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競売の話

これはとある競売のお話

※この物語はフィクションです。実在する人物、団体とは関係ないです。

経緯

とある日、知人との会話の中で、親御さんが亡くなられたことを聞かされる。

お母様は既に亡くなられており、お父様が突然倒れ、入院されていたことは聞いていた。

葬儀も終わったある日、銀行から差し押さえの通知が来たとの話。

聞けば、お父様に借金があったようで、ご実家が担保に入っていたよう。

なお、債権整理をし終えても300万ほど借金は残るようなので、相続放棄を勧めた。

ご兄弟がいらっしゃり、長男、長女、次男の3人。

知人は次男坊、長女さんと次男は相続放棄されたようだが、長男の方は単純承継したのかな?

長男の方は、ご結婚もされて住宅を購入されていたようで、面倒事は次男の方が動いていたよう。

一応、この時、登記は確認。とある信金の根抵当が1000万ほど付いていた。

聞くところ、ご商売をされていたようで運転資金用だったのかな?

この時点では、任意売却になるか?競売になるか?は分からず。

競売へ

ある日、ふとあの事例はどうなっていたか?知人に尋ねたところ裁判所からのお手紙はあったよう。

競売のサイトを眺めていたところ、2回入札が流れていた物件を見つける。

すり合わせをしたら、当該物件であることが判明。

ご実家には長女の方が、当時も住まれていた。

若年性の認知症と高血圧を患っているとのことで、生活保護を受けられていた。室内の写真を見たがだいぶ荒れていた。

市役所の担当の方とのやり取りも、次男の方がやられていたようだ。

聞けば、葬儀費用、入院費用、固定資産税の支払いなどかなり肩代わりしていた様子。そのための借り入れまでしていたようだ。

色々な感情は錯綜したが、なぜか入札を試みようとこのとき思った。

どこの馬の骨とも分からない第三者に落札されるくらいなら、少しでも心労を軽減してほしい。そんな気持ちがあったのかもしれない。

物件詳細

知人にご協力いただき、競売資料からは読み取れない現地調査に赴くことに。

関東のとある駅、駅距離は15分以上、車があった方が良いが細い住宅地を入っていく場所。

昔ながらの「コ」の字型の分譲?私道アリ、4人の所有者がいたが、当該物件の私道負担は無し。公図では他に接道があったように見えたが、現地確認したところ、接道は私道のみ。

築30年ほど、庭木は生い茂っており、私道とは反対方向の隣家が建築中。境界標は探せばあるのだろうが、見つけるのに苦労しそうではあった。

家の中にも入れて頂き、長女の方とも対面した。

資料では、床のたわみなどが指摘されていたが、比較的しっかりしていた。

知人は長女がヒステリックになってしまうのでは?と懸念していたが、幸いこの日は大人しかったよう。携帯の支払いが滞っていて、携帯が止められていたようだ。部屋の片隅で長女の方の名札を見つける。元々は介護職員だったようだが、介護される側になっている現状に、なんだかモヤモヤしたものを感じた。

世代交代が進んでいるのか、周辺には新しめの戸建てはチラホラあった。

近隣で、食事をさせていただいたが、昔ながらの町並みは良さそうに感じた。

2回流れた、基準価格は600万円ほど。リスクのある物件としては少し厳しめか、3回目は400万円台での基準価格に見直しされていた。

入札~開札

さて、現地調査も終え、いくらで入札するか?手続きはどうするか?残置物は?リフォームは?水回りはどうする?占有者の引っ越し費用は?いろいろと想定し始める。

長女の方は落札された場合、施設に入ることが役所の職員の方との間であったよう。

幸い、住んでいるマンションで競売事例があり、専門に扱う業者とのコネクションはあった。業者のHPを見る限りだと競売の入札代行も行っているようだ。

競売で手に入れたのか?いくつか物件情報も掲載されていた。

ある日、連絡を取り業者と落ち合うことに。

費用は成功報酬、落札できたときにのみ成果をお支払いする流れ。

個人で入札するか?法人で入札するか?個人で入札することに。

一通りの打ち合わせ、手順を踏まえたうえで、保証額の振り込みをした後、その後の手続きは一任。

入札開始初日には入札の連絡があった。

ちなみに450万で入札。

諸々の費用を勘案して、200~300万は別途かかると踏んでいたため。(ゴミ屋敷の清掃業者も、前職の繋がりで知り合いではある)

開札日を迎え、会場に行くか?悩んだものの、結果としては行かず。

代行業者から連絡あり、475万円で落札、次順位だった。

後日、裁判所で書類閲覧を申請したところ、現地の業者が落札していた。

他にも2件ほど業者から入札があり、300万円台後半で入札されていた。読みとしては間違っていなかったが、落札者は入札最終日に駆け込むかのように入札されていた。

そのまま法務局で、その業者を調べたが、住宅弱者へ住宅を斡旋する事業を行っている模様。団地の一部屋が事務所になっていた。

何か腑に落ちないモノもあったが、自分に出来るのはここまでか…という落胆した気持ちと、面倒事に首を突っ込まなくてよかったような安堵感と複雑な気持ちではあった。

最後に

今ではどうなったかは知る由もないが、長男の方が相続放棄しなかった理由、微差で競り負けた奇妙さ、腑に落ちない点はいくつか残る。

長女の方は、施設に入る前に急逝されたようだった。

しかしながら、金額の読みと経験が養えたことはプラス材料。

競売専門誌や競売サイトを見る限りでは、愉快なお隣さんレベルではないほどの様々な案件がそこにはあった。

逆に何も問題がない物件は、入札件数も多く市場価格よりも高値で売れていた。

すべからく不動産と人の業は、切っても切り離せないと感じた事例である。

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