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作品解説◇ピュア・ペネトレイション

 完結という印をつけてから約3週間経ちましたので、改めて解説的なものを。全体で目指した構成、一話ごとの製作裏話を簡単に書き連ねたいと思います。
 ネタバレをふんだんに含みますので、未読の方はご注意ください。

0.全体で目指した構成

 アンダーラインの続編として成り立つように、前作と同様、2万字前後の話を5本で構成しています。

 第1話:導入。主人公・松本と眞島の関係。新しい登場人物についての描写も実施。前作から五年経過しているため、人物同士の関係性変化も描写。全体で一つの事件を追っていくようにしたかったため、導入としての事件を設定。
 第2話:1話を受けて、誰がこの事件に関わるのかを明示する。前作では和解まで至れなかった某人物と話すことができた。
 →1、2話は導入。登場人物は少し増やしています。また起きる事件は少し連続しつつも、一応一話で解決しています。

 第3話:過去篇。松本の負傷の理由と1、2話で起きた事件との関連性を描いています。また、第3話においては梶にもスポットを当て、彼がどのように事件に関わるのかという成長を描写したつもりです。

 第4話:最終話に向けて動き出す。眞島の家族について少し触れ、1~3話での黒幕が本当の黒幕ではないことを明らかにする。それぞれがそれぞれの役割を果たすため、原則二人一組での動きができなくなり、崩壊へと一歩踏み出す。
 第5話:最終話。事件の全貌を明らかにする。過去の天才研究者は現在にも大きく影響を与えていた。再び過去の遺物に振り回される松本と六条院、志登、眞島を描く。一番大切な人を守れなかったという禍根が松本に残るが、痛みを抱えながらも次に進む意思を固める。
 →4~5話は最終話として普段より長めの構成に挑戦しています。一つの事件について前後編仕立てで追うような構成にしました。

1.第一話 Reproduction

松本について

 この話のスタート時点では一番の理解者であった星野を亡くしているものの(病没です)、法的な家族を得て概ね幸せな状態です。松本の基本的な倫理観・正義感については変わらず、今目の前にいる人の幸せを願うことができる人として隊の活動を支えています。六条院との関係は前作と比べて若干変化しましたが、基本的には頼りにできる上官として公私を分けて接しています。

眞島について

松本を支部の試験運用要員として派遣したため、副隊長二人の配置をしたい、という六条院の采配による人事で〈アンダーライン〉にやってきました(完全に六条院の采配が効いたわけではなく、中央議会所に口を突っ込まれています)。
 当初は仕事の中身がガラッと変わったこと+議会所の仕事方式を適用したために若干隊で浮くことになりますが、段々馴染みます。また、松本についても中央議会所であまりいい話を聞かなかったため警戒をしていましたが、一話の最後には認識を改めたようです。

東風について

 満を持してやってまいりました。アンダーライン第一話で松本が助けた少年が無事に隊員として入ってきました。現実日本の場合、彼がどの程度で更生→入隊できるのかはわかりませんが、どうしても松本と一緒に働かせたかったという思惑があります。元々の素直さ+入隊して日が浅いため、眞島の采配にも特に疑問に思わず、従っていたようです。
 第一話の最後では、過去の自分と同じような境遇の少年に声をかけることができるほど成長をしています。

2.第二話 Don't miss the imposter!

余談

 当初、松本はアンダーラインを退職している設定でしたが、彼本人が動けないとなるとヒロインのようなポジションになってしまったので、路線を変更したという裏話があります。。新しい副隊長がくる、というところまでは一緒でしたが、性別と名前も全然違うキャラクターがいました。このキャラクターについてもどこかでまた生かしたいです。

元岡と志登について

 前作から今作までの間で、パートナーシップを結び、二児をもうけています。志登の方から元岡にアプローチをかけて今に至ります。志登はがんばった。この二人の恋模様についてはいつかどこかで番外編として描きたいと考えています。

サンと松本について

 前作の最終話において松本は〈欠陥品〉四体の誰とも話すことはできていませんでしたが、サンだけは今作で松本に会って話をしています。彼女が最後まで松本と渡り合った、ということもあり拳と拳でわかりあえる部分があったのかもしれません。なお、サンが松本の現在の勤務地を知っていた理由は(第四話~五話で明らかになりますが)、神在が時々やってきていたからです。

櫻井について

 今作では総務として〈アンダーライン〉全体の事務仕事を引き受けることになりました。今回の騒動については終わってから耳にし、大慌てで松本のところにやってきてお説教が始まりますが、松本本人としても久しぶりに櫻井に怒られて少し嬉しかったようです(笑)。

3.第三話 Candy, Jam and chocolates -3 years ago-

アンダーライン第三部隊について

 前作と同様の構成であり、隊長:六条院、副隊長:松本、日勤隊員:櫻井&梶で構成されています。第一話で松本が足に後遺症をかかえている原因となった事件をこの話で描写しています。

梶について

 ピュア・ペネトレイション全体の主人公は変わらず松本ですが、この話だけは梶を主人公に据えて描こうと決めていました。彼がなぜアンダーラインで働くのか、どういう行動をする人間なのか、を描いておきたかったですし、最年少として誰かの後ろについて行くだけだった梶がどのように成長をして現在に至るのかを描写した話です。

松本と六条院について

 最後に二人で会話をしているシーンが書いていて一番印象的でした。六条院本人も言っていましたが、エゴでもなんでも松本が離れないように、孤独に生きる道を選ばないようにと願って懸命に動いてくれた結果です。もちろん松本自身が人にそう願われる性格であるということが影響をしています。

4.第四話 The gifted Child of God~最終話 The pale light of dawn

全体の構成

 第四話→前半;問題提起篇、六条院失踪篇(誘拐篇ともいう)
 第五話→後半;問題解決篇
 という構成をしています。今回の終わりについては、改稿をした段階で決まりました(というより終わりが決まったので改稿が必要になった)。あちらこちらでいろんな人物がいろんな行動を取るのですが、最終的に六条院が行方不明になる一番の原因は彼らが単独行動をしたことです。それを松本はかなり後悔しますが、それはまた続編にて。

眞島について

 実は〈中央議会所〉の副所長の息子でした。本編中で描写した通り、眞島が生まれるあたりで、両親はパートナーシップ契約を解消しており、眞島は彼が父だという実感をあまり持っていません。
 また今回〈中央議会所〉が絡んでいる事件に〈アンダーライン〉としてうっかり関わってしまったために人事に振り回される気の毒な立場です。。とはいえ、最初とは打って変わった様子で隊員たちと雑談をする様子も見受けられ、第三部隊にも非常に馴染んで重宝される存在になっています。余談ですが、雑談をにこやかにしている彼らを描きながら「雑談ができるようになってる……!」と感動していました(笑)

神在ついて

 彼女は加害者でもあり被害者でもあった。彼女の動機・行動理念については六条院に作中で語ったとおりです(今回は読者自身には謎を明らかにするものの、作中関係者には明かされない、という手法を試してみたかったという私自身の試行錯誤もあります)。彼女自身も(事故とはいえ)人生を踏みにじられ、二度と元には戻らなくなってしまった被害者でした。しかし、今回の件で加害者にもなってしまいました。ただ、米澤と出会わなければもっと鬱屈とした日々を送っていたことは間違いないでしょう。現在の彼女にとって、米澤との出会いが最大の幸運であり不運であった――そんなどうしようもなかった彼女を救う道はないのか、と最後まで六条院は考えて言葉をかけていました。

六条院について

今作最大の被害者。このシナリオを考えたときにどうにかできないかと色々考えましたが、結局救える道はありませんでした……。
 神在が彼に投薬した薬物はいわゆる〈ギフテッド・チャイルド〉状態を強制的に引き起こす作用を持つものでした。入院中一度は意識が戻るのですが、その後鎮静剤を投与されたまま物語は終わりを迎えることになります。なお、一度意識が戻った際に訴えた頭痛ですが、脳に入る情報量が非常に多くて処理をしきれなかったことによるものです。神在の投与した薬物が引き起こした効果は、彼女の想定とは少しズレて発揮されていた、というところだけ現時点では明かしておきます。

松本について

 今作第二の被害者。一番の理解者だった星野は病没し、最終話後にはもう一人の理解者に手を離されてしまいました(なお書いた本人は、完結してから10日後にようやくその事実に思い至り、松本に対して申し訳なくなっていました。書いている最中は意外と気がつかないものです)。
 今作で初めて彼の怒りの感情を描きましたが、描いた本人も「こんな感じで松本は怒るんだな……」とまた新たな一面を発見しました。実は初稿では松本と為石の会話はもう少し短かったんですが、為石にもう少し抗ってもらいました。おかげで松本がさらに怒ることになるんですが、まさに火に油を注ぐ効果でした。
 そして、最終的には松本が第三部隊の隊長を引き受けることになりました。松本自身は作中で語った通り、六条院から預かっているというつもりで務めるようですね。彼がどんな隊長になるのかは次回作で描きたいと思いますので、お楽しみに。

志登と雷山について

 今作最大の功労者たち。松本の手綱取りを頑張っていた志登はもっと褒められていい。松本が単独行動をせず、冷静に動けたのは志登がずっとコントロールしていたおかげです。雷山も志登の無茶振りによく応えていました。普通の副隊長は2部隊を同時に監督するなんて芸当はできません。第一部隊の隊長、副隊長は他の部隊のまとめ役も兼ねていますので、(見た目や言葉遣いどうあれ)仕事は非常にできる人たちです。
 志登は最後に松本に通達書を渡す役をしていますし、個人と組織の板挟みで非常に大変な思いをしたと思います。ただそれでも、引導を渡すのは彼しかいないと思って大役を務めてもらいました(改めて考えるとアンダーラインシリーズは彼抜きでは成り立ちませんね…)。

5.最後に

 作品解説、いかがでしたか? 今回も合計約4500字というボリュームになってしまいましたが、本文では書いていないことなどが補足できたかと思います(野暮だと思われることもあるかもしれませんが…)。また細かい部分で気になることがあれば、回答の記事を上げて行こうかと思っておりますので、お気軽にコメントなどいただけましたら幸いです。
 お付き合いありがとうございました。

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