見出し画像

博士課程、博士研究員(”ポスドク”)ポストへの出願について・・③

先々週ほど、2つのNotesを投稿しました。研究者(の卵)のキャリアのポストに応募する際の、要件を満たしているか否か、それをどう表明したらよいかという考えを記させて頂きました。次の3点の最初の2点になります。

1. 応募要項をよく読んでその理解を示してほしい(Link
2. 自身の欠けている点、克服したい点を書いてほしい(Link
3. 私らがどういう研究をしているのか理解とその環境でどういう仕事をしたいのかを示してほしい

そして今回は3点目に関するNoteです。ここで示す内容は、過去にKagakusha.net(カガクシャネット)に寄稿した内容とオーバーラップしている部分があります(「14.答えの無い質問に対する対策」の項)。

https://twitter.com/KagakushaNet/status/475641667165249537

私が就職活動する側ではなく、志願者の書類をレビューする側に立って、同じ内容についてさらに強く考えさせられました。ここで記すのは次の点です。ちょっと尻切れトンボのような弱さがある感じですが、これで一連のNotesは終了です。読んで頂ければ嬉しいです。

1. 期待される仕事の内容の理解を示して欲しい

前回も触れましたが、私たちが採用したい人というのは私たちが一緒に仕事をしたいと思える人です。仕事内容は必然的に、これまで続けている仕事(主に研究)になります。少なくともその内容を発展、拡張させた内容ということになります。ですので私たちの行う研究内容をできるだけ深く把握していることを当然のように期待しています。

そしてその内容とは論文一つ二つを読解するということでは物足りないと考えるのが無難でしょう。研究グループの業績とは(複数の)大きなテーマがあってそのテーマごとに複数の論文などの業績が関連づけられているものですから。

ポストへの志願者にはそういったテーマへの理解を示してほしいと思っています。具体的であればあるほどよいです。

しかしながら、実際の応募書類はその期待に反したものが多くあります。つまり仕事内容や研究内容について理解してもらえているのか判断できないのです。そしてネガティブな評価へと印象は偏っていきます。

アカデミアのポジションが限られている昨今、志願する人は多くのポストに応募しているだろうということを私たちは想定します。ですので、私たちの研究に対する理解を示さないということは『いろいろなポストにやたらめったら応募しているのでは?』という疑いの種となってしまいます。そんな風に疑われるのは避けたいですよね。

ということでカバーレター(志願の意を表明する手紙)に具体的に研究への理解と具体的な関心を記すとよいでしょう。たとえば

i) 志願先の教授や研究者が書いた論文や一連のプロジェクトを引用し
ii) その研究の流れをどう自身が発展させたいか具体例に記し
iii) 自身がチームに貢献し、結果を出せる可能性を示す

という内容でしょうか。具体的に示す内容はおいておいて、ともかくもポイントが伝わればと幸いです(どういう研究をしたいか・・については下に記しています)。

2. 一緒に仕事する人に関する理解がほしい・理解のための歩み

ポストに志願する際に、研究グループのメンバーを名指しして一緒に仕事したいと記すことは無いでしょう。ですので、ここで私が「理解がほしい」と示していることは具体的に何か書くということではなく、全体的に志願書類で表現してほしい雰囲気のような曖昧な内容です。

志願書類、特にCV(履歴書)の中にはフォントが華やかなものだったり、モノトーンのものだったりばらつきがあります。英語の表現でも修飾語が多いもの、少ないものと様々です。結論から述べると、私が関わるポストへの志望では、華やかなCVや飾りの英語表現などは避けた方がよいでしょう(自身の過去の実績について、"interestingly"とか述べたり)。よい印象を抱いた経験がありません。外見や表現ではなく、内容を淡々に示すことを考えた方がよいでしょう。私の個人的な好みもありますが、一般的にもアカデミアの場合はそうではないかと考えています。詳細の例は略します。

よく志望書類を読んで感じるのは、どんな研究者が選ぶ側にいるのか想像できていないのかな?ということです。

ポストに応募する際には、研究グループの業績からどういった人材がキープレーヤーとして機能しているのか理解するよう努力するとよいでしょう。今時はSNSが普及しているので人柄を掴むのは容易です。SNSのアカウントなどを使っていない研究者でも、研究やプロジェクトに関する報道、学会などでのインタビューで様子が判るものです。そういった情報にできるだけ当たるとよいと思います。

また応募したい研究グループの業績に通じるにしても、具体的な研究内容を把握するのみならず、研究内容から結論を導く際のトーンの強さ、主張の程度などを読み取ることが大切です。さらに学術誌に投稿されたEditorialやLetterなどは特に貴重な情報源です。経験豊富な教授などでしたらEditorialの執筆もあり、研究に対する姿勢など垣間見ることができます。

そういった情報源に通じると、たとえば公衆へのアピールの強い人材なのか、ミッションに従って石橋を叩いて渡るタイプの人材なのか、少しでも把握できるものです。そうした様子を想像して、どんな人物が志願者を裁くのか想像をめぐらせるのがよいでしょう。

たとえば、私の所属するグループへの応募となれば、グループの論文のリストを眺めることになります。すると過去5,6年で私の名前が筆頭著者、あるいは2nd、3rdの著者として出てきます。Last authorなども共通の名前が目立つことでしょう。

任期のある博士研究員(ポスドク)や学生でしたら、2,3年で名前の登場が途切れるのが常です。その事実を考えて、少しでも長い時間、名前を連ねている人材を見抜くべきです。そしてウェブサイトで閲覧可能な情報からどんな人物か確認します。「あぁ、こんな人が審査するのか」と判断できるものと思うのですが・・どうでしょう?

ウェブに広がる情報を辿ればその研究グループがどんなことに重きをおいていそうなのか掴めるかと思います。それに基づいて志願書類もどのようなオーラをまとわせるべきか考えてもらえればと思います。選ぶ側からすると、その志願書類から得られる薫りがあまりにも異質だと、「きっと、この人は別の道を歩んだ方がよいだろう」というような発想に至るものです。

3. 相手を知ろうと具体的に動いてよかったと私が感じた事(例)

私がケンブリッジ大学のポストに応募した際は、上記のように情報を集めました。組織のディレクターを含め、研究者の働きぶり、理念など研究論文に現れない部分をできるだけ把握したわけです。私個人の経験(N=1)で参考になるか判りませんが、なればいいなと思い、ここに記します。

有意義に感じたのは、ある研究者の過去の業績です。その方の業績は過去の様子でした。
・筆頭著者の論文が少ない
・筆頭著者となった論文は大分前の疫学研究の研究方法に関するもののみ(疫学誌でハイインパクト医学誌とは遠い)
・ある年あたりからLast authorに名を載せ始める
・臨床医学系の学会から受賞暦がある

(他にもありますが省略)ここで例として挙げていることから推察できるかと思いますが、その方は表にあまり出ずに研究の方法論にこだわり研究全体を底から指揮する類の方だと感じました。私が志願者として示すべき姿勢として、業績の数や臨床上の意義は控えつつも、疫学の研究方法に通じている姿を示すのが肝だという結論に至ります。そうした雰囲気を出すように、カバーレターやCVの内容を充実させました。その後のインタビューでも同様です。実際にこうした考察と狙い、実践は的を射ていたと思います。

人選をする側に立って、ポストを志望する研究者やその卵たちは、同じように時間を費やしていないのかなとよく感じています。私についてでなくとも、ケンブリッジ大学の他の名を馳せる方々の姿勢や理念なども調べていない様を想像できてしまうのです。たとえ志願者が実績について優れていても、科学に向かう姿勢などにギャップがありそうだと感じるとどうしてもやはり選抜のスコアリングは低くなります。

4.その上で何をしたいのか示す

ここまで記したことは、既存の業績や資質についての内容でした。それに加えて、ポスドクなどのポストに応募する際に示さなくてはならない内容は、どんな研究をしたいのか、どんな研究者になりたいのかです。その内容を練るのは次の過程を考えるのがよいでしょう。

・論文のDiscussionの内容を読む
・研究プロジェクトの概要や目的を読む

公衆衛生学・疫学にて強いエビデンスを紡ぐのは、一連の研究(論文)があってこそとなります。応募したいポストをオファーする研究グループはなんらかの一連の流れを作っているものなので、その内容と展望を把握するよう意識するとよいでしょう。

単純に述べると、疫学論文のDiscussionには"Further research is needed..."(今後の研究が必要である)というような内容が含まれ、その内容を読み取りましょうねということです。(文脈にもよりますが)研究グループが欲している人材はそういった必要とされる研究の穴埋め、拡張をしてくれる人です。その部分を把握し、どう自分が貢献できるのかイメージを確実にし、それを示すのが戦略として有効でしょう。

グラント(科学研究費)の概要にも同様の内容が含まれています。応募先の最近の論文を読んだら、どういった科学研究費の枠内でその研究が行われているか把握しましょう。国のグラントの代表的なものであれば、その概要はウェブで公開されているものです。そのグラントの内容・目的・展望を把握し、そのグラント枠内で目指している未来に自分がどのように貢献できるのかイメージする、イメージできることが大切です。

容易に想像できるケースとして、人材募集そのものがそのグラントの費用でもって行われているかもしれません。そうであれば、そのグラントの目指す方向性を把握するのは絶対に必要になりますね。そうした仕組みも見逃さないようにしましょう。そのグラントの枠内か否か判らない場合でも、研究グループが抱えているプロジェクトの内容の把握は欠かさずに押さえる方が無難です。研究グループにとって、現行のプロジェクトを把握してもらえている、それに貢献してくれそうな可能性のある人材は魅力的となります。

ポストへ応募する際の書類には、その展望に沿ってどれだけ自分がユニークな貢献ができるのかを記すのが肝となります。現実的ながらも希望を与える内容がよいですよね。

また記してほしい内容として、その応募者自身が欠点を把握し、その欠点を克服するための内容にすることも推奨したいです。以前も記しましたが、私たちは完璧な人材を表向きは求めていますが、絶対条件として捉えているわけではありません。自分の欠点を把握しそれを埋めたい、その最中で研究グループに貢献したいという姿勢が大切です。博士課程の学生やポスドクはある意味、未熟な立場です。ユニークな研究者となるために、私たちをどう踏み台としたいのか謙虚さを基盤に記してもらえると(私個人としては)人を選ぶ側の人は一緒に仕事したいと思えるように思います。

実際の応募要項を読むと、○○の研究がしたいという希望が書かれていることは多くあります。残念ですが、がっかりすることが多いのが実情です。熟慮に欠けているのか、「それ、もう10年以上前から言われていて、もう同じ研究している人はすでにいるのでは?」という印象を与えかねない内容が頻出します。あまりにも漠然としたものも多くあります。「それ、誰でもいつでも言えることでは?」という感想に至ってしまうような内容です。自分の欠点を把握し、具体案をもって克服し成長したいという文脈で書いてくれる応募書類には出会った記憶がありません。

希望に満ち溢れる姿勢はよいですが、その姿勢のためにネガティブな印象を与えるのは避けたいですよね。構想を立てたとしても、一歩引いて客観的に眺めて考える時間を設けるとよいのかもしれません。

5. 一緒に仕事したいと思わせる(完)

今回、そして前回、前々回で示したことの抽象的な要約となります。

志願書類の選別するのはやはり人です。その相手の人柄をできるだけ把握して、志願してくる研究者に何を期待しているのか想像しましょう。その人に志願書類を差し出して、どのような表情でその書類を読んでもらえるのでしょうか。そんなイメージを固まることができればよいかと思います。その域に至るまで情報収集や考察をしていくことが志願書類を強いものにすることでしょう。人生の貴重な数年を賭けようと思って志願するわけですから、多角的に情報を収集して、考え抜いて、よいイメージを持って志願して然るべきかなと思っています(註1)。

そうした、いわば熟成期間を経れば、要求されている志望要件に沿って、自分の強みや欠点をどう示していったらよいのか、今後、応募先の研究者と一緒に行いたい研究とは何か、自ずと見えてくるかと思います。(具体的な考えをNoteに記したわけですが、読み手のこと、グループメンバーに自分がなるんだということを深く考えればそれほどのことでもないわけで)その結果として「一緒に仕事したいと思わせる」志願書類ができるものだろうと考えています。(「一緒に仕事したいと思わせる」のは結果的にそうなるものであって、それが目的ではないので要注意・・でしょうか。私の書き方が下手かもですが。)

ポスドクへの志願書類を読んで感じたことで3つのNoteを記しました。これらについては以上です。お役に立てば幸いです。ここまで読んでくださって有難うございました。

トップの画像は https://wallpapersafari.com/ より。

註1)もっと具体的に・・たとえば、年間で数百万円相当のサポート、そして世界でも類稀な研究の機会を得ようと応募するのだから、もうちょっと頑張ろうよ・・というのが本音でしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?