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【 #いい会社帳 no.05】ガーディアン(B Corp) - メディアの独立性を守るための構造が特徴

#いい会社帳_ガーディアン

世界の“いい会社”のことを調べて紹介する「#いい会社帳」第5回は国際的な大手メディア機関であるGuardian Media Group(ガーディアン・メディアグループ(GMG))を取り上げます。

「#いい会社帳」についてはこちら↓


組織概要

組織名 :Guardian Media Group plc(GMG)

所在地 :ロンドン

設立  :新聞「The Guardian」の起源となる「The Manchester Guardian(マンチェスター・ガーディアン)」の創刊は1821年

事業  :主として新聞「The Guardian」の発行とデジタルニュースメディア「theguardian.com」の運営

収益源 :読み手によるサポート(定期購読含む)(50%)、広告、人材広告、慈善パートナーによるサポート(ビルメリンダゲイツ財団など)

設立経緯:
1819年にマンチェスターで起きた「ピータールーの虐殺」と呼ばれる民衆弾圧事件を受けて、リベラルな価値観を振興するために新聞「マンチェスター・ガーディアン」が創刊された。

★特徴 :メディアとしての独立性を担保するためにThe Scott Trust(スコット・トラスト)という私企業が唯一のGMGのオーナー(株主)という形をとっている。(※下記で詳細説明)

メディアに関するデータ(2017-2018年):
有料サポーター:57万人
うち新聞&デジタルメディアの購読者数:27万人
ページビュー:約122億

B Corp認証取得:2019年10月(世界的なメディア機関としては初)

B Impact Score(※):86.2
(※)B Impact Assessment(社会や環境へのパフォーマンスを測るアセスメント)のスコア。認定B Corpになるためには80以上のスコアが必要。


ガーディアンの独立性を担保する「スコット・トラスト」とは

The Scott Trust(スコット・トラスト)は、ガーディアンの財務上&編集上の永続的な独立性を守り、またガーディアンの「リベラル」な価値が商業的・政治的な干渉を受けるのを避けるために、1936年に設立された会社です。

スコット・トラストは、ガーディアン・メディア・グループ(以下GMG)の唯一のオーナーで、利益はジャーナリズムのために再投資され、株主を儲からせるために使うことはないといいます。

【スコット・トラストの設立経緯】

「マンチェスター・ガーディアン」が創刊された後、1872年から長年にわたって編集長を務めたCP・スコットは同紙の評判を上げ、成長に貢献しましたが、1929年に引退すると、息子のジョンに経営を、テッドに編集長を任せました。

ところがCP・スコットとテッドが相次いで死亡すると、マンチェスター・ガーディアンの独立性は危機に瀕したと言います。

国税庁がジョンが死んだ際には全ての相続税を渡すようにと要求してきたので、ジョンは全ての財務上の利益を普通株としてグループの受託会社に移すことで放棄し、スコット・トラストはマンチェスター・ガーディアンのオーナーとなりました。

【スコット・トラストの目的】

ガーディアンの財務上&編集上の独立性を永久に保証すること:支持政党を持たない質の高い全国紙として;リベラルな流派に忠実であり続けること;効率的で費用対効果の高い方法で運営する営利企業として。

・すべてのアクティビティは中心の目的に沿うべきである。トラストが所有する会社は:利益が中心の目的を前進するために使われるよう運営すべきである;トラストのバリューと原則とに反するようなアクティビティに投資すべきでない。

・トラストのバリューと原則はグループ全体で守られるべきである。イギリスであれ他の地域であれ、子会社の株は、報道とリベラルなジャーナリズムにおける自由という大義を促進するためにある。


ガーディアンの投資原則

ガーディアンとしての価値を守るために、上記のような組織構造に加え、「投資原則に関する声明(STATEMENT OF INVESTMENT PRINCIPLES)」を公開しています。

これによれば、「長期のリターンというのは、強固でよく機能しよく管理された社会・環境・経済システムに依存する」とあります。そうした信条に基づき、ガーディアングループとしてのサステナビリティ・フォーカスとして以下の3つを上げています。

・編集面&財務面の独立性
・環境に対する責任
・社会正義へのコミット

また、投資の意思決定プロセスにおいて環境、ソーシャル、ガバナンスに関する問題を考慮することは、結果的に長期の財務的リターンにつながるとも述べています。


環境宣言

ガーディアンは、2019年10月に認定B Corpになるのと同じ頃、「環境宣言(The Guardian's environmental pledge 2019)」を出しました。

・世界中でその品質の良さと独立性で知られる、パワフルな環境に関するレポートを続けます

・環境の崩壊が、自然災害や極端な天候など、いかにすでに世界の人々に影響を与えているかについてレポートします

・我々が最中にいる危機の深刻さがわかるような表現(言葉)を使います

・ガーディアンは2030年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成します

・我々の進捗について透明性を持って報告します

・化石燃料採取企業による広告はもう受け付けません

宣言はありますが、現時点で環境パフォーマンスに関するレポートはまだ出ていないようです。


多様性、公平性、インクルージョン

ガーディアンは、意味のあるジャーナリズムと、読み手やコミュニティに対して報いるために、組織の多様性を改善することが重要であると考えています。

多様性に関するステートメント
「我々は、ガーディアンのすべての人々のすべての違いを尊重します。インクルーシブな労働体験と、人々が平等にキャリア形成の機会へのアクセスがあり、彼らの声が無視されず我々の未来に貢献していけるような環境を目指します。」


人種アクションプラン(Race action plan)

人種アクションプランは、ガーディアンUKで2020年9月に従業員に対して公表されたものです。タグラインには、

我々はもっと多様でインクルーシブな雇用者になることにコミットします

とあり、以下のような項目が挙げられています(一部抜粋)。

・組織全体を通じてリプレゼンテーションを改善し(少数派の人々の割合を増やし)、人種による賃金格差を減らします。

我々の採用プロセスはフェアで、オープンで、透明性をもち、人材の多様なルートを育てていきます。

多様な人材がすべてのレベルで輝けるよう成長をサポートする人材開発プログラムを提供します。

メディア業界における包括性(inclusivity)への貢献にコミットする。

それぞれについて、より具体的なアクションプランを記載しています。例えば、

・すべての面接候補者リストにおいて少なくとも一人のBAME候補者がいるようにする。(※BAME...Black, Asian and minority ethnic)

・すべてのマネージャーとスタッフに対して、新しいアンチレイシズムに関するトレーニングを導入する。

・毎年BAMEの賃金格差に関するレポートを出すことを続ける。

・少数派コミュニティの才能ある若い人がメディアセクターで経験を積むのを助けるために、編集色以外の有給インターンシップの数を二倍にする。

など


また、賃金格差などについてのレポートをサイト上で公開しています。

人種による賃金格差レポート(2019)

データ
従業員のうちBAMEの割合:17%
BAMEの賃金格差:14.9%(中央値)
など

ゴール
・毎年人種による賃金格差を減らす
・5年以内に会社の中でBAME従業員を20%にする
・5年以内に会社内で賃金トップ2/4に入るBAMEを20%にする

詳しくは実際のレポートをご覧ください。


男女の賃金格差レポート(2019)

データ
男女賃金格差:4.9%(中央値)(2018年:8.4%)

ゴール
・毎年男女の賃金格差を減らす
・会社の中の賃金上位半数における女性の数を増やす
・5年以内に、上位半分のジェンダーバランスを50:50にする

その他、過去に掲げたアクションプランと、それに対する進捗についてもレポートしています。

詳しくは実際のレポートをご覧ください。


The Guardian Foundation

The Guardian Foundation(ガーディアン財団)は「少数派の人たちの声のためにメディアへのアクセスを増やすことを目的とした独立した慈善団体」です。

ビジョン
人々が自分のストーリーを語り、真実にアクセスし、説明する力を持てるような世界

ミッション
危機に瀕している独立メディアをサポートし、メディアの多様性を促進し、子供や若者たちがニュースに関わることをエンパワーする

このような信条に基づき、子供のニュースリテラシーを向上させる「NewsWise」、少数派グループからのジャーナリストをサポートする「Scott Trust Bursary」、独立メディアのためのインキュベーターなど様々なプログラムを実施しています。


まとめと所感

ガーディアンのユニークなところはなんといっても、スコット・トラストの存在です。当時「そうしなければガーディアンの独立性は保たれない」と感じ行動に移したのは、非常に鋭かったのではないかと感じます。

ガーディアンは、もちろん営利企業として効率性を追求することは重要であると考える一方、「株主の利益を最大化する」ことに注力することなく自分たちの目的に徹することができているのは、組織構造によるところが大きいのではないかと思います。いかに先人たちがジャーナリズムとしての信条を熱く語り継いでいたとしても、もしそれだけだったら外部の圧力に屈する場面が出てきてもおかしくなかったと思うのです。

そうした組織構造に裏打ちされたガーディアンの哲学はとても強固なものであり、あらゆる場面で使命を果たそうとしていることが伺えます。そんなガーディアンがB Corpの認証を取得し、目的のために行動する会社であることを内外に示すのは理にかなった行動であると思います。

今回の調査の中で、特にガーディアンの優れていると感じたところは、多様性とインクルージョンに対する取り組みです。この特集で過去4つのB Corp認定企業を調べてきましたが、賃金格差のデータをここまで明らかにし、具体的な目標を設定しているところはなかったと思います。

環境についてもメディア企業らしい素晴らしい宣言を出していますが、今のところ実績レポートは見つけられなかったので、今後パフォーマンスレポートが出た際には改めて加筆したいと思います。

今回のガーディアンも、前回のilly同様、多くの資料やテキストが散在していました。透明性を意識して外部(読者)に向けてデータや取り組みを公開しているものもあれば、内部に向けてカルチャーを醸成する目的などで書かれているものもありました。

これまでの調査を通じても、やはり透明性高く情報を公開していることは「いい会社」の条件であるようです。


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