2016~2018年、広島三連覇を辿る 後編

1,2017年~捕手ツープラトンシステム完成。それによる若手の台頭と中継ぎ陣勢ぞろい~

 タナキクマルと四番による快足を中心としたパワフルな打線が強みであった2016年であったが投手の精神的リーダーであった黒田博樹が引退。投手陣の再編が重要課題となっていた。
 また、エクトル・ルナを自由契約、新井貴浩、ブラッド・エルドレッドの衰えは深刻なものになっており、どこまで彼らを四番に添えるのかという疑問も残る。8月より活躍した神ってる男、鈴木誠也は年越し後の実力はどれほどか未知数。そういう意味では決して万全とはいかないまま2017年シーズンを迎える事になる。
 その中で嬉しい事が一つできている。今まで石原慶幸に頼りきりであった捕手層で曾澤翼が完全に独り立ち。ここに捕手ツープラトンシステムが完成する事になる。今までは基本は石原で若手は曾澤、というような構図であったが2016年から行っていた捕手分業制が確立。若手でもいわゆるグラウンドボールピッチャーのような総合力を武器とする選手は石原が、ストレートと変化球一個が一品のようなとがった投手は曾澤が受けるようになり投手陣を分担して運用する事になる。
 前年から本格的に台頭してくる予感のあった岡田明丈、薮田和樹を曾澤が受ける事によって本格的にブレイクする事になる。
 また中田廉、一岡竜司といった怪我などで調子を落としていた中継ぎ陣が回復。ここに広島投手王国が生まれることになる。
 唯一問題として残ったのがタナキクマルのしんがりであろう。去年こそ新井が活躍したがどこまで使えるか分からない。新井の代わりにはエルドレッドが乗る事になるが年齢と怪我を考慮すると万々使えるとは考えにくい。ここをどう埋める事になるのか。
 著者は今でも覚えているが、この年外国人の加入をほとんど行っていない。確かに育成にドミニカ・カープアカデミーのザビエル・バティスタ、アレハンドロ・メヒアに活躍のめどが立っていたとは思うのだが、それにしてもあまりにも選手を取らなかった。2019年以降広島は凋落していくのだが、私はこのチームがV9とは言えずとも常にAクラスを狙えるような強い球団になれなかった原因はここにあるとみている。恐らく優勝効果による年俸高騰や黒田契約のダメージがあったのはあるだろうが、ここで踏み込めなかった事が圧倒的なシーズン成績を残しながら一気に弱小球団になっていく広島の戦略性の低さが見受けられると考えている。V9を参考にするのはよくないが、正捕手や遊撃手、五番打者のようにいつも誰かに争う事が強いチームを長持ちさせる鍵となる。特に優勝できなかったチームは来年も勝てなくていい、となるチームばかりではない。社運をかけて来年こそはと補強を重ねて来年のマークをさらに厳しくしていくチームが多いし、近年では独立採算を意識している事もあって「負けてもいい」という意識はどんどん希薄になっている。それだけチームの補強が多くなっている中、あまりにも弱腰であった事がそのままその後の結果につながっていると考えられるのだ。
 そんな不安を残したまま2017年に入るとここで大きな収穫が見つかる。神ってる男、鈴木が一時のフロックではない事を開幕からの試合で証明。これによって年齢に不安のある新井を五番以降に下げる事が可能となり、ここにタナキクマル鈴木の広島打線が完成する事になる。
 またここに於いて目立ちこそしないがチームの脇を固めていた松山竜平、阿部友裕が打撃開眼。新しいサード候補に西川龍馬も台頭してきており、チームが本格的に完成。選手層の厚みを一番感じたシーズンはここというファンの方も多いのではなかろうか。
 嬉しい誤算として今までふらふらと先発、中継ぎを回っていた大瀬良大地が先発として本格復帰。一躍エース候補に伸び上がる事になる。クリス・ジョンソンが体調不良や怪我で活躍できないなかそれを薮田、岡田、九里亜蓮などとともに埋め、ここに平均年齢25.8歳のヤング先発陣が形成される事になった。ブレイディン・ヘーゲンズや今年加入のライアン・ブレイジアは成績を出せないものの、ジェイ・ジャクソンは未だに元気。チーム勝利数88勝(51敗)というにい阪神に10勝以上差をつけるチーム成績になった。
 ここに於いて広島カープの黄金期は達成される事になる。

2.2018年~MS砲炸裂するもチームは段々崩壊の兆しが見えてくる~


絶頂を迎えた広島カープ。しかし頂点まで登れば後は落ちるのみとなった。 この年もやはりというかほとんど選手の補強を行っていない。特に打線の強化はゼロに等しくドラフト一位も曾澤がいる中のメディアで話題になった捕手中村奨平と疑問の残る指名。恐らく石原の後釜を意識したのだろうが、それにしたってタイミングが悪いというか、多田大輔などもいる中、疑問視する声も多かった。事実2022年現在、活躍の兆しが見えてきている、という話はあるものの、2017年のドラフトで獲得した坂倉将吾の陰に完全に隠れる形になってしまっている。

 その石原の衰えが顕著になってきており、この年から試合数も60を切り58試合。二年後の2020年に引退をする事になってしまう。

 では石原の代わりが出てきているか、といえば磯村嘉孝が出てきてこそいるものの石原の穴を埋めるには心もとない。捕手ツープラトンが段々石原をだましだまし使うような形に変化してきた。

 そしてなにより新井、エルドレッドの衰えがもうだましだましで聞かなくなり始めた。一応バティスタや松山がその穴埋めに入るが新井ほどを埋める事が出来ない。その中でも松山は気を吐いて打率.302、打点74を残した。バティスタはそういう点を取るバッティングというよりはフリースイングタイプのホームランで点を取るタイプ。なので打点は期待が出来ない。二人で129打点、新井を含めると153打点と頑張りはしたが、新井、エルドレッド、ルナの229打点には遠く及ばない。

 また、中田も姿を消し、そこをカープアカデミー出身のヘロニモ・フランスアが支えに回るものの全体的に不穏な空気が残った。 その雰囲気を破壊したのがタナキクマル鈴木であっただろう。特に丸佳浩は絶頂期に入り、ホームラン39本、打率.306、打点は97と大暴れしている。特に目を見張るのは四球数130。選球眼もさることながら打者として恐れられないと100を超えるのは難しい。王貞治以来のシーズン四球数130は44年ぶり。気の抜けない打者として球界を背負うバッターの一人になったともいえた。

 また鈴木誠也が四番打者として指名されるようになったのも大きい。打率.320、ホームラン30本、打点94はすさまじい。特に打点は前に丸がいる事を考えても丸がだめなら鈴木が、鈴木が苦手とする投手なら丸が、と相互関係にあり、ここにMS砲が完成。チーム優勝の原動力になった。

 田中広輔は会長で今年も32盗塁。菊池涼介も13本塁打、30犠打とタナキクマル鈴木の打線が機能しシーズン82勝。特に五月以降は相手チームを寄せ付けない強さを持つに至った。

 だが、丸のFAとともにタナキクマルの崩壊も近づいていた。

 特に日本シリーズはタナキクマルのチャンスメーカーとポイントゲッターをつなぐ菊池が絶不調。そのためタナキクマルが完全に分断されてしまい、田中が巻き返しを図るもののそれをソフトバンクの正捕手甲斐拓也に何度も刺されることでソフトバンクにお膳立てをする形になってしまい、ホームの二戦で抗えたもののビジターの福岡ドームに行くと何もできず三連敗。持ってきたはいいもののもう大勢の決まった試合に輝きはなく、そのまま敗北を喫してしまった。

 この時点でチームの層が大分薄くなっており、曾澤に段々と投手を一人で任される事が増え、チームも基本はタナキクマル鈴木頼りという剛性は高いが柔軟性に欠けたチームに変わっており、丸のFAとともにチームがどうなるか、誰もが予想できる事態になってしまっていた。

3.2019年以降。そして崩壊

 2018年オフ。丸は読売ジャイアンツにFAで移籍。これによりタナキクマルは崩壊する事になってしまった。しかしこれはまだめどがあった。結局田中菊池は残っているのだから、ポイントゲッターを鈴木誠也に任せるだけでなんとかタナキクマルトリオのスタンスは崩さずに戦えるのだ。だから丸の流出そのものは痛手だが、決して全てを破壊するほどではなかった。それほどまでに鈴木は成長していたのだ。
 だが、結果としてチームは崩壊した。なぜか。
 前の記事から言っている通り、タナキクマルトリオはポイントゲッターたる丸が活きる事で活躍する打線である事は言っている。つまり丸を攻略しても控えている人間が抑え込む、または傷を浅くしようとしたら三番の丸にやられる、そんな打線であるといったはずだ。なので実は丸が外れても鈴木がそこに収まれば問題はないのである。
 ただ問題があるとしたら、鈴木のポジションを埋める選手が誰もいないのだ。
 2016年のように新井、ルナ、エルドレッドが埋めながら勝負強い四番がいつでもいる状況を作れない。もう新井、エルドレッドにそれを任せる事は出来ない。そのエルドレッドも引退してしまった。かといって松山一人には重すぎる。一方でバティスタはホームランを打てる、という事実のみで勝負強いバッティングが出来るかと言えばノーの一言に尽きる。西川にはそのような恐ろしさがある打者ではない。高橋大樹、美間優槻といった面々も正直育ち切っていない。そしてなにより、新井やエルドレッドの代わりになりそうな選手を補強していない。
 その結果タナキクマルを動かすためのしんがりを手に入れられないことが原因でタナキクマルは瓦解。
 ではその瓦解した打線を相手チームはどう思うか。ポイントゲッターの鈴木は遅からず日本でもトップの打者になるために徹底マークしても打撃を壊すまでには至れないだろう。犠打もホームランも狙える菊池は田中、丸のポジションがいなければ活躍の度合いが一気に減る存在だ。彼らがどう動くかによってバッティングを変えられる柔軟さが菊池の強みだ。彼単体の打撃は恐るるに足りない。
 するとどう考えるか。田中を集中砲火して破壊すればタナキク鈴木の打線は機能しなくなる。それによって田中を集中的に攻撃して打撃を不調にしてしまい、菊池と鈴木を孤立させた。
 事実田中は4月に打撃を完全に狂わされ、そこから打線が一気に崩壊する。
 ここに黄金期だったタナキクマル鈴木を中心とする上位打線は完全に崩壊する事になった。
 孤立した菊池と鈴木はそれでもと奮起するものの打線の崩壊は止められず。菊池は打率.261と打率を上げるが、田中のいなくなった今ではもう恐ろしさもなく中途半端さだけが残る打撃成績に。鈴木は必死になるあまり三番になって以降は盗塁も決めるものの、ポイントゲッターである彼に求めるものでもなく、25盗塁を決めるが一方で16盗塁死を献上してしまう。
 また、石原の衰えを埋める事が出来ず曾澤一人で投手陣を背負うことになってしまい、ここに捕手ツープラトン制は崩壊。投手陣をほぼ曾澤一人で裁くことになってしまい、それに伴い投手の成績が一気に悪化。特に石原に専任する事で活躍していた野村祐輔や岡田明丈などははっきりと成績を落としてしまい、そこをなんとかしようと曾澤があがいた結果、本来得意としていた投手をもリードしきれなくなってしまっている。
 その中でバティスタのドーピング発覚。監督緒方孝市の野間峻祥への暴力などのスキャンダルでチームはぐちゃぐちゃに。三連覇は見る影もなくなってしまう。
 このようにしてチームは完全に崩壊してしまい、そのめちゃくちゃなまま緒方監督は退任。佐々岡真司が監督に入り今に至っている。

4,まとめと今年

 とまあ、長々と語ってきたがどうであっただろうか。
 私も今回調べるにあたり、確かに象徴的な存在としてタナキクマル鈴木がいたのは間違いなかったが、それ以上に彼らを支える、特にベテランの存在が三連覇を形成したという発見をして驚いている。
 三連覇の影には黒田をはじめとして新井、エルドレッドといった存在が下支えしていたことや、あまり名前こそ出さなかったが松山竜平、小窪哲也、下水流昴といった存在がしっかり脇を固めていたことが大きい。どれだけしっかりした打線が働いてもそういった影の男たちが支えてくれたからこそ三連覇があったのだ。まこと栄光の影に数知れぬ選手の姿があった。命を懸けて歴史を作った影の男達。そういった多くの歴史を作った影の男達がいて、彼らがタナキクマル鈴木を支えたからこそ今の活躍があったのだ。タナキクマル鈴木はそういった彼らの象徴なのだ。
 チーム瓦解の背景にはそういった影の男達が全くいなくなってしまった、いわゆる2000年から2010年までのドラフトの失敗がかなり首をもたげてくるだろう。本来ならばその影の男達に岩本貴裕、鈴木将光、中村憲といった、特に00年代後半の選手が入ってこなければならなかった。だがそこで元気だったのは松山と安部のみであった。それ以外はほぼみんな消えてしまった。00年代ドラフトの失敗はそこまで足を引きずる事になってしまったのだ。
 その後はご存じの通り、田中に復帰のめどがたたないまま小園海斗や坂倉の台頭などにより、また新しいチームが生まれようとしている。その中で鈴木誠也がポスティングでアメリカに行くことがほぼ決まっている。そのためにまた魅力のないままシーズンを迎え入れるのだろうな、と思われているファンも多い。
 しかし私はここが一つのチャンスだと思っている。
 もはやタナキクマルは崩壊した。そして鈴木も去った。ならば新生タナキクマルのような打線を生み出してもいいのだ。
 勿論簡単に出来るものではないだろう。しかし小園、坂倉だけでなく羽月隆太郎、大盛守、宇草孔基といった新しい時代を担う存在が出てきているのも本当だ。またファンは落ちぶれてしまった薮田、岡田の復活を待っているだろうし、今年の新人中村健人、末包昇大の存在だって面白い。
 完全に崩壊した今だからこそ新しい道を作れるタイミングであると思うのだ。
 だからこそ、三連覇を教訓として広島カープには頑張ってもらいたい。

≪参考にしたもの≫
 NPB公式ホームページ
 Wikipedia
 日本プロ野球記録(ウスコイ企画)
 スタメンデータベース

この記事が参加している募集

#野球が好き

11,420件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?