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リバティアイランドっていうお馬さんがいましてね

女の子のお馬さんなんですよ。
競馬っていう、お馬さんが18頭ぐらい集まって、わ〜ってレースするスポーツで活躍してる女の子なんですよ。

彼女のデビュー戦は強烈で、とにかくめっちゃ足が速かったのです。具体的には、レース最後の方でJRA史上最速の記録を叩き出したのです。それはもう、ちょ〜〜〜ぜつに速かったのです。

怪物が出てきたという高揚感と、いやまだデビュー戦を勝っただけだという冷静さが混在します。お馬さんレースの世界では、デビュー戦で凄まじい勝ち方をした馬がそれ以降はさっぱり、みたいなケースは割とあるあるだからです。

実際、彼女はその次に走ったレースで負けてしまいます。負けた、と言っても2着ではあったのですが、負けは負けです。最後の直線、進路を塞がれてしまったが故に、彼女は自慢の足の速さを活かせませんでした。

とはいえ、単純な実力で真正面から負けた訳ではありません。とはいえ、彼女の実力に疑問符をつける余地は生まれてしまいました。負ける時は負けてしまうのです。さぁ果たして彼女は本当に怪物なのか?

G1という一番大きなレースがあります。
年に何回かしか行われない、現役最強クラスのお馬さんが勢ぞろいして、1着目指して熾烈な競争を繰り広げる。G1を勝った、という事実はお馬さんにとって、そのお馬さんに関わったあらゆる人たちにとって、最高峰の栄誉なのです。

そんなとても大きなレースで、彼女は弾けました。

彼女は最後のコーナーを回ってきた時点で、お馬さんの群れの一番外側にいました。その光景を見た瞬間、僕は勝ちを確信したのを覚えています。なぜなら、彼女の進路を遮る存在はそこにいなかったからです。彼女はまるで跳ねるように地面を蹴り上げ、猛烈な勢いで先頭に立つと、そのまま芝の上を走り抜けました。

終わってみれば3馬身差の圧勝。
しかも余裕すら感じさせる楽勝でした。
まだ本気を出していない、まだ完成していない、底知れぬ魅力を見せつけたレースでした。

競馬の世界には"クラシック"と呼ばれるレースが存在します。3歳しか走ることを許されない、つまり一生に一度しか走れないレースです。

発表された彼女の次走は、桜花賞。
伝統と格式に包まれた、偉大なクラシックの一角。 
彼女はそんなレースに挑もうとしていました。

さて、そんな彼女を他のお馬さんが黙って見ていた訳ではありません。

クラシックには前哨戦と呼ばれるレースが存在します。桜花賞目指して、その前哨戦を次々と有力馬が勝ち上がってきます。ただ、例年と異なるのは、それでもリバティアイランドの一強ムードが崩れなかった所にあります。

彼女はそれほどまでに期待されていたし、実際に強かった。だから当日、桜花賞のオッズは彼女を1.6倍の位置に留めたのです。

桜花賞、僕は3万円ほどのリバティアイランド単勝馬券を握りしめて、競馬中継を眺めていました。馬にも、僕自身にも、不安がいっぱいありました。

リバティアイランドは内枠、つまり他のお馬さんに包まれてしまいやすい、つまり彼女の負けパターンである"進路無し"の状態になりやすい位置からのスタートになりました。更に当日の馬場状態も彼女に牙を剥きます。彼女は後ろの方からレースを進めて、最後の方で一気に前を抜き去るという戦法が得意なのですが、当日はそれが決まりにくい状態でした。

私事ですが、僕も体調が悪いわ、直前に色々とミスしてしまうわ、仕事が嫌で嫌でたまらないわ、根源的な不安に襲われるわ……と色々とアレでした。

閑話休題、プペポピーとファンファーレが鳴り響き、桜花賞に出走するお馬さんが次々とゲートに収まっていきます。

ガコンとゲートが開き、うら若き乙女たちが走り始めます。リバティアイランドはどこだ?

彼女は後方、言ってみれば割といつもの位置を走っています。でも今日の馬場は……?それで大丈夫なのか……?前に届くのか……?

最終コーナー、彼女は大外を回り、最後方に位置しています。前は熾烈な争いが繰り広げられ、大勢が決しつつあるように見えます。届くのか?本当に届くのか!?

鞍上の川田将雅ジョッキーは極めて冷静に、リバティアイランドに指示を出します。そして彼女はゆっくりと、しかし激烈な勢いで加速していきます。後方からレースを進めていた他の馬はもう絶望的だ、本当だったらリバティアイランドだってもう厳しい位置だ。しかし彼女は常軌を逸したスピードで先頭を捉えようとしている。

気が付けば彼女は先頭でゴール板を駆け抜けていました。最後方からの直線一気、しかも馬場は向いていないのに。ありえない事でした。

あらゆる不安要素を吹き飛ばした……というより、自分のレースをしたら不安なんて存在しなかった。怪物の誕生を目の当たりにして、僕は震えていました。不安なんてなくなった、訳ではないですが少し晴れやかな気持ちになりました。

そんなリバティアイランドというお馬さんが、今日の桜花賞を勝つまでのお話です。彼女はバリバリ現役で走っています。そんな彼女を推してみませんか?

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