもらいました。
芝崎:まず赤で全体を染めます。
ほかの染料との相性もあるので、脱色でちゃんと色が抜けるかどうかも大事なところです。
芝崎:そしたら赤の上から黒でぼかし染めをします。
芝崎:型紙を使ってノリを置きます。「ノリ伏せ」します。ヴンダーとインフィニティ以外のところを伏せるんです。
ノリ伏せして、赤と黒の背景の部分がこれ以上染まらないようにする。
芝崎:そしたら開いてるところを脱色するんですね。
するとヴンダーとインフィニティの形が白く抜けるんです。
芝崎:サンプルの画を見ながら、色を探して、職人が何個もジョウロを持って、何色も注していく。お醤油を注すみたいにチューっと。そしてこの立体感は手加減で出します(笑)。つまりグレーのジョウロをこういうふうに移動させたり。このへんとこのへんとで四色ですね。ぼかしやグラデーションのニュアンスは手加減で出してくれてるんですね。おそろしいですね。この細い幅にまた別の色を注してるところが、気を使っていただいたところだと思います。
四色の染料を同時に注いで、この細かい図案に色を付けていくんすよ。ヤバくないですか。
芝崎:それで生地の厚み全部に通るようにバキュームで吸います。重ねた晒布の裏から染料を吸い込むことで、全部が染まるんですね。
晒布を何枚も折り重ねて染めるので、重ねた生地の上の方と下の方ではグラデーションの出方も違うんすよ。もちろんロットごとでも違う。一度にたくさん染めるんだけど、同じものはふたつと出来上がらない。シルクスクリーンやプリントではなく、注染の手ぬぐいを愛せるのはこういうところなんすよね。
バッセンギワがヤバい
図案部分のキワに細いフチドリ線があるの、わかりますか。こんなに細い線は注染でどうやって出せるのか、ひょっとしてほっそい型紙があるのか。技術的に謎なんすけど。
芝崎:抜染際(バッセンギワ)ですね。これは一回抜染すると、ノリが押してくるんで、注せる部分が少し狭くなる。水分でノリがちょっと膨らんで、脱色した部分に押してくるんです。イラレのアウトラインみたいに残ってますけど、これはそういう感じでできてます。もう少し浸透させることはできるんですけど、今回はあえてクッキリさせています。クッキリタイプです。
つまり、脱色するときに図案部分を伏せていたノリがちょっと膨らむ。そのまま染めると、図案のキワに脱色されたまま染まらないで残る部分が出るっちゅーことです。水分でノリが膨らむという自然現象によるコントロールしきれない表現が結果的にめっちゃかっこいいというヤバさ。
ヴンダー手ぬぐいがヤバい
ちゃんと染まるかわからないまま見切り発車で始め、異常に細かい図案を描き、型紙職人がきっちり作り、染め職人がこの難物に対して三度染めの方法で染めきった。赤染めて乾かし、黒をぼかし染めて乾かし、型紙を使って糊置き、抜染しながら差し分け注染しました。注染の最高傑作というにふさわしい過剰な手ぬぐいっすよ。
以下にモロなマーケティングしますんで、欲しい人は買おう。劇場に持っていこう。これで涙を拭こう。汗を握った手を拭おう。
Rumi Rock Store / 手ぬぐい AAAヴンダー Rumi Rock × シン・エヴァンゲリオン劇場版 :∥
https://shop.rumirock.com/?pid=156883395
EVANGELION STORE
RumiRockxEVA てぬぐい AAAヴンダー
https://www.evastore.jp/products/detail/15071
おしらせ
Rumi Rock STOREの品物は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』上映のTOHO系の映画館でも買うことができるらしいぞ。都内一部の劇場では、手ぬぐい「AAAヴンダー」、着物「月面基地」も置かれているはず。そして全国のTOHOシネマズでは、手ぬぐい「8号機、パリ」が置かれているはず。探してみてね。
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