ヤマト  1


ヤマト


「フレンチって1番エッチな感じがする」


カジュアルなフレンチレストランで食事をしながら、そんな意味のわからない事を言う奴は、おれの周りでこいつだけだ。


リョウと知り合ったのは19歳の頃、おれはバンドをやりたくて、東北の田舎からひとり上京してきた。
フラッと立ち寄った小さなライブハウスでスタッフをしていたのがリョウだった。
中性的な顔立ちで、背が高く、黒くて長い髪。耳にはピアスだらけ。あまりにも綺麗な顔だから、最初は女だと思っていた。でもステージに上がって発したその声は力強く、リョウがボーカルをしていたバンドの曲は、俺の気持ちをかき混ぜた。嫉妬や焦燥感、憧れ、複雑な感情だった。


仲良くなりたくて、すぐに話しかけた。
思ったより人懐こい笑顔でおれを受け入れてくれた。年も同じで音楽の趣味も合ったから、すぐに仲良くなれた。


ある夜、リョウが酔って家にやってきた。酒には強いはずで、こんなに酔っているのは初めてだってくらい。

「どした、そんなに酔って」

「ヤマトぉ、酔っちゃったよー」

きっとなにかあったんだろう。ちょっと寂しそうに笑うリョウを介抱しながら思った。別になにも聞かないし、聞いても応えないだろう。

ソファに横たわって寝ているリョウの顔はやっぱり中性的できれいだった。整髪料もつけてない、きれいなさらさらとした髪に触れたくて、そっと撫でてみた。

起きてしまうだろうかと思ったけど、そんなことはなかった。すやすやと寝息を立てている。唇を指でなぞってみるけど、寝ている。

そのままキスしてみた。

リョウの薄めの唇はおもったより柔らかくて、すこし冷たかった。

すると、リョウが反応してすこし唇を開けてくる。起きてるのか寝ぼけてるのかわからないけど、すこし開いた口に舌を割り込ませてみた。

すんなりと俺の舌を受け入れると、リョウが舌を絡ませてくる。口って女も男も一緒なんだな。そう思いながらしばらく舌で戯れていると、リョウが目を開けていた。

「ヤマト、だめだよ人の寝込み襲っちゃ」

いたずらっぽく笑いながら起き上がった。キスしたことに関しては特になにもお咎めはなかった。

「ごめん」

「いーよ。タバコ取って」

渡したタバコを吸いながら、どこか遠くをみつめている。


「今日さ、ライブ観てきたんだよね、最近仲良くしてもらってる先輩の」

そうぽつりと話しだした。たぶんまだ少し酔っているんだろう。

「なんかさ、俺がどんなに頑張ってもきっと先輩には敵わないんだろうなあ、とかなんとなく感じちゃってさ。悲しくなっちゃったよね。」

そうやって俺のほうを見捨てられた犬みたいに見ていた。悲しく笑ってた。俺はなんて言っていいかもわからず、タバコに火を着けた。


「とりあえず、なんか飲む?」







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