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プロペラ飛行機で行く三宅島観光ガイド

ぼんやり暮らしていると、その機会をわざわざ作らない限り一生経験できないことってのが結構ある。
たとえば、小さなプロペラ飛行機に乗るとか。


誕生日になにをしたいかと妻に訊かれて思いついたのは「小さい飛行機に乗って飛びたい」ということだった。
そこで、プロペラ飛行機で三宅島に行くことにした。日程の問題で三宅島しか選べなかったんだけど、結果的にちょー楽しい旅になった。
これは2019年の夏の終わりの記録だ。

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東京の調布空港からプロペラ飛行機で伊豆大島や三宅島に飛ぶことができる。そういう航空会社がある。

三宅島までは45分から50分のフライト。船ならば竹芝から一晩かかることを考えると差は圧倒的。
乗るのはドルニエ228という乗客19人乗りのプロペラ機である。ターボプロップエンジンといって、雑に言うとジェットエンジンのローリング回転パワーでプロペラを回すタイプのエンジンでプロペラを回して空を飛ぶプロペラ機だ。ドイツ製なのですごい。
客室はマイクロバスみたいなサイズ感。マイクロバスに翼をつけて飛ぶ気持ちを想像してみてほしい。こわい。

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大型の旅客機と比べて速度も出ないし低いとこを飛ぶので窓から見る景色がおもしろいのである。

よみうりランドとか鎌倉の鶴岡八幡宮の上を飛ぶのだ。総じて絶景なんすよ。特に調布から上がった直後は、よみうりランドの上でギュンと左にバンクするので遊園地がよく見えるんすよ。夏ならば波の出るプールの芋洗い状況などを真上から。
あと、野球場がめちゃくちゃ多いことに気づく。高校、中学、市営球場などがたくさんある。人類、そんなに野球ばっかりできないだろう。

三宅島とは

ガイドの人が言うに、海底火山の先っちょ部分が海の上に飛び出てて、それが三宅島なんだそうで。
海底から7000メートル級の火山があって、海面から出ている500メートルくらいだけが島。三宅島はまるごと火山の頂上なんすね。
2000年に噴火して全島避難、2005年に避難解除。あのときのことを覚えてる人も多かろう。ランクAの現役の火山なのだ。

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現役の火山だから島のあちこちに溶岩の流れた痕跡がある。「ナニナニ年の噴火で埋まった集落」とか、溶岩が固まってできたことがありありと分かる、むき出しの小山とか。地面の砂利が真っ黒と真っ赤のツートンだったりしてね。

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地球のボルケーノ活動のダイナミックな様子がフレッシュなまま見えるんですわ。
2000年の噴火のときの泥流の深さがわかる椎取神社の鳥居なんか、圧倒されるよね。

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「店」

コンビニが無い。クレカを使えるお店がない(ていうか伊豆諸島に主要コンビニは無いらしい)。

ATMは郵便局と七島信用組合のものだけ。キャッシュレス時代にキャッシュフルな島なのである。もし行かれる場合は現金の用意を忘れずに。

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島内でお菓子とかアイスとかビールとか買いたいですよね。そういう買い物は基本的に個人商店となります。日用雑貨から生鮮食品、酒類まで売っている、いわゆる「店」というやつ。コンビニじゃなくて個人商店だから夜は早めに閉店するんすね。

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僕も東北の田舎育ちなんで、こういう「店」には馴染みがありますが、郷里ではコンビニの台頭や高齢化によって今ではけっこう少なくなってきていてですね。
三宅島は「コンビニが無い」という特殊な事情があって、いまも「店」が住民の生活を支えているんでしょうね。昭和的な懐かしさを感じる人もいるんでしょうが、僕はいかに自分がコンビニのある環境に慣れて依存していたのかがわかっておもしろかったんす。お菓子もビールもいつでも買えると思ってるし、お金もいつでもおろせると思ってる自分の意識に気がつくわけよ。
ちなみに衣料品や靴、ペット、書籍などを扱うお店は見つからず、住民に訊いたら「東京で買う」とのことでしたわ。

三宅島はバイクの島

三宅島といえばバイク。
島内周回レースの構想もありました。荒れ地を生かしたエンデューロレースも恒例らしいです。
女子高生がサイドカーでレースをする(という触れ込みだったのにレースしないでケンカばかりしてて信じられないくらいつまらなかったので見るのをやめた)アニメ『つうかあ』のサイドカーも展示されていました。

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島にはレンタルバイクもあるので今度行ったら乗ってみたいけど、スクーターじゃなくてオフローダーやダートラがいいな。レンタル屋にはそういうのを置いてほしい。


食べる

我々の泊まった宿のメシはかなりおいしくない部類の、えーとつまり不味かったので思い出したくないんですが、三宅島の魚はおいしいはずなんです。ナイスな民宿だとキンメダイの煮付けとか出るらしい。食べたかったなあ。

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そんななかで、べらぼうにおいしかったものがあります。
「土屋商店の海苔弁当」と、レストラン「ギズモ」のポークシチュー。

三宅島の海苔弁文化
「土屋商店の海苔弁当」

島のいちばん西側、阿古地区にある土屋商店というのはいわゆる「店」。生鮮食品から文具雑貨まで、なんでも売ってる商店なんだけど、お店の前に行くとうまそうな匂いがするんすね。中に厨房があって、作りたてのお弁当も売ってるのよ。
ご飯の上に目玉焼きばーんみたいなド☆シンプルなのもあるし、唐揚げ弁当的なスタンダードもある。
実は妻が無類の海苔好きでして。行きの調布空港でパンフ見た瞬間にここの海苔弁当に惚れまして。第一目的地が土屋商店になりましてね。即買って、観光協会のとこの四阿(あずまや)で即食いですよ。

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海苔、漬物、卵焼きがベース。オプション的に唐揚げとかウインナーが乗ってる。オプションの種類は決まってないのよ。一品オカズが異なるいろんなバージョンの海苔弁当が区別なく置かれていて、客が勝手に選んで買う、という野放図スタンスが好ましい。

アオサノリかな、イワノリかな。ご飯の上に青々とした海苔がどっさり乗ってて醤油がかかっている、いわゆる「のり弁」なんだけど、黒い板海苔じゃないのよ。モシャモシャのままの青い海苔。
めちゃくちゃにおいしかったのよ。「のり弁」というからには海苔が主役になってるのが本当なんだなと気づいたんですわ。ある程度の海苔の量がないと「海苔のお弁当です」とはならない。その点、アオサノリごっそりな三宅島式の「海苔弁」は、のり弁の王様でしたわ。


南の島に突然現れた都会の資本
「ギズモのポークシチュー」

土屋商店から島の周回を120度ほど東に回ったところにギズモというレストランができたらしい、ということをどっかの「店」の前の張り紙で知った我々。
岸壁の上に、地中海式というかモロッコやギリシャタイプの白い壁の小さいおしゃれな洋館があるんですね。あの造りはたぶん元ハウススタジオですね。ファッション誌のグラビアとか撮ってそう。

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海が見えるロケーションの、白い壁の洋館で、前庭にはピチピチの芝生。基本的に昭和スメル漂う東京都三宅村にあって、まったくいきなりの過剰なオシャレで目が眩みました。

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目が眩んでいるので四つん這いになって壁伝いに店に入ります。目は眩んでいますが、気配でわかります。

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惣菜やサンドウィッチのテイクアウトもあって、地元の人がけっこう利用してる感じ。持ち帰りできないメニューはイートインで食べますね。ここで食べたポークシチューが絶品でした。

いろんな肉がある中で味がいいのは豚肉だというのが僕の持論なんですが、豚バラ肉っていうんですかね、ドスッとした分量のソリッドな豚肉が、茶色いデミな感じのソースで煮込まれたその肉が、浅い皿の上にドンとある。シチューっていうから汁気メインだと思ってたら肉メインだったんすね。

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柔らかい豚肉の強い旨味とコク深いシチュー汁とのハーモニー。

白いご飯と茶色いシチュー、蒼い海を渡る黄色い船、白い壁に書かれた有名人の黒いサイン、庭に輝く芝生のグリーンと真っ赤なハイビスカス。味覚も視界も鮮やかなコントラストに包まれてマジ卍です。
あと、デザートで食べたバニラアイスも絶品で、すげー高い味がしたんすね。

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とにかく旨いので、また食べたいです。激烈におすすめ。風景も料理もハイレベル、東京から小一時間の距離でこんな経験できるレストランはおそらく皆無。
南の島の海が見える白くて小さなレストランで非常に気の利いた内装で、惣菜パッケージもおしゃれで、総じて味がいい。
もう気分は外国旅行ですよ。
ステキなことなんだけど、なぜか「東京みたいでつまんねえな」と、ちょっと思っちゃったんすよね。僕はなにを期待してたんでしょうね。

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レンタカー
予約の際に訊かれたのは「釣りする? しない?」

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三宅島を一周している幹線道路がこの島のメインストリート。島の中央部は活火山ゆえに立入禁止エリアになっているので、そもそも縦断・横断道路はないのね。路線バスもあるけど本数が少ないのね。

自由に遊ぶことを考えたらレンタカーになるわけ。
島には3件のレンタカー屋があって、僕は空港から一番近いところにした。
ガソリンスタンドがレンタカーもやってるお店。クレバー。
予約の電話を入れたら「釣りする? しない?」しか訊かれなかったので、つまり車種は選べない。生臭くなってもいいマシンとそうじゃないマシンという明確な使い分けだけがある。シンプリー。
お店のマシンはすべて白い軽のバン。しかもかなり年季の入ったやつ。トルクがないので坂道はヒイヒイですよ。そしてカセットプレーヤーがついてる。ビンデージ。
借りる手続きも、氏名、電話番号、免許番号を手書きするだけ。不安になるくらい手軽。イージー。
返す時にはガソリンスタンドに乗り入れて満タンにしてその代金を含めて精算する。空港までの送迎もあるホスピタリティ。サンキュー。

宮崎駿の世界

僕の好きなジブリ映画『紅の豚』に、青い海で白い波を引いて船が走る姿を空の上から見るカットがある。空を飛んでる実感とともに、海辺の人々の営みが見えて、地球に生きていることが愛おしくなるすばらしい画だ。
プロペラ飛行でちょうど逗子マリーナのあたりを飛んでるとき、ホントにそういう景色が見えたんですよ。
宮崎駿はきっと実際、海の上をあのくらいの高度で飛んだことあるんだろうな。そう感じたんです。それが葉山なのかイタリアなのかわからないけど、実際に見たことないとあの距離感、あのスピード感、あのスケール感、あの博愛の気持ちは出てこないんじゃないかと思ったよね。
僕の好きなハヤオ作品『天空の城ラピュタ』『未来少年コナン』に、雲が低い位置で速く動き、濃いめの影が地面を走るカットが多くある。澄んだ空気の温度や高山特有の光の色まで感じられ、地球で生きていることがうれしくなるすばらしい画だ。
三宅島の火山の立入禁止限界のキワまで行ったら、山の上にそういう光景が見えたんだよね。

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宮崎駿はきっと、アニメでどういうシーンを見せれば、そこの空気や温度や光の色を視聴者に思い出させることができるのかを、たぶんカンで、選び取ることができたんでしょうな。

雲が低いのは山の上だから。
影が濃いのは紫外線が強いから。
雲の影の動きが速いのは風が強いから。
近いところで雲が動くって、つまり風に色がついて見えてる状態なんすよ。速いね、風。

ジブリ作品の自然描写の凄さを理解し、アニメの中に入ったような高揚感にひたることができる三宅島への飛行機旅、ちょっと良くないですか。

イタチ

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三宅島を車で爆走していると、小さな動物が道を横断したり、路地の角に入っていったりする姿を見ることができるんです。
イタチです。
もともとこの島にいなかったイタチは、農作物に被害を与えるネズミの駆除を目的に放獣された外来種。ネズミを殺すためのイタチ、つまりノロイですよ。
南西諸島や沖縄で、ハブ退治のために放獣されたマングースがハブを襲わずに天然記念物であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナを襲ってレッドデータ的にエライことになったことはあまりにも有名ですが、三宅島でも同じようなことになったらしいのね。
固有種であるオカダトカゲや天然記念物のレッドデータアニマル・アカコッコをすげーたくさん食ってるんだって。
ただ、実際にワイルドのイタチを見ると、かわいいの。胴が長くてクネクネしてて。


天の川

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田舎は夜空が暗いから星がよく見えるなんて言いますね。
そうなんですよ。
三宅島は集落同士は離れているし、パチンコ屋みたいな明るいものもないので、ホントに夜が暗い。そして絶海の島という地理的条件もあって、星を見るのに最適なんすよね(たぶん離島はだいたいそう)。
ホテルから車でちょっと走って集落を離れるだけで真っ暗。スターシーカーになれんるんですよ。海岸とか、山の上とか、定番な場所はいろいろあるので個々人で探してくれよな。
視野角いっぱいに星が明るく見える体験って都会暮らしだと得にくいもの。「うわー、ステキー。昔の人の見た夜空ってこんなにきれいだったのかな」なんて考えがちだけど、現代だってちょっと行くとこ行けば星のきれいな夜はある。ウチの実家もド田舎だから、星がよく見えるし。
濃紺の空に黒く浮かぶ火山の稜線、そこからまっすぐ夜空に伸びる天の川の明るさとディテールの細かさは、なんか圧倒的でしたよ。
夜空を見ながら30分くらいベントラベントラと唱えていれば、流れ星くらいは簡単に見えるはずです。
写真が無くて申し訳ないけど、とりあえず「三宅島 天の川」で検索してみ。


七島展望台

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三宅島は海底火山のてっぺんが海の上に突き出したようなもの。で、ある高さから上のところは危険なので立入禁止になっているのです。火山性ガスとかが危険。
ちょうど立入禁止のキワのところにあるのが七島展望台。海側を見れば周りの島が、山側を見れば迫力あるアングルから御山の頂上まで見えるというポイントです。
展望台と言っても山の途中にあるダンゴみたいな盛り上がりなんだけど、コブのテッペンに車でそのまま行けるのでちょっと便利。

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海の真ん中にポコっと出た陸地、それが島。
その山の上なので、風が強い。
風が強いから高い木がない。
海からの湿った風が山にぶつかって、尾根んところで雲になる。

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雲が生まれる場所なんすよ。
溶岩が固まったゴツゴツの地面に低木と草が生えてて、強い風が低い雲を引っ張っていく。影が流れるのが速い。山の斜面にはガスでやられたのか噴火で焼けたのか、白く立ち枯れた木がニョキニョキして、ちょっと北海道のトドワラに似た感じ。基本的に生き物っ気のない風景に白く枯れた木が異様に似合ってて、荒涼感がカッコいいのだ。この光景、夢かと思いましたね。

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この七島展望台にはコガネムシがメチャクチャ飛んでたんですよ。でも風が強くて進めないので、その場で浮いてる感じなんですよ。たぶん、繁殖かなんかで山を越えたくて来てるんだけど、風のせいで尾根を越えられないんですよ。だから、みんなそこで足止めを食らって、溜まっちゃったんだと思うんですよ。

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展望台の下にはちょっとした駐車場とドライブイン跡みたいなのがあるんす。

溶岩に飲まれた観光牧場の跡なんす。

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「ちびっこランド」

三宅島に初めて来た俺には、ここがもともとどんなとこだったかは想像することしかできないんですが。

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牛さんランド
山羊さんランド
カモさんランド

ここを作った人たちが描いていたであろう夢。働いてた人たちが待ち望んでいたであろう、幸せで楽しい光景が浮かんできてしまって。
この、あまりにもささやかで可憐な夢が溶岩に飲まれてしまったわけでしょ。

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岩に埋まったトラクターとかあるんですよ。土砂じゃないよ、いっこの岩の中に刺さってるの。トラクターが溶けた溶岩に飲まれたまま冷えて固まったんですよ。

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骨だけになり、潮風に赤く錆びて残っているレストハウスの跡もね。
週末には幼い子供を連れた若夫婦とじいじとばあばがラーメンとかカレーとかオムライスとかソフトクリームとか食べて「おいしいねえ、楽しいねえ」とか笑い合ってたんじゃないかと想像しちゃってもう無理でしたね。
ちょっとセンチに過ぎる感想でしたかね。

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ウミガメの入り江

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島の東岸、空港の北側。サタドー岬の灯台の先の柱状節理の岩の先。

突端も突端、ジエッジオブエッジに立つとやっと見えてくる入り江。アーイェー、オーイェー、オレ入り江。

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ゴツゴツの岩だ、コバルトの海だ、白い灯台だっつってテンション上がって岬の先っちょまでピョンピョン跳ねてって、斜め下に目をやれば。

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この入り江、ウミガメがすごい。
一匹見つけるとどんどん見つかる。
岬の真下にもいる。浜の波打ち際にもいる。真ん中へんで波に揺られてるのは遊んでるんだろうか。

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ワイルドのウミガメを見るのは初めてだけど、初めてがこんなきれいな景色の中でのんびり遊んでいるっぽいたくさんのウミガメだなんて最高だったよ。
自分が立ってる場所と地続きの水際に野生の大型爬虫類が生活してるのだという実感は、水族館や動物園で水槽に入ってるのを見るのとはぜんぜん違いましたな。
びっくりするくらい野生のウミガメがたくさんいる入り江が、東京から飛行機で小一時間で行ける島にある。
ね、ちょっと想像越えてくるでしょ。


プロペラ飛行機で島まで飛ぶなんて
やろうと思わないと一生しないでしょ


行ってみると想像を越えてくる。
体験するとよくわかる。
僕は、初めての土地に旅するといろいろ発見した気分になって興奮するという厄介な性質があり、記憶を整理せずにはいられないので書きました。

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