見出し画像

親愛なる、大切な 茫漠とした溝

 親愛なる溝

最近あった出来事と思い出したこと考えたこと

私のバイト先は今をときめくバリバリのベンチャー企業で、社員さん達は理論派系のビジネスマンだが、皆若くて好奇心が強く聡明だ。
私の制作活動についても、逃げ腰にならずに興味を持ってどんどん聞いてきてくれる人が多い。

先日も社員さんの1人が、「どういう時にうまく行ったなって思うんですか?」と質問してきてくれた。
先に言っておくと、私はビジネスマンにこういう質問をされるのは嫌いではない。(当然だが、それはもちろん聞いてくる相手による。)

彼がいうには、ビジネスだと売り上げが伸びたとか顧客満足度が上がったとか、任されているオペレーションの仕組みを改善して作業効率を上げれたとか、分かりやすくやりがいに繋がったりすると思うが、
作品を作ってうまく行ったやりがいあるなって、どういう時に何を基準にして思うものなのか、と気になったんだそうだ。

彼らからしたら、やっぱり我々がやっていることは不思議な行為に見えるのだろうなと思った。
お金になるわけでもなく、誰かに頼まれているわけでもないのに、人生の大半の時間を使い、体調を崩してまで消耗して、一体何故、何をやっているんだろうと。

私は生真面目なので、こうやって1対1で質問を受けたら、相手の立場から理解が進むようなポイントを踏まえて答えられれば、と思うタチである。やっぱり分かってもらえたら嬉しいし。
しかしこういう質問に対して、彼らの持つ視点(資本主義でのお商売思考の視点)に寄り添った答え方をするのは、言うまでもなくとても難しいのだ。

その視点に合わせて答えようとすると、本当ならもっとシンプルだったものを、どんどん捏ねくり回さなければならなくなってしまうことに、何となく気づいた。


最近、TBSのTVドラマ『半沢直樹』を家族が見ていたので、私もチラ見したのだが、
私は登場人物の大手銀行社員の彼らが憎み合い、蹴落とし合い、金を奪い合い、仕返し合うのを見ていて、さっぱり分からずポカンとしてしまった。

いったいこの人達は、人生に於いて何を目的にこんなに躍起になっているのか、何故こんなにエネルギーを消耗しているのか、サッパリ理解出来なかった。
1話も見切れないうちに飽きてしまった。しかしこれが日本全国で共感を呼んだ人気ドラマなんだよなぁと、理解できなかった自分を複雑に思いながら。

主人公が子会社に流された後もネチネチ悪態をついてくる親会社の重役。こんなくだらんネチネチした人間が居る会社、さっさと辞めたったらええのに。
他にいくらでも人生あるって。こういう人間は自分の人生から極力排除したい。出来るだけ早く、この世に居ないことにしたい。
とか、すぐ考えてしまう。そもそも論へまっしぐら。ドラマとして成立しない。

ちょっと大げさかもしれないが、
資本主義お商売思考に慣れた人々が我々の行為を不思議そうに観るは、
私が『半沢直樹』の登場人物のことを摩訶不思議に思うことと同じなのだろうと思う。

その「資本主義お商売をベースにした思考」が何なのかも、卒業後この5年くらいでやっと、なんとなく理解した。
学生のときはそれを理解しないまま、就活も経験だと思ってちょっとだけやってみたりして、当たり前だけど直ぐ落とされた。
なんで自分の考え方が社会で通らないのか。決してふざけてないし、どちらかと言えば真面目に頑張る方だ。

当時は世の中のビジネスマンが全員宇宙人のように見えていた。

これはどちらの方が良いとか、悪いとかの話ではない。
そもそもが全然違う。ただそれだけ。
今はあのころよりもそれが分かる。

だから今は彼らと話すのもずっと楽しい。

(それなりに自分も成長したんだと思う。が、それでも『半沢直樹』は全然分からなかった。ここまできたらたぶん一生無理。)

テキスト・写真:町田藻映子

画像2

この記事について

インスタレーションアーティストの土居大記と、絵描き・ダンサーの町田藻映子によるコラボレーション展示の企画『濡れた地蔵』(@海老原商店)。展示は開催延期となってしまいましたが、展覧会までの間、2人のワークを写真と言葉の綴りでnoteに掲載してゆきます。

この企画のプロフィール記事はこちら➡︎https://note.com/nurejizouproject/n/n847d5add36c9

プロフィール

土居大記 (Hiroki Doi)
学生時建築を学び、卒業設計を機にアーティストになる。”美しいは生ものである”という考えから制作している。
自然現象を素材としてインスタレーションやパフォーマンスを行っている。
常にまわりで起り続けている小さな変化を抽出して振り付けることが作品の主軸にある。それらの空間では気づくことが連鎖する。即興である。ダンサーとの共同制作も行っており、自身も制作の過程で身体表現のメソッドなどを経験している。
主な表現媒体はインスタレーション、パフォーマンス、写真、詩、製本。
HP https://www.hirokidoi.com/

町田藻映子(Moeko Machida)
京都市立芸術大学大学院修了。「生命とは何か、人間とは何か」を主題に、岩石やそれに関わりの深い生物・人の文化に焦点を当てて絵画制作を行う。かねてより、身体を通した主題へのアプローチを重視し、コンテンポラリーダンスと舞踏を学ぶ。『私が石ころを描き続ける理由』についてはこちらにまとめています。
個展「生きる者たちを想う為」(GALLERY TOMO(京都)2019年)、「名前を知らない死者を想う為」(GALLERY b. TOKYO(東京)2019 年)、「MoekoMachida Solo Show」(Marsiglione Art Gallery(イタリア)2017 年)等を開催。「シェル美術賞展2018」( 東京) 入選。「飛鳥アートヴィレッジ2017」( 奈良県明日香村) 参加。
HP  https://www.moekomachida.com
Instagram  https://www.instagram.com/moeko_machida/

※このnote記事上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮くださいませ。
©︎ 土居大記・町田藻映子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?