日記:実在性アイドル
今日は「アイドルマスターシャイニーカラーズ」の公式Twitterアカウントで、作中のアイドルユニット・ノクチルが1日つぶやきを担当するという企画が実施されていた。同様の取り組みは何度か行われていて、直近だと7月にも同じく作中のアイドルデュオであるSHHisがTwitterを更新していた。
シャイニーカラーズ(シャニマス)はそのシナリオの緻密さが話題に上ることが多いのだけれど、今日の企画もその語り手としての技巧が存分に散りばめられていたという気がする。
人間は、言葉を口に出して喋るときと、SNSなどで文章を打ち込むときとでは、それを言葉に起こして比較するとかなり違うものになる。話すようには書かないし、書くようには話さない。発話による表現と文字による表現は別のもので、両者を使い分ける現代人はその間に懸隔が生まれる。
それは割と当たり前のことだったりするのだけれど、ゲームのキャラクターになってくると話は変わってくる。作中の人物が声に出して話す言葉も、何かに書き付けられた言葉も、どちらもゲーム内では文字情報として表現されるからだ。だから、文章にしたときに表出しづらい感嘆詞や笑い声なども、ゲーム中のテキストでは一様に表現される。だからといって、キャラクターの話す言葉がそのまま文章での表現にも表れるということはない。要するに、ある人物がSNSに投稿する文章を表現するとき、それは話し言葉と必ずしも一致しないのである。
この違いにシャニマスはかなり意識的で、例えば芹沢あさひというアイドルが目上の人物に対して話す言葉は、「~っす」と崩れた敬語のような口調を用いてテキスト上に表現される。しかし、あさひがSNSへと投稿する描写があった際には、その文章は「~です」という綺麗な丁寧語になっていたのである。あさひさんはいつも敬語で話していて、それが口頭で用いられるときに崩れて聞こえるだけなのかもしれない。とにかく、そういう違いもこれまでシャニマスは表現してきた。
さて、シャニマスはプレイヤーがプロデューサーとなってアイドルと関わっていくというゲームシステム上、実はアイドルがファンに向けて活動している姿を目にするということは少ない。作中においてアイドルが見せるのは多くがプロデューサーに対しての言わば「裏」の顔であり、作中世界におけるファンから見たアイドルの姿、というのは実は部分的で想像に任せるほかなかったりする(もっとも、これはアイドルマスターシリーズに限らず、アイドルを題材にした作品全般に言えることかもしれない。映し出されるのはアイドルがいかに努力を重ねてきたかという物語であり、それは本来ファンである人間が目にすることのできない裏方であるはずだ)。
なので、今日のような企画は、アイドルが普段ファンに向けてどのような発信をしているのかということを知ることのできる貴重な断片であり、もっと言えば普段プロデューサーとしてアイドルに対し厳粛に向き合っているという殻を捨てて、彼女たちのファンとして投稿を楽しむまたとない機会なのである(別に普段からアイドルたちの魅力に撃ち抜かれ続けてはいるのだけれど)。自分のTLの観測範囲でも、シャニマス世界におけるファンとしての振る舞いに身をやつしているというアカウントも見かけたし、公式Twitterが更新されるたびに実際にアイドルに向けられるようなリプライを飛ばしている様子も見受けられた。こういう祭りごとは、参加してその熱狂の渦に身を任せるのが楽しい。
今日の投稿を担当したノクチルというユニットは、幼馴染4人で構成されているという特色を持つ。勿論、彼女たちの間でSNSに対する習熟度も異なるであろうから、その違いがどのように表れるのかと気になっていると、投稿は4人で分担することなく、殆ど市川雛菜さん1人で担当していた。雛菜は作中でもSNSを上手く活用している様子が描かれており、また1日の途中でわかったことだが投稿用の端末を渡されているというようだったので、4人の中で誰がそれを持つのかという段になった際に彼女に白羽の矢が立ったのであろう。そのとき、他の3人はどのような反応をしたのだろうか。そういう背景を妄想しながら投稿を追いかけていく。普段のゲームのシナリオであれば、そういう背景の描写を目にすることになるのだろうけれど、今回はちょうど表裏一体のように反対側を見ている。今までの裏側を知っているからこそ、そこに演繹的に思いを馳せることができる。
雛菜はプロデューサーとの会話においては、興味のある分野に注力することが多かったり、過剰なトレーニングを行わなかったりと、ともすれば享楽的で「もしかしたら真面目に取り組んでいないんじゃないか……?」と思ってしまうような振る舞いを見せることがある。しかしそれは彼女が「やりたいこと」「やりたくないこと」を明確に自覚していることの現れであり、「やりたいこと」をやるためにその区分けを行使するという意思の強さを示している。
事実、今日の更新で一番「仕事」をしていたのは雛菜だった。夏の終わりに際した思いを吐露する率直で共感を呼ぶ投稿を行い、質問を募集する際にはその温度感をはっきりとファンに伝え、メンバーから質問の答えを募集するとともに日常を過ごすノクチルの姿を知らせ、質問へのメンバーの回答や締めの挨拶までを淀みなく進行する。投稿の端々にファンに対する目配せを持たせつつ、その言葉からは彼女自身が何より夏の終わりの1日を楽しんでいるという明るさが伝わってくる。今日の企画の形態というものもあるだろうけれど、今日1日の企画に、隅々にまで配慮の行き届いた雛菜の辣腕が大きく寄与していたということは、背景を穿とうとする自分の悪癖とは言えそこまで外してはいないのだと思う。
普段はプロデューサーに対して緩く楽し気に話す雛菜が、SNS上では楽し気であることを存分に伝えながらも、ファンが求めるであろう発信を適切に熟すという姿に気付くことができたのは、Twitterを通して彼女を見るという今回の企画ならではの喜びだったと思える。明日更新のイベントシナリオでは、ノクチルの面々のどのような姿を垣間見ることができるのだろうか。今まで以上に楽しみでならない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?