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令和6年能登半島地震災害対応について机上の空論への反論~1.「逐次投入」編


令和6年能登半島地震災害の主に自衛隊の災害派遣活動について
「自衛隊が逐次、投入されているのも遅い」(逐次投入になっている)
「ヘリを出せ」
「空挺降下しろ」
「空中投下しろ」

1月1日の発災以後、そのような声が野党政治家や元政治家、ジャーナリストらから発せられました。
これらは現場の事情や実態を反映していない机上の空論でありますが、
国民の大勢はともかく、政府攻撃の文脈で反政府系言論界隈では支持されているようです。

それぞれ、
「逐次投入」は立憲民主党泉代表
「ヘリをだせ」は竹中平蔵氏
「空挺降下しろ」
「空中投下しろ」の二つは新聞記者望月衣塑子氏

の言説であります。
意見の重複もあり類似の言説は多数ありますが大きな影響力を持つこの三者を代表例として話を進め、4つそれぞれについて反論していこうと思います。
本稿では「逐次投入」をテーマに取り上げます。

発言の根拠、引用元は雑多になるので後段に参考として掲載します。

「逐次投入」

立憲民主党の泉代表は
「各現場で全力を尽くしているのは間違いないが、予備費の支出は遅くて小規模で、きょうにでも増額すべきだ。自衛隊が逐次、投入されているのも遅いと言わなければならない」と与野党党首会談で述べた(1月5日)


そもそも「兵力の逐次投入」が愚策とされるのは、戦時において各個撃破されるおそれがあるからなのですが、災害派遣では各個撃破してくる敵は当然いません。
準備が出来た部隊から順次被災地に向かうのが自然で、これを「逐次投入」と非難されるのは不適当です。
まさか、1万人が準備出来るまで現地入りを待つ…とか、遠方の部隊も瞬間移動して来いなどとは泉代表も言いはしないでしょう。

上記の、立憲民主党泉代表の誤謬は大きく分けて四つ
自衛隊配備状況の無知
時間的限界への無知(移動や準備)
情報処理への無知
地形的限界への無知


自衛隊配備状況

被災地石川県近郊には
輪島分屯基地…空自レーダーサイト、被災
鯖江駐屯地…主力、第372施設中隊
金沢駐屯地…主力、第14普通科連隊
富山駐屯地…主力、第382施設中隊

この4拠点があり、いずれも比較的小規模な駐屯地です。
輪島分屯基地は空自のレーダーサイトに勤務する約40名
鯖江と富山の施設中隊は100~200名程度
金沢の普通科連隊で1000名前後といったところでしょう。

熊本地震の際は数日後2万2000人が展開したと引き合いに出す人も多いのですが、能登半島と九州熊本県では地理条件が違う上に、熊本県には西部方面総監部や第8師団司令部があり複数の連隊や大隊が駐留している健軍駐屯地、北熊本駐屯地、熊本駐屯地、高遊原分屯地があったのです。

熊本県は平素から陸上自衛官が少なくとも5000人以上いて
一方、石川県は1000人程となっています。
また鯖江(福井)、富山、岐阜の駐屯地(分屯地)はそれぞれ同県内唯一の陸上自衛隊駐屯地となっています。

被災地石川県近郊にあって移動時間少なく即時展開できる部隊の人数がそもそも少ないのです

時間的限界(移動や準備)


陸上自衛隊の各駐屯地には初動対処部隊(FAST-Force)として器材等を常時準備し災害に即時対応可能な部隊が当番制で待機しています。
1月1日の元旦と言えど即応体制を整えて待機していた隊員がいたわけです。

発災当初はこの初動対処部隊が先陣を切るのですが、以後帰省していた人員らが順次登庁し、より多数の機器材と物資の準備を整えた災害派遣の本隊が出動します。

この時間差を「逐次投入」と表現するのはナンセンスですよね。

金沢駐屯地等被災地近郊の部隊以外…たとえば10師団司令部のある守山駐屯地は愛知県名古屋市に所在します。守山から即座に初動対処部隊を能登へ進発させたとしても被災地に近づくほど道路状況は悪くなり移動に数時間を要するでしょう。

これは今津、久居、春日井、伊丹、姫路、宇治、桂といった自衛隊拠点からの移動も当然同様です。

物理的に距離が離れているわけで、被災地に到着するのは近郊部隊よりも後になります。

唯一この時間的限界(移動時間)を極小に出来るのが航空機ですが、
スクランブル待機していて即座に発進した航空自衛隊の戦闘機も被害状況の確認(これも大事なのですが)は出来ても、物資や人員の輸送には向きません。

同じくヘリコプターについては別稿でとりあげますので簡単に。
八尾や木更津、そして石川県小松の航空自衛隊基地から自衛隊のヘリは発災当初より任務を遂行しています。
ただヘリの飛行は天候に左右されるとともに、着陸するのも着陸地点の安全を確認せねばならず簡単にはいかないのです。空からアドリブで着陸するようなことは少数事例を除き難しいとだけ覚えておいてください。
陸自等による徒歩での孤立集落救援により、集落の人とコミュニケーションをとり、現地を実際に確認することでヘリの安全な発着可能地点割り出しが進み、今(1月14日時点)では活発にヘリによる輸送が行えています。


情報処理

被災地の状況を確認しないことには災害派遣部隊は「どこ」へ「なに」をしに行けばいいのか、道は繋がっているのか、部隊の車両を停めるスペースはあるか、隊員が宿営するテントを張る場所はあるかなどがわかりません。
ニーズのある場所へ、適切な部隊を派遣せねばならないのです。
このニーズというのは情報を収集せねばわかりません。
こうした情報の収集と分析、評価、部隊間調整を無視して短絡的に部隊を投入してしまっては、渋滞を発生させたり、無駄足になったり、それこそ被災者救援の脚を引っ張ってしまいます。

「72時間の壁」が災害時救助において盛んに報道されます。

救助は早ければ早い方がいい。
助ける側だって出来るなら一刻も早く助けに向かいたい。
しかしスーパーヒーローのように何も考えず現場に行けばいいというものではないのです。
上述の事情から、救助を最大効率にするために情報収集と分析に時間を割くのです。
自衛隊も早く向かいたいが、何も考えないままには行けないというジレンマあるなかで「出来る限り早く」を追求していることを忘れないでください。


地形的限界


能登半島先端、輪島市をはじめとした奥能登の被害が大きい今般の能登半島地震では、半島という被災地の特性から道路…自動車交通路が限られる状況となっています。まさにボトルネックです。
その限られた道路も地震による破壊で通行不能であったり、避難者の車両、警察消防自衛隊などの緊急車両、そして石川県からの来訪自粛要請を無視した時期尚早な自称ボランティアの車両などによって渋滞が発生しています。

自衛隊に限らずどのような軍隊も陸上移動は道路が基本です。特に山がちな土地で道路を無視して進むのは困難で、車両がないと救助に必要な重機材を運搬することは難しくなります。

陸上自衛隊では先述の通り孤立集落にむけて徒歩での物資搬入を行い、現地の状況を確認してヘリの誘導等も行っています。

空からのアクセス
ヘリによる機動も天候に左右されますし、
集落によっては着陸適地が無いことも考えられます。
民間ヘリがやっているようなバックホーの吊り下げ運搬も現時点では自衛隊は未経験の筈です。(車両や火砲のスリング吊り下げは実施している)
これを実施するには訓練を要し、今すぐにというのは無理でしょう。

海からのアクセスも地震による隆起で海岸線が後退し、通常船舶での接舷は難しくなっています。
輸送艦おおすみに搭載されたホバークラフトから重機を輸送したり、小型のボートで補給物資を搬入したりしているのが海からのアクセスの現状のようです。

このように被災地能登半島では陸・海・空からのアクセスが一筋縄ではいかない状況だったのです

自衛隊の限界というより、この状況ではどこの軍隊でも苦労することでしょう。たとえ米軍であっても大きく変わらない筈です。

こうした地形の事情を把握せず「遅い」だの「空からいけ」だのとネットで言うは易しですが…実情を把握せず現場が最善を尽くしていないと考えるのは実に残酷ではないでしょうか。


まとめ

このように
自衛隊配備状況の無知
時間的限界への無知(移動や準備)
情報処理への無知
地形的限界への無知

四点から立憲民主党泉代表らの言う「逐次投入」の誤謬を解説してみました。
野党党首として議論されるのは結構ですが、それも正しい現状認識があってこそです。不正確な定規で家を建てようとしても無理なように、前提知識がないのでは議論が成り立ちません。
泉氏はまず防衛省からレクを受け、合理的に咀嚼されたのちに発言なさるべきでした。

参考


自衛隊逐次投入の政府対応は遅いと立民代表


自衛隊「逐次投入」に批判も=地理条件で規模制約、任務は拡大―能登地震


自衛隊派遣、増員が容易でない背景 能登半島地震と熊本地震の差

災害時に自衛隊ヘリ動員

習志野で降下訓練 住民「物資輸送すべきだ」


住民から「訓練ではなく物資輸送をすべきでは」と疑問の声が上がっています

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2024-01-06/2024010601_03_0.html

新聞赤旗では上記のように住民に意見を代弁させ赤旗の文責ではないとする卑怯な手段を用いていますね。



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