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朝起きたら身体が動かなかった話

小学校1年のある朝目が覚めたら、身体がまったく動かなかった
首がまわらなくて、持ち上げることもできなかった

母親は、私が学校行きたくないから仮病をつかっていると思い
一生懸命におだてたり、怒ったり、なんとか、起こそうとしてた

でも、それが演技でないことがわかると、
パジャマのままの私をおぶって、大学病院へと連れて行ってくれた


診察室のベッドに横にされたかと思うと「検査をしますと」
看護師さんに抱えられて処置室へ連れていかれた

「背中に大きな注射器を刺して、液を取るから
エビのようにまあるくなってね」と言われて
そのまま、看護師さん4人がかりで手足を押さえられた

最初に麻酔を打たれたんだと思うが
もう一度、勢いよく押さえ込まれた時のほうが、すごくすごく痛かった

しばらくして、看護師さんたちがいなくなり
私は処置室のベットの上に、しばらく一人で横になっていた

不思議な話だが、この時、私は、自分の身体から抜け出したのだ


どこへ行ってたかというと、母親のところである

処置室から、ちょっと離れた診察室
病院の先生と母親が話をしていて、私は母の後ろから2人を見てた


その時、母が、泣いてた
先生の話を聞きながら、泣いてた


当時6歳だった私には病気のことは何もわからなかったけど、
何か大変な病気なんだということは理解できた

ただ、いつもは涙を見せない母が泣いていることに驚いた
そして、なによりも、私のことで、母が泣いているのが
胸が潰れそうなほどに悲しかった

こみ上げてくる思いは「ごめんなさい」「ごめんなさい」…


私は、見てはいけないものを見た気がして
そっと、その場所を離れて自分の身体に戻ったのだ


しばらくてして、処置室に母が来た時、
母はもう泣いていなかった

そして、「大きい注射しても、泣かなかったって、
強い子だって、病院の先生が褒めてたよ」
と、私の頭なでてくれた

さっきまで泣いていたような真っ赤な母の目を見て
「お母さんのほうが、注射したみたいだね」そう思ったけれど

「ママ、私のせいで泣かせちゃって、ごめんね」と言う代わりに

「うん、私、大きな注射でも泣かないよ」と口にしていた

よく病気して注射たくさん打たれていたこの頃の私が
友達に言っていたセリフ「私、注射たくさんしても平気なんだよ」だった

その本心は、
「私が注射たくさん打って、強い子でいたら
 お母さんは泣かないでいられる」だったんだなと、今は思う

子供は、母親には幸せでいて欲しいと願う

そして、その純真な思いが、
時を経て歪んだ愛情に変わることもある

そんな話は、またどこかで~


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