さゆり 1
「ねえ、愛してるって言ってよ」
息を荒くしたタカヒロが、わたしの腰に硬くなった欲望をこすりつけながらそう言う。わたしはその言葉になぜか抗えずに、その言葉を言ってしまう。
タカヒロと知り合ったのは、たまたま行った飲み会だった。普段の土曜日は居酒屋の仕事があるから行かないけど、その日はオーナーがたまにはやすみなと休ませてくれた。ただ、だからといって突然休みになったところで何か予定があるわけでもなく、友達のマキに連絡してみたら飲みに誘われた。
「飲み会って言ってるけどさあ、それ合コンってやつじゃ・・?」
「もう、さゆりったら細かいなあ、どっちでもいいじゃん。お酒飲めるんだからさ!」
ぶつくさ言いながら着いていくと、そこはこじゃれた高いテーブルと座面のやたら小さいイスがおかれている、よくあるちょっとしたバル風のイタリアンだった。入口の看板には、本日のおすすめピザの絵が描かれている。
先に来ていたのは、マキの友達の黒髪にふわふわしたパーマをあてたたれ目の男と、一緒にいたすらっとして背が高く切長な目尻に厚めの唇のタカヒロだった。
タカヒロは、まだ暑さの残る9月なのに、ベストにジャケットを着ていた。濃いグリーンのネクタイもきちっとしめて、色素の薄いオレンジがかった茶色の目で、こちらをまっすぐ見ていた。
「はじめまして、さゆりです」
さっきまでのぶつくさはすべてくしゃくしゃに丸めて捨てて、すぐに席についてジントニックを頼んだ。
その日ははしゃぎすぎてあまり記憶がないけれど、わたしはタカヒロとホテルへ入った。
そこからずるずるとたまに会って酒を煽ってはホテルに流れ込む関係は続いている。
その日は1日中雨がしとしと降っていて、肌寒く、なんだか心細くなるような日だった。
「今日、会いたいな」
普段はそんな連絡、わたしからしないのだけど、休みだったし、なんとなく連絡してみた。
彼から連絡が来たのは夕方近くなってからだった。
「俺も会いたい。家行っていい?」
彼がそんなことを言うのは、初めてだった。会うのはいつも、居酒屋からのホテルだった。すこし悩んだけれど、いいよ、と返信した。
お酒とつまみを用意して、待ちくたびれてひとりでもう飲み始めたころにインターホンが鳴った。
彼はなんだかくたびれているようだった。ネクタイを緩める姿が色っぽくて興奮した。
「タバコ吸っていい?」
「うん、灰皿持ってくるね」
前髪を掻き上げて煙草に火をつけるくたびれた男。正直とてもタイプだった。隣に座ってビールに口をつける。
「タカヒロも飲む?」
「うん、ちょうだい。」
そういいながら彼が口をあけて待っている。わたしはビールをすこし口に含むと彼のあごを掴んでそのぷっくりとした唇に口づける。わたしの口の中に含んだぬるい液体をすこしづつ、彼の口の中に押し込んでいく。
少し漏れてこぼれた金色の水滴が彼の首元を伝う。
それを見つけて、わたしは逃さないように舐め取ると、彼は嬉しそうに身を捩る。
つづく
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