あゆみへ

聴いているといつの間にか別のことを考えてしまう、
そんな音楽に出会うことが今でもあります。

ぼくが思うに、それって良い音楽です。

聴く人を美しい空想へ連れ去ることができるのはきっと優れた音楽だけですから。

けどそれがどんな音楽だったか、いつも思い出せない。なぜって聴いている間は違うことを考えるでしょう、
ふわふわと上の空になるでしょう、
だからいつも思い出せません。

いつの頃だったか、ぼくとあなたで夜の海を歩きましたね。
すれ違う風の音をおぼえていますか。
あなたはぼくに計画を話してくれた。
綺麗な夢でした。

あのとき、ふたりで流れ星をみましたね。
星の降る音をおぼえていますか。
あなたは遠くをみてそっと微笑んだ。
若さでした。

けれど今となってはすべて空想だったかもしれない。
ぼくがおぼえているのは、

あなたの細い声だけ。

もう顔も思い出せない。


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