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受胎告知【待降節】【ルカ1:26-38】【やさしい聖書のお話】

2022年12月11日、待降節(アドベント)第3日曜日の聖書のお話です。

マリアへのお告げ

先週のお話は、祭司ザカリアに天使ガブリエルが「あなたの妻エリサベトが赤ちゃんを生む」と告げた場面でした。今日はそれから六か月目に、ガブリエルがマリアに「あなたが男の子を生む」と告げた場面です。
この場面は「受胎告知」といわれて、たくさんの画家が作品にしてきました。

エル・グレコの「受胎告知」1590

エル・グレコは何枚も受胎告知を描いていて、そのうちの一枚は日本の大原美術館にあります。

エル・グレコ「受胎告知」岡山県,大原美術館
エル・グレコは何作も「受胎告知」を書きましたが、これは1590年の作品。

エル・グレコに限らず、受胎告知の絵では
「マリアの手元に本がある」
「マリアの純潔を象徴する、おしべのない白ユリが描かれる」
などの"お約束"があります。
マリアが読んでいるのは聖書で、処女降誕の預言が書かれているイザヤ書7章14節ページだということになっています。

それゆえ、わたしの主が御自ら
  あなたたちにしるしを与えられる。
見よ、おとめが身ごもって、男の子を生み
その名をインマヌエルと呼ぶ

イザヤ書7:14(新共同訳)

この個所は「インマヌエル預言」と呼ばれます。マリアの時代から700年くらい前に主が告げたことです。
まだ結婚していない女が、男の子を生む。
その子はインマヌエル(神は私たちと共に)と呼ばれる。
それがあたたちダビデの家、つまりユダヤ人へのしるし、わたしが神である証拠だ。
ということが預言されています。

そこをマリアがちょうど読んでいた時、という絵になってるのだけど、それは画家たちの想像ね。
こうした絵はイエス様の時代から千数百年もあとになって描かれているので、画家たちは聖書が伝えていないところはいろいろと想像しながら描いたんです。
時代考証といういことでは、マリアの時代の聖書は、現代の本のようなかたちじゃなくて巻物だったし、マリアのような普通の庶民は文字を読めなかったと考えられています。聖書は読むものではなく、会堂で聞いておぼえるものでした。

でもそうしたことは、この絵が間違っているというのではなくてね。それを言い出したらマリアが白人なのもおかしいし、天使が白人で金髪だなんて聖書には書いてない。
それどころか、天使に翼があるなんて聖書に書いてないからね。聖書では、翼がないのが天使、翼があるのはセラフィムとかケルビムと呼ばれている。芸術家たちが天使に翼をつけるのは、作品を見る人に「これは天使だよ」って伝えるためなんだと思う。
中世ヨーロッパでは字を読める人がとても少なかったので、教会などに飾られる宗教芸術は「聖書に書かれていることを、文字を読めない人に伝える」という役割があったんだ。マリアがインマヌエル預言を読んでいたとか、純潔を象徴する白ゆりとかの"お約束"も同様です。

エル・グレコの「受胎告知」1608

福音書を読んでも、マリアは、天使が現れたことにまったく驚いた様子がないんだ。こんな翼がある天使が現れたら、普通は驚くよね。聖書を知っているユダヤ人なら「神の天使が現れたなんて、私は神に裁かれるようなことを何かしてしまったのだろうか」と恐怖してしまう。
でも、旧約聖書でも、天使が現れた場面で天使だと気付かなかった人も多いんだ。
実はエル・グレコも、ガブリエルが雲に乗って浮かんでるように描いていたのが、のちの作品では床に立ってるんだ。

エル・グレコ「受胎告知」スペイン,プラド美術館
1608年の作品で、ガブリエルは(翼はあるけれど)宙に浮かず床に立っている。

グレコも途中で「あれ?聖書だと天使は翼で飛んだりしてないよな」って気付いたのかもね。ただ、それが天使だよという目印として翼をつけてる感じかな。

ダヴィンチの「受胎告知」

ダヴィンチの「受胎告知」も有名だけど、翼はあるけど全然とんでない。そしてマリアはやっぱり聖書を読んでいる。エル・グレコの作品だとマリアは「え?なに?」て感じもあるけど、ダヴィンチはマリアが平然としてる感じ。

レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」

ただ、天使ガブリエルの登場では驚かなかったマリアも、「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」と言われると「マリアはこの言葉に戸惑い、いいたいこの挨拶は何のことかと考え込んだ」んだ。
そこで天使はすぐにフォローを入れる。
「恐れないで。戸惑ったり考え込んだりしなくていい。さっきの挨拶は、実際にあなたが神から恵みをいただく、というか、もう恵みをいただいているからなんだよ。どういうことかというと、あなたは男の子を生むんだ。その子は神の子と呼ばれる。その子は、ユダヤのみんなが待っていた救い主なんだ。だからその子をイエス(主は救い)と名付けなさい」

だから画家たちは、マリアがイザヤ書のインマヌエル預言を読んでいた、という設定で描いたんだ。

クリヴェッリ「聖エミディウスのいる受胎告知」

受胎告知ではぼくはクリヴェッリの作品が「聖霊があなたにくだり、いと高き方の力があなたを包む」感が具体的でおもしろいなと思います。エル・グレコの作品では光の中を降りてくる鳩の姿で聖霊を表現しているのだけど、クリヴェッリは抽象的というかSF的というか。
この作品でもマリアはイザヤ書を読んでるね。

クリヴェッリ「聖エミディウスのいる受胎告知」ロンドン,ナショナルギャラリー。
天空からの光がマリアに差し込み「聖霊があなたにくだる」を表現している(UFOではない)

画家たちは、受胎告知は「預言されていたことの実現」だと理解して、イザヤ書の預言の言葉と結び付けようとしたんだろう。

一方そのころ

ガブリエルは最後に、「マリアの親戚のエリサベトは年をとっているのに、男の子を生もうとしている。もう妊娠6か月だ」と告げます。それが、救い主を生むマリアへの証拠だというのです。

前回、洗礼者ヨハネというのは、救い主より先に現れて「救い主を迎える準備をしなさい」と告げる人だったというお話をしましたが、ヨハネは生まれたのもイエス様より6か月早かったことになります。
それでクリスマスイブの6か月前、6月24日が「洗礼者聖ヨハネの記念日」となっています。

さて、エリサベトのことを聞いたマリアは、エリサベトに会いに行くのだけど、それは来週のお話です。じゃ、また来週。

動画版のご案内

このnoteの内容は、2022年12月11日、アドベント第3日曜日の教会学校動画の原稿を加筆・再構成したものです。
動画版は毎回6分ほどの内容です。下記のリンクからごらんいただくことができます。
キリスト教の信仰に不案内な方、聖書にあまりなじみがない方には、説明不足なところが多々あるかと思いますが、ご了承ください。

動画は千葉バプテスト教会の活動の一環として作成していますが、内容は担当者個人の責任によるもので、どんな意味でも千葉バプテスト教会、日本バプテスト連盟、キリスト教を代表したり代弁したりするものではありません。このnoteの内容は完全に個人のものです。


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